EBウイルス関連リンパ腫由来細胞外小胞に含まれる多様な炎症制御性分子の発見

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がん微小環境形成の新たな仕組みを示唆

2021-03-16 東海大学,日本医療研究開発機構

背景

エプスタイン・バー(Epstein-Barr, EB)ウイルス(注1)は1964年に発見された最初のがんウイルスです。このウイルスはリンパ球の一種であるB細胞に感染しますが、ほとんどの場合は無症状で生涯にわたって潜伏感染します。しかし、免疫低下や加齢などの要因により、まれにEBウイルス感染B細胞が活性化して悪性リンパ腫を主とする病気を発症します。このEBウイルス関連リンパ腫は強い炎症を伴い既存の治療法が効きにくいため予後不良であることが知られており、新たな治療法の開発が求められています。

ポイント
  • EBウイルス感染リンパ腫細胞から放出される細胞外小胞には、がん細胞自身の生存や増殖を促進させる環境(がん微小環境)を形成するはたらきがあります。しかし、この機序については不明な点が残されていました。
  • 細胞外小胞の主要構成分子であるタンパク質とリン脂質に着目し、がん微小環境形成能を持つ細胞外小胞にどのような分子が含まれているかを網羅的に解析しました。
  • がん微小環境形成能を持つ細胞外小胞には、特定の炎症制御タンパク質や脂質分子が豊富に含まれていることが明らかとなりました。
  • がん微小環境形成能を持つ細胞外小胞は粒子密度が低い特定の亜集団であることが示唆されました。
  • 本研究成果は、EBウイルス関連リンパ腫の病態解明だけでなく、がん微小環境を標的とした効果的な新規治療法の開発につながることが期待されます。
発表の概要

東海大学生命科学統合支援センターの伊藤誠敏技術職員、同大医学部基盤診療学系先端医療科学の工藤海大学院生と幸谷愛教授らの研究グループは、EBウイルス関連リンパ腫細胞から放出される細胞外小胞(注2)に様々な炎症制御性タンパク質や脂質分子が多く存在することを明らかにし、EBウイルス関連リンパ腫の新たながん微小環境(注3)形成機序を提唱しました。


図1 本研究成果から想定されるEBウイルス関連リンパ腫でのがん微小環境形成機序

EBウイルス関連リンパ腫はEBウイルスに感染したリンパ球が活性化することによって発症します。強い炎症を伴い、既存の治療法が効きにくいため予後不良であることが知られています。本研究グループは以前に、EBウイルス感染リンパ腫細胞から放出される細胞外小胞ががん細胞の生存と増殖を促進させる癌微小環境を形成することを明らかにしました(引用文献)。しかし、そのがん微小環境形成の分子メカニズム及びその責任因子となる細胞外小胞については不明な点が残されていました。

本研究では、細胞外小胞に豊富に含まれるタンパク質とリン脂質(注4)を質量分析(注5)によって網羅的に解析し、がん微小環境の形成に関与し得る新たな分子の解明を試みました。その結果、EBウイルス感染リンパ腫細胞から放出された細胞外小胞には複数の炎症制御性タンパク質や脂質分子が多く含まれていることが明らかになりました。更に、がん微小環境形成能を持つ細胞外小胞は粒子密度の低い特定の亜集団であることが示唆されました。本研究結果は、EBウイルス関連リンパ腫におけるがん微小環境形成メカニズムの一端を明らかにしたものであり、EBウイルス関連リンパ腫に対する新たな治療法開発につながることが期待されます。

本研究成果は2021年3月16日午前0時米国東部時間(日本時間2021年3月16日午後2時)の米科学雑誌「The FASEB Journal」オンライン版に掲載されます。

研究の詳細

本研究グループは以前の研究で、EBウイルスAkata株感染リンパ腫細胞から放出される細胞外小胞(以後、Akata EVsと省略)のうち、表面にホスファチジルセリン(phosphatidylserine:PS、注6)分子を持つ細胞外小胞が周辺の貪食細胞(単球やマクロファージ)に取り込まれ、それら貪食細胞を腫瘍関連マクロファージ(注7)に変換することでがん微小環境を形成することを明らかにしました(引用文献:Blood, Vol.131, p.2552, 2018)。PS結合性タンパク質の固相化ビーズを用いてPS分子を表面に持つAkata EVs及びがん微小環境形成能を持たないEBウイルスB95-8株感染細胞由来細胞外小胞(以後、B95-8 EVsと省略)を精製し、これら細胞外小胞のタンパク質を網羅的に解析しました。その結果、PS分子を表面に持つAkata EVsとB95-8 EVsで数百種類のヒト由来タンパク質が検出されました(図2A)。同時に、複数のEBウイルス由来タンパク質も検出されました。また、比較定量解析から、複数の炎症制御性膜タンパク質がPS分子を表面に持つAkata EVsに多く含まれていることが明らかとなりました(図2B)。PS分子を表面に持つAkata EVsに多く含まれていたFGF2とインテグリンaLb2タンパク質を阻害すると、Akata EVsによる単球培養細胞の炎症応答が抑制されたため(図2C)、少なくともこれら2分子ががん微小環境形成に関与することが示唆されました。次に、これら細胞外小胞に含まれるリン脂質を網羅的に解析したところ、多価不飽和脂肪酸(注8)と呼ばれる脂肪酸鎖が結合したリン脂質がPS分子を表面に持つAkata EVsに、より多く含まれることが明らかとなりました。この多価不飽和脂肪酸は代謝によって様々な生理活性を有する分子(脂質メディエーター、注9)に変換されることが知られています。

引用文献
Hiroshi Higuchi, Natsuko Yamakawa, Ken-Ichi Imadome, Takashi Yahata, Ryutaro Kotaki, Jun Ogata, Masatoshi Kakizaki, Koji Fujita, Jun Lu, Kazuaki Yokoyama, Kazuki Okuyama, Ai Sato, Masako Takamatsu, Natsumi Kurosaki, Syakira Mohamad Alba, Azran Azhim, Ryouichi Horie, Toshiki Watanabe, Toshio Kitamura, Kiyoshi Ando, Takao Kashiwagi, Toshimitsu Matsui, Akinao Okamoto, Hiroshi Handa, Masahiko Kuroda, Naoya Nakamura, Ai Kotani
Role of exosomes as a proinflammatory mediator in the development of EBV-associated lymphoma.
Blood 131, 2552-2567(2018).


図2 がん微小環境形成能を持つAkata EVsとがん微小環境形成能を持たないB95-8 EVsの比較検討:細胞外小胞の網羅的タンパク質解析。

  1. PS分子を表面に持つAkata EVsとB95-8 EVsでそれぞれ検出されたタンパク質の数。重なっている部分は共通に存在するタンパク質を表します。
  2. PS分子を表面に持つAkata EVsに多く含まれる炎症制御性膜タンパク質。赤色が濃いほど多く含まれることを表します。
  3. 図2Bで同定された分子(インテグリンaLb2など)のがん微小環境形成能への関与について:細胞外小胞による単球の炎症応答におけるFGF2又はインテグリンaLb2阻害剤の効果。両阻害剤の処理によって、Cの下のグラフの結果より、炎症性サイトカインの発現量が減少していることから、単球の炎症反応が顕著に抑制されており、Akata EVs由来のFGF2、インテグリンaLb2両分子は細胞外小胞を介するがん微小環境形成に関与する可能性が示唆されました。
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