2020-07-20 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の大郷剛 肺高血圧症先端医学研究部部長/肺循環科医長らは、難治性肺高血圧症に期待される全く新しい治療である肺動脈カテーテル除神経治療の臨床試験を2020年6月1日より、先進医療(注1)Bとして実施を開始いたしました。先進医療の枠組みで実施される肺動脈カテーテル除神経治療の臨床試験は国内で初の取り組みとなります。
背景
肺高血圧症は若年者に多く発症する原因不明の難病です。肺動脈圧の上昇により治療が適切になされなければ右心不全により死に至る可能性があります。近年、肺動脈拡張を機序とした治療薬が開発され、多くの患者がその恩恵を受けるようになりました。しかし、肺高血圧治療薬に治療抵抗性(注2)の患者も多数経験され、依然として予後不良です。
肺高血圧症の病態には交感神経などの自律神経調節の関与が報告されており、この余剰な交感神経をカテーテルによる細い管を用いて高周波で焼く肺動脈カテーテル除神経治療(図1)が2012年に報告されました。2015年には肺動脈カテーテル除神経治療により約9割の患者で肺動脈圧が10%以上低下し、手技に伴う合併症もなかったと報告されました。しかし本邦では肺動脈カテーテル除神経治療の有効性や安全性を多数例で検討されておらず、また治療抵抗性肺高血圧症患者さんでのこの治療の効果は不明です。そこで今回、治療抵抗性肺高血圧症患者を対象として、肺動脈カテーテル除神経治療の有効性と安全性評価を明らかにするための臨床研究を先進医療として実施することとしました。
肺動脈カテーテル除神経術実施の詳細
実施区分:先進医療B
対象患者:治療抵抗性肺高血圧症患者
試験デザイン:単施設・無対照・介入試験
目標症例数:20症例
主要評価項目:全死亡、肺移植、病状悪化(心不全入院もしくは6分間歩行距離の15%以上の低下もしくはWHO-FC悪化もしくはPAH治療薬強化)の複合イベント発生までの期間
今後の展望と課題
今回の取り組みで、治療抵抗性肺高血圧症患者に対する肺動脈カテーテル除神経治療の安全性・有効性を示すことができれば、今後、治療抵抗性肺高血圧症患者の予後を改善するなどの治療法として期待できます。さらに今後は様々な原因の肺高血圧症患者を対象とした治験での試験拡大を検討しています。
注釈
(注1)先進医療
最新の医療技術の中で、安全性と治療効果を確保したうえで、保険診療との併用が認められた制度。先進医療として認められたものに関しては、治療に伴う診察、検査、投薬、入院等基礎部分については、一般の保険診療と同様に公的医療保険が適用され、先進医療に関わる費用は全額自己負担といった、「保険診療」と「保険外診療」の併用が認められています。
(注2)治療抵抗性
病気に対して有効であると科学的に証明されている治療法を行っても、効果が少なく、病状の改善が不十分である状態をいいます。
<図表> 図1.