アルツハイマー病における空間記憶障害の原因を解明 ~認知症患者の徘徊予防へ向けて~

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2020-07-22 科学技術振興機構

ポイント
  • アルツハイマー病患者の多くは、徘徊などを引き起こす空間記憶障害を発症するが、その原因は長らく不明だった。
  • アルツハイマー病モデルマウスでは、嗅内皮質と呼ばれる脳部位の活動が低下し、記憶の中枢である海馬の空間識別機能が障害されることを世界で初めて明らかにした。
  • 嗅内皮質の活動を回復させる手法を開発することにより、すでに発症している患者の空間記憶障害の治療につながることが期待される。

JST 戦略的創造研究推進事業において、カリフォルニア大学 アーバイン校 医学部の五十嵐 啓 助教授らの研究グループは、アルツハイマー病による空間記憶障害の原因を解明しました。

アルツハイマー病は高齢化社会における最も深刻な疾患の1つですが、その原因は不明なことが多く、いまだ適切な治療法が存在しません。アルツハイマー病患者の多くは徘徊などを引き起こす空間記憶障害を発症し、介護者の大きな負担となっていますが、空間記憶障害の発症原因は長らく不明でした。

五十嵐助教授らは、2014年に理化学研究所で開発されたアルツハイマー病モデルマウスを用い、このマウスが記憶行動を行っている際の脳の活動を電気生理学的手法により解析しました。その結果、脳の記憶中枢である海馬が本来持っている「異なる場所を見分けるための機能(脳のリマッピング機能)」が低下していることを突き止めました。さらに、この海馬の障害は、嗅内皮質と呼ばれる脳部位の活動の低下により引き起こされることを明らかにしました。

今後、嗅内皮質の活動を回復させる手法を開発することにより、すでに発症している患者の空間記憶障害の治療につながることが期待されます。

本研究は、理化学研究所の西道 隆臣 チームリーダー、名古屋市立大学の斉藤 貴志 教授と共同で行いました。

本研究成果は、2020年7月21日(米国東部時間)に米国科学誌「Neuron」のオンライン版で公開されます。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)

研究領域:「生命機能メカニズム解明のための光操作技術」
(研究総括:七田 芳則 立命館大学 総合科学技術研究機構 客員教授/京都大学 名誉教授)

研究課題名:高速光操作による記憶行動を支える脳回路同期機構の解明と回復

研究者:五十嵐 啓(カリフォルニア大学 アーバイン校 医学部 神経科学・解剖学科 助教授)

研究実施場所:カリフォルニア大学 アーバイン校

研究期間:平成29年4月~令和2年3月

詳しい資料は≫

<論文タイトル>
“Disrupted place cell remapping and impaired grid cells in a knockin model of Alzheimer’s disease”
(ノックイン型アルツハイマー病マウスにおける、場所細胞のリマッピング機能の障害とグリッド細胞の失調)
DOI:10.1016/j.neuron.2020.06.023
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>

五十嵐 啓(イガラシ ケイ)
カリフォルニア大学 アーバイン校医学部 神経科学・解剖学科 助教授

<JST事業に関すること>

保田 睦子(ヤスダ ムツコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ライフイノベーショングループ

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課

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