X線CTで、ポット植え作物の根を非破壊で可視化することに成功

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迅速・非破壊・簡便な根の可視化が実現、イネ等の作物の根の形が改良可能に

2020-07-16 農研機構

ポイント

農研機構とかずさDNA研究所は、X線CT1)を応用し、土中の作物の根を非破壊で迅速・簡便に3次元的に可視化する技術を開発しました。根の形は養水分の吸収効率に影響し、作物生産に大きく関わる農業上重要な特徴です。しかし、その評価には多大な労力がかかることから、これまで根の形の品種改良はほとんど進んでいませんでした。今回、X線CT撮影条件と画像処理技術を最適化することにより、ポットに植えたイネの根を十数分で可視化することに成功しました。本成果は、根の形の品種改良をはじめ、根の生育診断による個々の農地に合った最適品種の選定など、農業分野での幅広い活用が期待できます。

概要

X線CTで、ポット植え作物の根を非破壊で可視化することに成功

昔から「根深くして葉繁る」と言われるように、根は作物生産にとって重要な器官です。しかしこれまで、根菜類以外の、イネやダイズなどの作物において、可食部でない根の改良はほとんど進んでいませんでした。通常、品種改良の際は優良個体を選抜するために数千~数万個体の調査が必要ですが、土中にある根を掘り起こし、洗い出すには多大な労力がかかり、多数個体の調査が不可能だったためです。
今回、農研機構とかずさDNA研究所の研究チームは、一般的には医療診断や機械部品の非破壊計測等に使われる「X線CT」を応用し、ポットに植えたイネの根を掘り出さずに12分(CT撮影時間10分+画像処理時間2分)で3次元的に可視化する技術を開発しました(図)。これまでもX線CTによる根の可視化の試みは行われていますが、可視化に数時間かかり、多数個体の調査には適していませんでした。
本技術により、根の形の非破壊・迅速・簡便な可視化が実現し、イネ・ダイズ等の根の形の品種改良が可能となりました。また本成果は、イネ以外の作物への利用や根の生育診断など、農業分野での幅広い応用が期待されます。本成果は、国際科学雑誌「Plant Methods」(2020年5月11日発行)のオンライン版に掲載されました。

関連情報

予算:JST戦略的創造研究推進事業、研究領域「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出」

問い合わせ先

研究推進責任者 :農研機構次世代作物開発研究センター 所長 佐々木 良治

研究担当者 :同 フィールドオミクスユニット 宇賀 優作、寺本 翔太

かずさ DNA 研究所 先端研究開発部 植物ゲノム・遺伝学研究室 七夕高也

広報担当者 :農研機構次世代作物開発研究センター 広報専門役 大槻 寛

詳細情報

開発の社会的背景

根は作物生産に大きく影響する重要な器官です。例えば、根が深いイネは干ばつ時に土壌深層の水や窒素を吸収するのに有利であり、根が浅いダイズやトウモロコシは冠水時に地表の酸素を得やすく根腐れが起きにくい傾向にあります。今後、地球規模の環境変動により気候の極端化現象がますます加速することが予想され、日本国内においても根の形の改良が今後重要になってきます。
これまで根菜類以外の、イネやダイズなどの作物において、可食部でない根の改良はほとんど進んでいませんでした。通常、品種改良の際は優良個体を選抜するために数千~数万個体の調査が必要です。土中にある根の形や生長の様子を調べるには、根を掘り起こし、洗い出す必要がありますが、これらの作業には多大な労力がかかるため、多数個体の調査が不可能だったためです。そこで、”土中の根の形”を非破壊・迅速・簡便に観察する手法が求められていました。

研究の経緯

見えない物体の中の構造を観察する手法の1つに、X線断層撮影(X線CT)があり、工業・医学の分野で幅広く使用されています。ポットで栽培した植物の土中の根についても、これまでに海外でX線CTを用いた可視化が試みられていますが、可視化に数時間かけて詳細な画像を得るという方法であり、多数個体の調査には適していませんでした。また、長時間の撮影は植物体の生長への悪影響があります。
今回、農研機構とかずさDNA研究所は最新のX線CTを導入し、またX線CT撮影と画像処理技術の最適化を行うことにより、”土中で3次元的に生長する根の形”を非破壊・迅速・簡便に可視化する技術を開発しました(図1)。

研究の内容・意義

1.X線CTを使い、ポットに植えたイネの根を掘り出さずに12分(CT撮影時間10分+画像処理時間2分)で3次元的に可視化する技術を開発しました(図2:CT撮影の様子、図3:得られた3次元画像)。

2.大きなポットに植えたイネに対応:
本技術では、最大で直径20cm、高さ25 cmの栽培ポットに植えたイネの根を可視化できます。細かい根(側根)の可視化は省略し、”根の形”を決定する種子根と冠根2)のみを可視化するようX線CTの撮影条件(管電圧・管電流・土の種類など)を最適化することで、大きなポットに植えられた根の形全体を短時間で可視化することに成功しました。国内で栽培されているイネやコムギなどの根であれば、根の形を評価するには十分なサイズと考えられます。

3.迅速な可視化:
本技術では3次元メディアンフィルター3)およびエッジ抽出4)という比較的単純な画像処理により、860枚のX線CT画像から根の3次元画像を再構成します。その結果、パソコンの処理能力にもよりますが、最短でCT撮影時間10分(多少画質が劣化しても問題ない場合は最短約30秒のCT撮影でも解析可能)、画像処理2分の合計12分で”土中の根の形”を可視化できます。

4.根の経時変化も可視化できる:
本技術を用いれば、根の成長など経時変化も簡単に可視化できます(図4)。過去の文献から許容撮影回数を算出したところ、10分間の撮影(X線照射)だと140回の撮影でも植物体の生育に影響がないと推定されました。

5.本技術で用いたX線CTは使用に際し特別な資格を必要とせず、誰でも植物の根を観察することができます。

今後の予定・期待

本技術によって”土中の根の形”を非破壊・迅速・簡便に観察できるようになったことから、今後イネにおいて、品種改良が困難だった根の品種改良が加速すると期待できます。また、撮影条件を改良することで、イネ以外の様々な作物種でも根の観察が可能になります。
農研機構では干ばつなどの環境ストレスに強い作物を作出することに取り組んでおり、その一環として、本技術を干ばつや冠水などに強いイネ品種の開発に活かしていく予定です。
また本技術は、根の観察が簡単になることから、根の改良だけでなく、根の生育診断や生育予測にも利用可能と考えられます。本成果では簡単に可視化することを目的に、粒子の均一な土壌改良材を土として使っています。今後、撮影条件や画像解析技術を向上できれば、自然の田んぼや畑で育った作物の根も簡単に可視化できるようになります。その際には、畑から土ごと掘り起した作物の根をX線CTで可視化することで、根の張り具合や生育具合などを簡単に調べられると期待されます。

用語の解説
1)X線CT(X線断層撮影、英:X-ray computed tomography)
電磁波の1種であるX線を用いた3次元撮影技術です。可視光とは違って、X線は物体を透過するため、内部構造の観察が可能となります。撮影対象の様々な角度からX線を照射し、透過したX線の強度から撮影対象の3次元構造を計算します。一般的に、1000枚近い2次元画像から3次元画像が再構成されます。
2)種子根と冠根
種子根はイネが発芽するときに最初に生えてくる根であり、双子葉植物の主根に相当します。冠根はイネの節から生える不定根であり、単子葉植物のいわゆるひげ根を形成します。
3)3次元メディアンフィルター
画像処理手法1つであり、ある範囲内にある画素の最頻値を計算することによりノイズを取り除きます。
4)エッジ抽出
画像処理手法1つで、明るさが急に変化する部分(エッジ・境界線)を画像から抽出します。
発表論文

Shota Teramoto, Satoko Takayasu, Yuka Kitomi, Yumiko Arai-Sanoh, Takanari Tanabata and Yusaku Uga. High-throughput three-dimensional visualization of root system architecture of rice using X-ray computed tomography. Plant Methods. 2020; 66
URL: https://doi.org/10.1186/s13007-020-00612-6

参考図

図1 従来の手法と本手法の比較
従来の方法は、根を掘り起こし洗い出してから根の形を計測しました。今回開発した方法は、植物をポット栽培してから、土から掘り起こさずにそのままX線CT装置で撮影し、全自動化された画像処理により土中の根の形を可視化します。従来の手法と比べ、今回の手法は要求される労力が少ないのが特長です。また非破壊計測であるため、経時的な根の発達をも可視化できます。

図2 X線CT装置の撮影の様子
X線CT撮影はX線照射口から放出されたX線がターンテーブル上の被写体(ワーク)を透過し、その背後にある検出器にぶつかることでシグナルを画像化します。被写体を360°さまざまな角度から撮影することにより、被写体内部の3次元構造を画像化することができます。

図3 X線CTを用いた土中の根の可視化
今回開発した手法を用いて土中の根を可視化しました。線状に白く見える部分が根を表しています。

図4 X線CTを用いた土中の根の経時的な可視化
今回開発した手法を用いて土中の根の発達を経時的に可視化しました。播種後14日目の根は細く見えづらいですが、播種後21日、28日後と本数が増加し、太い根が増える様子が観察できます。

生物工学一般
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