小児低亜鉛血症患者に対し治療薬の適切な用量が設定可能に
2021-02-16 国立成育医療研究センター
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区大蔵、理事長:五十嵐隆)消化器科の新井勝大診療部長らは、同臨床研究センターの研究支援のもと、酢酸亜鉛顆粒剤が、低亜鉛血症の小児(乳幼児含む)に対して安全で有効な治療薬かどうかを評価する医師主導治験を実施しました。
本治験では、小児の低亜鉛血症患者を対象に、酢酸亜鉛顆粒剤を投与して血清中の亜鉛濃度が目標値に到達するかどうか、副作用があるかどうかなどを調べました。その結果、1歳未満の乳児を含む小児患者に対する安全性と有効性が認められ、治療薬が「錠剤」のみではなく「顆粒剤」が選択可能になったことで、小児が服用しやすく、また、体重に則った用法・用量も細かく設定することが可能になりました。
この医師主導治験の結果をもとに、低亜鉛血症の治療薬として、新剤形顆粒剤と小児用量が薬事承認されました。低栄養状態や消化器疾患の子どもたちは低亜鉛血症をきたしやすいこともあり、今後は小児期に問題となる皮膚炎や免疫力低下、成長障害などに対する治療薬としても期待されます。
なお、世界初となる「酢酸亜鉛顆粒剤(治験薬)」は、当センター臨床研究センター内にある「小児製剤ラボ」にて製薬会社により製造され、また、医師主導治験は同臨床研究センターのARO機能(治験の調整、データマネジメント、モニタリング、統計解析など)が活用されました。
プレスリリースのポイント
- 亜鉛は摂取不足や吸収不良などのために、体内で不足することがあります。その結果、湿疹や免疫力の低下、味覚障害、成長障害や不妊といった様々な症状を引き起こします。
- 日本では2017年に、低亜鉛血症のための「錠剤」の治療薬は承認されましたが、錠剤が飲めない乳幼児、また必要量が比較的少ないと思われる小児患者に安全かつ効果的に投与するための方策が望まれていました。
- 本治験は、これまでの錠剤とは違い、世界で初めて「顆粒」の低亜鉛血症治療薬(酢酸亜鉛顆粒剤)を開発して行いました。酢酸亜鉛特有の苦みをマスキングして、小児にも飲みやすい製剤となっています。
- 本治験の結果、乳幼児を含む小児の低亜鉛血症患者において、血清亜鉛濃度の目標値を達成、重大な副作用も認められず、安全性と有効性が確認されました。
- 乳幼児を含む小児においては、1.0~3.0mg/kg/日の酢酸亜鉛顆粒剤を朝夕2回に分けて投与することで、低亜鉛血症の改善が見られました。
- 本治験の結果をもとに、低亜鉛血症の治療薬として、新剤形顆粒剤と小児用量が薬事承認されました。
- 乳幼児を含む小児における低亜鉛血症の改善が可能となったことで、子どもたちの健全な成長や発達の促進と健康増進が期待されます。
今後の展望
- 身体が小さく、年長者以上に安全性への配慮が必要となる小児患者に対しても、安全に低亜鉛血症の治療を行うことが可能となりました。
- 低亜鉛血症が一因であることが見逃されていた皮膚炎や免疫力低下、体調不良や成長障害などの子どもたちにおける、積極的な血清亜鉛濃度の評価と、低亜鉛血症の治療により、症状の改善と健康増進が期待されます。
- 世界的に補充療法の必要性が認識されている低出生体重児や新生児の亜鉛欠乏に対する予後改善のために今後の更なる研究の推進が期待されます。