日本における重症ミトコンドリア病に対する出生前診断の現状を初めて報告

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2021-02-12 千葉県こども病院,順天堂順天堂大学,埼玉医科大学,日本医療研究開発機構

概要

千葉県こども病院遺伝診療センターの秋山奈々認定遺伝カウンセラー®*1、代謝科の村山圭部長、埼玉医科大学小児科/ゲノム医療科の大竹明教授、順天堂大学・難病の診断と治療研究センターの岡﨑康司教授(センター長)、らの研究グループが、日本人の核遺伝子*2変異による新生児期・乳児期発症重症型ミトコンドリア病*3の罹患児を出産した経験のある13家族の16妊娠に対して出生前診断*4を実施し、妊娠経過や各家系の発症者の情報をまとめ、その結果を論文報告しました。

今回の論文は、新生児期・乳幼児期発症の核遺伝子変異による重症ミトコンドリア病を対象とした出生前診断に関する国内の現状をまとめた、本邦で初めての報告になります。この報告によって核遺伝子を含めた包括的な遺伝子診断の整備、重篤なミトコンドリア病の新たな病態解明と病因遺伝子に基づく治療開発などミトコンドリア病研究のさらなる発展が期待されます。また、英国で既に始まっているミトコンドリア遺伝子異常に基づくミトコンドリア病の核移植についても、我が国において活発に議論を進める契機になるものと思われます。

本研究成果は、希少難病を含め自然科学領域の論文を広く取り扱う欧州の科学雑誌『Scientific Reports』に報告しました。

※当該研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「難治性疾患実用化研究事業」の研究費を用いて行われました。

研究成果のポイント

  • 2014年以降、核遺伝子変異による重篤な乳児期発症ミトコンドリア病の罹患児を出産した経験のある13家族の18妊娠について、その両親・家族から出生前診断の希望がありました。各家系における発症者13例のうち、7例は生後1ヶ月以内の新生児期の発症、6例は生後1年以内の発症でした。また、13例のうち7例は1歳未満で亡くなられていました。残る6例のうち、4例は1歳以降で亡くなり、2例は生存していますが心筋症の合併等、重篤な経過を辿っていました。
  • 16例について絨毛検査/羊水検査による出生前診断の結果、半数の8例は病的バリアント*5を持たない、もしくは両親と同じ遺伝子型でした。残る8例は家系内の発症者と同じ遺伝子型を持ち、家系内の発症者の経過やこれまでの報告から重篤なミトコンドリア病を発症する可能性が高いことが示唆されました。
  • 得られた結果を踏まえて遺伝カウンセリングを実施し、ご家族の意思決定における支援を行いました。

研究の背景

千葉県こども病院、埼玉医科大学、順天堂大学は2007年からミトコンドリア病の生化学および遺伝子診断を行いつつ、2015年からAMED等の研究費のサポートを受けることによって、ミトコンドリア病の診療基盤構築(診断システムの確立、診断基準や診療マニュアルの策定、レジストリ構築)を進めてきました。2020年には本邦におけるLeigh脳症の160名の予後(Ogawa et al. J Inherit Metab Dis. 2020;43(4):819-826.)、及び重症型ミトコンドリア肝症の特徴(Shimura et al. Orphanet J Rare Dis. 2020;15(1):169-177.)について論文報告を行い、各病型に対するエビデンス創出研究を進めています(いずれもプレスリリースを実施)。

分担研究者である埼玉医科大学の大竹、順天堂大学の岡崎と共に、新生児期・乳児期発症のミトコンドリア病の分子遺伝学的診断や出生前診断体制構築を進める中で、今回この成果を得ることができました。本邦においてはこれまで、重症ミトコンドリア病の一つであるリー症候群を対象とした着床前診断*6の報告はなされていましたが、絨毛検査や羊水検査を用いた出生前診断の報告はなされていませんでした。遺伝子解析技術の向上により、発症者の遺伝学的診断率は年々向上しており、今後出生前診断を希望するご家族の数が増えていくことが予測されます。出生前診断における大切なプロセスである遺伝カウンセリング*7では心理社会的支援だけでなく、正確な情報提供がとても重要となります。より適切な遺伝カウンセリングや遺伝医療提供を行う際の正確な情報源とすることを目的に本報告をまとめました。

研究の内容

対象・方法

これまでに新生児期・乳児期発症の重症ミトコンドリア病と遺伝学的に診断されている罹患児を持つ両親・家族において出生前診断の希望があった13家族の18妊娠について対象としました。この18妊娠のうち、2例は出生前診断実施前に自然流産となり、16例について絨毛検査/羊水検査による出生前診断を実施しました。

なお、各家系の発症者の詳細については表1に示します。13例の発症者のうち、7例は生後1カ月未満での発症であり、残りの6例は生後1年以内の発症となっています。また、4例では発症者の兄または姉が新生児期もしくは乳児期に亡くなられています。現在の発症者の状況について、7例は1歳未満で亡くなられていました。残る6例のうち4例は1歳以降で亡くなり、2例は生存していますが重篤な経過を辿っています。

表1.各家系における発症者の臨床情報(13家系)

結果

出生前診断の結果について表2に示します。16例のうち5例はいずれかの両親と同じ常染色体劣性遺伝子の保因者でした。2例では病的バリアントは確認されませんでした。1例は発症者がX連鎖遺伝形式をとるTAZ遺伝子に変異をもつ家系であり、出生前診断検体を用いた遺伝子解析に先行して行った染色体核型解析において女児であることが確認されました。TAZ遺伝子の変異においては女児(性染色体の組み合わせはXX)では、一つのX染色体上の遺伝子に病的バリアントが存在しても疾患を発症する可能性は極めて低いため、遺伝子解析は実施しませんでした。残りの8例は家系内の発症者と同じ遺伝子型を持ち、家系内の発症者の経過や過去の報告からも重篤なミトコンドリア病を発症する可能性が高いことが示唆されました。

表2.出生前診断の結果と妊娠経過

まとめ

これまでの報告のとおり、新生児期・乳児期発症のミトコンドリア病は重篤な経過を辿り、今回報告した7家系において発症者は1歳未満で亡くなられていました。出生前診断を実施した16例のうち半数の8例で発症者と同じ遺伝子型が確認されました。

本報告はこれらの核遺伝子変異による重篤な新生児期・乳児期発症のミトコンドリア病を対象とした出生前診断に関して国内では初めての報告となります。本研究で対象とした発症者の経過はいずれも重篤であり、新生児期・乳児期発症のミトコンドリア病の治療の限界・予後改善の難しさを示しています。本報告により出生前診断において重要なプロセスである遺伝カウンセリングの中で、ご家族に提供する情報源を整備することができました。また、合わせて、英国で既に始まっているミトコンドリア遺伝子異常に基づくミトコンドリア病を対象とした核移植、また国内でも一部の疾患に関して技術開発が進んでいる着床前診断や遺伝子治療についても、我が国において活発な議論を進める契機になるものと思われます。

さらに核遺伝子を含めた包括的な遺伝子診断の整備、重篤なミトコンドリア病の新たな病態解明と病因遺伝子に基づく治療開発など、ミトコンドリア病研究の一層の発展につながることを期待します。

掲載論文

タイトル
Prenatal diagnosis of severe mitochondrial diseases caused by nuclear gene defects: a study in Japan
日本における核遺伝子変異による重症ミトコンドリア病の出生前診断
著者名
Nana Akiyama, Masaru Shimura, Taro Yamazaki, Hiroko Harashima, Takuya Fushimi, Tomoko Tsuruoka, Tomohiro Ebihara, Keiko Ichimoto, Ayako Matsunaga, Megumi Saito-Tsuruoka, Yukiko Yatsuka, Yoshihito Kishita, Masakazu Kohda, Akira Namba, Yoshimasa Kamei, Yasushi Okazaki, Shinji Kosugi, Akira Ohtake, Kei Murayama
雑誌名
Scientific Reports
論文発表日
令和3年2月11日(木)午後7時(日本時間)
本研究に係わる学会発表
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