チンパンジー父系社会でメスが出自集団に居残る要因の検討
2021-01-15 京都大学
松本卓也 理学研究科博士課程学生(現・総合地球環境学研究所外来研究員・日本学術振興会特別研究員)、花村俊吉 アフリカ地域研究資料センター研究員、郡山尚紀 酪農学園大学准教授、早川卓志 北海道大学助教、井上英治 東邦大学准教授らの研究グループは、出自集団に留まって出産したメス(以下、居残りメス)2頭の観察をきっかけに、過去30年分の人口統計学的データ(デモグラフィー)と合わせて居残りメスが出自集団で出産する要因を検討した結果、一般に父系社会とされるチンパンジー集団において居残りメスが例外ではないことを明らかにしました。
野生チンパンジー集団は、性成熟に達したメスが出自集団から出て、オスが出自集団に留まる父系社会と考えられてきました。今回、本研究グループは、タンザニア連合共和国のマハレ山塊国立公園に生息する野生チンパンジー「M集団」の居残りメス2頭を詳細に観察し、同集団で過去に観察された5頭の居残りメスの記録と合わせて分析を行いました。その結果、集団個体数の減少や環境収容力の増大による採食競合の度合いの減少、母親や養母からの子育ての援助(下図参照)、仲の良い同時期の居残りメスの存在、比較的若い年齢での出産が、メスが居残る要因として考えられることが示唆されました。さらに本研究グループは、同集団において蓄積されてきた人口統計学的なデータを分析し、居残りメスが見られない時期は、性成熟に達したメスの数自体が少ないことを示しました。また、野生チンパンジーの長期調査地の人口統計学的な研究をレビューし、これまで例外とされてきた出自集団で出産するメスが、人口統計学的なデータが公表されているすべての長期調査地で観察されていることを示しました。以上のことから、メスが出自集団で出産するという現象は例外的なものでなく、従来言われてきたよりもチンパンジー社会において一般的な現象であることがわかりました。
本研究成果は、2021年1月14日に、国際学術誌「Primates」のオンライン版に掲載されました。
図:居残りメスのザンティップが母のクリスティーナに毛づくろいしている様子。
研究者情報
研究者名:松本卓也