原因不明の日本人脳塞栓症患者に対する直接型経口抗凝固薬ダビガトランの再発予防効果

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国際共同臨床試験「RE-SPECT ESUS試験」のサブ解析

2020-10-30 国立循環器病研究センター

動脈硬化や心房細動などの明らかな原因がわからない塞栓源不明脳塞栓症(Embolic stroke of undetermined source: ESUS)に対する抗凝固療法の再発予防効果を検証する国際共同臨床試験「RE-SPECT ESUS試験」において、日本人患者の治療成績を解析したサブ研究を、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の豊田一則副院長らが行いました。この研究結果は、日本循環器学会英文機関誌「Circulation Journal」オンライン版に、2020年10月30日に掲載されました。

背景

脳梗塞はわが国の国民病です。その主な原因に、心房細動などによって心臓にできた血栓が脳の大血管を閉塞させる心原性脳塞栓症や、脳動脈や頚動脈の動脈硬化に因る脳梗塞が挙げられますが、原因不明のESUSが脳梗塞患者全体の約2割を占めます。ESUSに対する有効な薬物治療法は現在確立しておらず、再発予防にアスピリンなどの抗血小板薬を使用することが一般的です。
ESUS患者に一定の割合で発作性心房細動が隠れていることなどを根拠に、心房細動患者に頻用される直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)であるダビガトランをESUSの再発予防に用いた大型の無作為化比較試験RE-SPECT ESUS(以下「本試験」)が、国際共同で行われました。本試験ではダビガトラン群とアスピリン群の脳卒中再発率に差を認めず、DOACをESUS患者に推奨するには至りませんでした。
本試験の登録患者5,390例の11%にあたる594例が、わが国から登録されました。日本人は診療の細やかさや抗血栓薬への反応性など、脳卒中診療において独自の特色を呈することが多く、事前に予定されたサブ解析として日本人患者での治療成績の検討が組まれていました。

研究手法と成果

日本人ESUS患者の294例がダビガトラン(300mg ないし220mg、分2)を、300例がアスピリン(100mg、分1)を服用するように、無作為に割り付けられました。主要評価項目である脳卒中再発率は、ダビガトラン群で年4.3%、アスピリン群で年8.3%と有意な差を認めました(ハザード比 0.55、95%信頼区間 0.32 – 0.94)。安全性評価項目の大出血は、各々年2.5%、年3.5%と有意差を認めませんでした。
一方で日本人以外の患者では脳卒中再発率が各群で年4.1%、年4.3%と差を認めず、日本人患者と大きな結果の違いを見せました。ただし患者群×治療群間の交互作用は、P=0.09と有意差を示すに至りませんでした。

今後の課題と展望

本試験からは、日本人患者のみで検討した場合にESUS患者の再発予防法としてダビガトランが有望であることが示されました。ダビガトランの効果にこれほどの人種の違いが生じた理由は何でしょうか。
私たちは主因の一つに、患者組み入れ時の頭部MRI(日本人 99.8% 対 日本人以外 76.8%)、MR血管撮影(92.8% 対 41.8%)の施行率の違いを挙げました。ESUSを診断するには頭蓋内主幹動脈病変を正確に除外する必要がありますが、そのためにMR血管撮影が最も簡便です。梗塞の性状もCTよりMRIを用いたほうが、正確な情報を得られます。また、わが国の脳卒中治療に携わる医師は、日本脳卒中学会が作成した「植込み型心電図記録計の適応となり得る潜因性脳梗塞患者の診断の手引き」などに基づいてESUSの定義をかなり厳密に考える傾向があります。これらの点で、日本では心原性塞栓機序がより強く関与したESUS患者を、試験に多く組み込むことが出来て、その結果ダビガトランの治療効果を顕在化させることが出来たと考察しました。
日本人のESUS患者にダビガトランを含めたDOACが真に有効であれば、たいへんな朗報です。しかし今回は、本体研究で差が出なかった主要評価項目がサブ解析集団できれいな群間差を生じた特殊な状況であり、ESUS患者へのDOACの適否を結論付けるには新たな研究を加える必要があります。

発表論文情報

著者: Kazunori Toyoda, Shinichiro Uchiyama(国際医療福祉大学), Yasushi Hagihara(りんくう総合病院), et al
題名: Dabigatran versus aspirin for secondary prevention after embolic stroke of undetermined source: Japanese subanalysis of the RE-SPECT ESUS randomized controlled trial
掲載誌: Circulation Journal

謝辞

本試験はベーリンガーインゲルハイム社が実施した企業試験です。

<図表>
脳卒中再発率の群間比較

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