革新的医療用ラジオアイソトープ製造施設整備に向け始動

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DATEプロジェクトが拓く国産診断治療用アイソトープ医薬品開発

2020-10-19 量子科学技術研究開発機構

発表のポイント

・ラジオアイソトープ(RI)医薬品は、がんの個別化医療として注目されている。

・加速器からの中性子を利用した医療用RIの大量製造を世界で初めて実証した。

・DATEプロジェクトは既存のサイクロトロン加速器を増強し、世界初の革新的RI製造施設として整備することで、国際的な医療用RIの研究開発拠点を形成する。

概要

RI医薬品を用いた個別化医療の推進が急務です。東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター(CYRIC)(渡部浩司センター長(プロジェクトマネジャー)、伊藤正俊教授)、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(橋本和幸上席研究員)、住友重機械工業株式会社(盛田琢造主席技師)、株式会社千代田テクノル(永井泰樹特別研究員(プロジェクトリーダー)、川端方子主任研究員)は、新たに共同でDATE(Deuteron Accelerator for Theranostics mEdicine at Tohoku University)プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトは、負重水素イオンを加速する装置を整備し、個別化医療のRI医薬品として利用できる銅64と銅67の大量製造と様々ながんの診断治療に有効なRI医薬品開発のため、多様なRIのオンデマンド製造を目指します。当施設は加速器中性子を利用した革新的医療用RI製造法を適用できる世界唯一の施設として、国産RI医薬品の研究開発に資するとともに、国際共同研究によるRI医薬品開発を展開します。プロジェクト名は仙台藩主にちなんでいます。
本事業は、科学技術振興機構(JST)産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)の一環です。

背景

患者に投与される医薬品の病巣部への集積度・治療効果・副作用は個人差がある。そのため近年は個々の患者に最適の個別化医療が重要とされている。近年、診断と治療を融合させたセラノスティックス(theranostics)が注目を集めている。診断のため患者に投与されるRI医薬品は個々の患者の特質を反映した量が病巣部に集積する。これをPETやSPECTなどの装置を用いて核医学的な手法で定量的に診断する。そして患者の治療はこの情報を踏まえて個別化医療の概念に基づき行われている。銅64は診断に、銅67は治療に適した物理的性質を有するに加え、これらRIの医薬品開発期間・経費は、両RIが異なる原子番号の場合に比べ激減できるとの期待から両RIの大量製造法の開発は30年来喫緊の課題であった。我々は加速器製の中性子を利用した世界初のRI製造法の開発に成功しこの課題を解決した。また、東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター(CYRIC)は上記RI製造法の根幹技術となる負水素イオンビームの加速を成功させた。

RI医薬品を用いた個別化医療の先駆的医療が既に70年前、1948年、米国で甲状腺がん患者の治療に施されている。即ち、半減期8日のヨウ素131(131I)を含む医薬品で131Iが放出するガンマ線を体外に設置したカメラで検出する診断により甲状腺がんの位置及び患者の131I医薬品の摂取量などの情報を得た上で当該患者に最適の131I医薬品量を投与した治療が今に続く療法として成功裏に行われたのである。

課題と新RI製造法提案

131I医薬品の成功は、原子炉や加速器周辺の研究者を刺激し様々な医療用RIの製造研究が行われてきた。その結果、治療用RIとしては、原子炉製では131I、89Sr(ストロンチウム-89)、90Y(イットリウム-90)及び177Lu(ルテチウム-177)が、加速器製では213Bi(ビスマス-213)及び225Ac(アクチニウム-225)が実用されている。一方、がんには色々の種類があるため個々のがん患者の治療に最適の物理的化学的特性を持つ多様なRI(64Cu及び67Cuに加え)の製造方法の研究開発が待ち望まれている。我々は、加速器製の中性子を利用して多様な医療用RIを製造する新方式(下図)を提案し、既存の加速器を用いその製造方法の有効性を立証してきた。

新製造法の概念図

新製造法の概念図
重陽子加速器で加速された重陽子は炭素やベリリウムに照射される。
発生した中性子は試料と原子核反応を起こし多様なRIが生成される。

本製造法の<p特徴は以下の通りである。

  • 天然に存在する全ての同位体試料が利用可能。
  • RI製造量に影響する中性子と同位体の原子核反応断面積は試料種に依らず大きい。
  • 中性子は電荷を持たず、試料中でエネルギー損失しないため多量の試料が使用可能。

その結果、従来原子炉や荷電粒子加速器で製造できなかった多様なRIを大量に製造が可能となった。

新製造法の実証実験

本学のサイクロトロン及び他機関の加速器で得られる加速器中性子を用い診断用RIの99Mo/99mTc、64Cu、治療用RIの67Cu及び90Yの製造及び分離・精製実験を行ってきた(それら成果は16編の国際誌に公表済)。RI医薬品として利用する上で鍵になる高品質64Cu及び67Cuを試料から分離精製する技術を開発した。得られた67Cuを担癌マウス(大腸がん)に注射することにより67Cuの体内分布測定し、67Cuが腫瘍部に集積することを世界で初めて実証した。

64Cu・67Cu医薬品医療の魅力

64Cu・67Cu医薬品を用いる医療は世界が待ち望む「同じ患者に同じ医薬品を用いて診断し治療することが可能であり個別化医療を実現できる唯一の医療法」である。

既存加速器で挑む世界初の革新的医療用RI製造施設

新RI製造法で使用する加速器中性子のエネルギーは、原子炉中性子よりも10億倍以上高く、強度は原子炉と同程度が必要である。前者を満たす加速器は本学のサイクロトロンを含め世界に数多くあるが、後者の性能を持つ加速器は世界に無い。しかしCYRICでは、高強度の加速器中性子生成の基幹技術である負水素イオンの整備及び加速実験を2003年に成功させている。DATEプロジェクトは、サイクロトロンの製作で世界最先端技術を開発中の住友重機械工業株式会社、加速器中性子を用いた医療用RI製造に多くの実績を持つ量子科学技術開発機構及び株式会社千代田テクノルの共同プロジェクトとして高強度中性子生成のための負重水素イオン源等を整備し、世界初の革新的医療用RI製造施設を建設する。大量の64Cuと67Cuを製造し国産RI医薬品開発に資するとともに、国際的なRI医薬品の研究開発拠点を形成する。

組織情報

東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター(センター長 渡部浩司)、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫)、住友重機械工業株式会社(代表取締役社長 下村真司)及び株式会社千代田テクノル(代表取締役社長 細田敏和)は共同で、大量の診断・治療用RIの国産化及び国産RI医薬品開発を目指した「革新的医療用RI製造施設(DATEプロジェクト)整備計画」を立ち上げた。

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