日本の急性期脳梗塞医療の全国の実態が明らかに~ビッグデータを活用し、初めて可視化~

ad

2020-11-30 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の飯原弘二病院長が代表を務めるJ-ASPECT研究において、脳卒中における医療の質を評価するClose The Gap-Stroke (CTGS) というプロジェクトの研究成果が、日本循環器学会の学会誌、Circulation Journal誌に11 月20 日に掲載されました。

背景

医療の質(Quality of Care)を測り、改善することは、世界的に注目されています。一般的に、医療の質は、ストラクチャー指標(構造指標:集中治療室、専門医数など)、プロセス指標(手順指標:ガイドラインに記載された標準的医療の実施など)、アウトカム指標(成果指標:死亡率など)の3つによって測ることができます。中でも、プロセス指標を測ることは医療の質の改善に、直接関連すると考えられてきました。
米国では、脳卒中を含む循環器疾患の医療の質とアウトカムに関する学術会議が1999年に最初に開催され、以後、Get With The Guidelines(GWTG)-Strokeと呼ばれるプロジェクトが開始されました。GWTG-Strokeでは、推奨するガイドラインを提示するとともに、 Webセミナーや患者管理ツールを提供しています。同プロジェクトに参加した施設においてt-PA(アルテプラーゼ)の投与を含むプロセス指標(来院後、1時間以内のt-PA投与など)の遵守率が毎年向上し、その結果、脳梗塞の治療成績が改善したと報告されております。
私たちは、脳卒中における医療の質を測定する為にClose The Gap-Stroke (CTGS) というプロジェクトを立ち上げ、日本における脳卒中センターの認証に関連した医療の質の評価指標を初めて策定し、昨年、Circulation Journal誌に既に報告しています。(Nishimura et al. Circ J 83(11): 2292-2302)(表1)

昨年、日本では一次脳卒中センターが認証されました。しかし、これまで日本で、全国レベルで系統的に、脳卒中医療の質を計測し、改善を促すプロジェクトは存在していませんでした。一つの理由は、多忙な臨床現場の負担を抑えて、精度の高い方法で、医療の質を計測する方法がなかったことです。私たちは、10年前から、DPC(入院医療費の支払い制度)情報を活用した、J-ASPECT研究(日本で最大の脳卒中・脳神経外科医療のデータベース事業、775施設から429万件)を、日本脳卒中学会、日本脳神経外科学会との連携のもと、継続しています。しかし、急性期脳卒中医療の質を計測するためには、DPC情報のみでは、時間的な情報(来院してから治療までの時間など)が不足しており、現場の負担を減らしながら、精度の高い、医療の質を計測する画期的なプログラムの開発が必要でした。

研究手法と成果

今回、私たちは、既にJ-ASPECT研究に登録されているDPC情報を活用し、医療の質の算出に必要な情報のみを、参加施設で付加することで、急性期脳卒中医療の質を、現場の負担を抑えた方法で計測、収集するプログラムを、世界で初めて開発しました。その結果をベンチマークとして参加施設に提示することで、日本の脳卒中治療における問題点を明らかにし、自発的な改善を促すことを目的としています。
具体的には、まず2013年から2015年の間に、急性期脳梗塞に対して再開通療法(t-PA静注療法、血管内治療による血栓回収療法)を施行した症例を、本データベースから抽出し、参加施設に追加情報の入力を依頼しました。その結果、172施設から8,206症例が登録され、策定した医療の質を分析いたしました。
対象患者のうちt-PA療法及び血栓回収療法がそれぞれ83.7%、34.9%で施行されており、退院時で機能的に自立できる状態であった症例は37.7%でした。策定した医療の質のうち、来院から30分以内での脳血管画像の評価や60分以内でのt-PA投与、退院時の適切なスタチンの投与や深部静脈塞栓症の予防など合計6つの項目で、目標の達成が不十分であることがわかりました。
今回開発しましたDPC情報を活用したプログラムでは、医療の質の測定に必要となる項目のうち6割を、DPCのデータからあらかじめ入力した状態で提供することで、臨床現場での情報収集にかかる負担を軽減することができました。また同時に、入力したDPC情報の精度を確認いただき、9割以上の正確性を有していることもわかりました。

今後の展望と課題

現在、第2期目の研究を行っており、400以上の施設から、約2万件の症例を登録がありました。脳卒中における医療の質の推移を継続的に評価するとともに、治療結果に関係する指標を明らかにできれば、遵守率のさらなる改善に向けた介入なども検討したいと考えております。

発表論文情報

著者:Nice Ren, Ataru Nishimura, Ai Kurogi, Kunihiro Nishimura, Ryu Matsuo, Kuniaki Ogasawara, Yoichiro Hashimoto, Takahiro Higashi, Nobuyuki Sakai, Kazunori Toyoda, Yoshiaki Shiokawa, Teiji Tominaga, Shigeru Miyachi, Akiko Kada, Keisuke Abe, Kotaro Ono, Kazunori Matsumizu, Koichi Arimura, Takanari Kitazono, Susumu Miyamoto, Kazuo Minematsu, Koji Iihara
題名: Measuring Quality of Care for Ischemic Stroke Treated With Acute Reperfusion Therapy in Japan ― The Close The Gap-Stroke ―
掲載誌:Circulation Journal Nov 20
doi:10.1253/circ.CJ-20-0639. Online ahead of print. PMID: 33239795

謝辞

本研究は、下記機関より資金的支援を受け実施されました。
・日本医療研究開発機構 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業
・厚生労働科学研究費 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業

<表・図>
(表1)

日本の急性期脳梗塞医療の全国の実態が明らかに~ビッグデータを活用し、初めて可視化~

(参考図1)

(参考図2)

医療・健康
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました