精神神経疾患の病態を解析するための脳MRI計測・解析プロトコルを国内13施設で統一

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2021-03-17 東京大学,日本医療研究開発機構

発表者

小池進介(東京大学大学院総合文化研究科附属進化認知科学研究センター 准教授)

発表のポイント
  • 精神神経疾患の磁気共鳴画像(MRI)研究を大幅に発展させる新たな計測プロトコルを開発し、オールジャパンの多施設共同研究体制を構築しました。
  • 本研究成果により、これまで難しかった多施設共同研究での脳MRIデータを統一手順で計測し、一括して解析し、すぐに共有できる体制が確立しました。
  • この体制により、精神神経疾患の病態解明が進むとともに、臨床応用への道筋も開けることが期待できます。
発表概要

東京大学大学院総合文化研究科の小池進介准教授と日本医療研究開発機構「戦略的国際脳科学研究推進プログラム」に参画する国内13施設の共同研究グループは、精神神経疾患の磁気共鳴画像(MRI)研究を大幅に発展させる新たな計測・解析プロトコルを開発し、オールジャパンの多施設共同研究体制を構築しました。これまでの精神神経疾患に関する多施設MRI研究は、施設間のMRI装置や計測手順の違いにより、一括して解析することができませんでした。今回新たに構築したプロトコルと実施体制により、多施設共同研究でのMRIデータを統一手順で計測し、一括して解析し、すぐにデータ共有できる体制が確立しました。今後、精神神経疾患の病態解明が進むとともに、臨床応用への道筋も開けることが期待できます。

発表内容
研究の背景・先行研究における問題点

精神神経疾患において、磁気共鳴画像(MRI)は脳の形態や活動状態を可視化でき、診断などの臨床応用に繋がる可能性のある計測手法ですが、これまでMRI機種による感度差(注1)が大きく、多施設共同研究の障壁になっていました。また、計測後のMRIデータや臨床データについても統一して保管、処理する方法が十分ではなかったため、計測施設に迅速な計測・解析サポートができませんでした。

研究内容

国内13の研究機関で精神神経疾患の脳画像を計測する新規プロトコル(国際脳調和プロトコル、注2)を導入しました(図1)。このプロトコルは比較的短時間で、これまでの統一プロトコルと比較しても脳構造、機能についての情報量が格段に増加しました。加えて、高精度な前処置解析技術を統一して実施し、機種間差が軽減されるようになりました(図2)。


図1 国際脳ヒト脳MRI研究プロジェクトの実施体制青囲みの施設で臨床計測を行い、オレンジ囲みの施設で計測・解析支援を行う。枠内に背景色がある施設ではトラベリングサブジェクト計測も実施する。プロジェクト開始から参画している施設のみ提示しているが、現在はさらに参画機関が追加されている。
図2 国際脳調和プロトコルで得たMRI画像の前処理解析結果A.単一被験者(ID=9503)から得られた空間的信号雑音(S/N)比を大脳皮質表面にマッピングしたもの。5機種ともに同じように高いS/N比の信号が得られていることが示されている。B.4人の被験者が5機種で撮影を受けたMRIデータについて機種間と個人間の類似度について解析した結果。前処理されたトラベリングサブジェクトデータから抽出した、皮質厚(Cortical thickness)、ミエリン化(Myelin)、機能結合(Functional connectivity)の類似性を表す。9501、9502等は同一被験者を表している。個人間では類似度が低く青色を呈している。これはいわゆる個人間のバラつき(いわゆる個人差)が大きいことを示す。対して、個人内では類似度が高く、黄色を呈しており、個人内のバラつき(MRI装置や繰り返しによる違い)が小さく、どの装置でもこうした傾向は一貫していることがわかる。


さらに、近年日本で開発されたトラベリングサブジェクト法(Yamashita et al. PLOS Biol 2019、注3)を導入し、得られた画像を統計学的に補正することで、機種間差を軽減します。この研究開発のため、75名から405計測(旧プロトコルの計測を含めると600計測以上)のMRIデータを取得しており、多施設データの品質向上だけでなく、解析技術開発、研究者教育にも使用される予定です(図3)。


図3 トラベリングサブジェクトデータの概要トラベリングサブジェクト計測によるデータ結合を示す。国際脳トラベリングサブジェクトでは、UTK(東京大学駒場キャンパス)、UTI(東京大学IRCN)、ATR(国際電気通信基礎技術研究所)の3施設のMRI装置(Prisma)をハブ機種として、すべての被験者はこの3つのハブ施設のうち1施設以上で計測を受けたうえで、ほかの施設でも計測を受ける。そのため、ハブ施設とのデータ結合が多い。この3つのハブ機種もデータ結合しており、全体で統計学的に機種間差の補正を可能にする。各施設の略語は図1を参照のこと。

社会的意義・今後の予定など

本成果により、国際的にも新たなスタンダードとなる臨床脳MRI計測手法が確立し、大規模データにより病態解明や臨床応用が期待できます。また、このプロトコルを採用したい、データを解析してみたいという医療・研究機関や研究者の参加も募集しており、新プロトコルの普及啓発にも努めます。

発表雑誌
雑誌名
Neuroimage: Clinical
論文タイトル
“Brain/MINDS Beyond Human Brain MRI Project: A Protocol for Multi‐level Harmonization across Brain Disorders Throughout the Lifespan”
著者
Shinsuke Koike, Saori C Tanaka☨, Tomohisa Okada☨, Toshihiko Aso☨, Ayumu Yamashita☨, Okito Yamashita, Michiko Asano, Norihide Maikusa, Kentaro Morita, Naohiro Okada, Masaki Fukunaga, Akiko Uematsu, Hiroki Togo, Atsushi Miyazaki, Katsutoshi Murata, Yuta Urushibata, Joonas Autio, Takayuki Ose, Junichiro Yoshimoto, Toshiyuki Araki, Matthew F Glasser, David C Van Essen, Megumi Maruyama, Norihiro Sadato, Mitsuo Kawato, Kiyoto Kasai, Yasumasa Okamoto, Takashi Hanakawa, Takuya Hayashi*; Brain/MINDS Beyond Human Brain MRI Group
* corresponding author ☨ equally contributed authors
用語解説
(注1)磁気共鳴画像(MRI)の感度差、機種間差
デジタルカメラやスマートフォンで撮られた写真を比較すると、同じ被写体を撮っても、わずかに全体の雰囲気や色合いが異なります。この差の原因は大まかに、カメラの機種による内部機構や機能の差と設定しているパラメータの差が考えられます。MRIで撮られた脳画像にも同じことが言え、どの機種を用いても脳を精密に撮像してくれますが、わずかな信号差が発生します。精神神経疾患における脳構造・機能の特徴はごくわずかなので、MRIの機種が複数となる多施設共同研究ではMRIの感度差、機種間差を可能な限り取り除くことが重要となります。
(注2)国際脳調和プロトコル
これまでの多施設共同研究で、国際脳調和プロトコルとして、まず撮像機種を高性能機に限定し、可能な限り高品質で均一な画像を取得できるようにしました。そのうえでパラメータ調整を繰り返し、個人間の差を鋭敏にとらえ、かつ個人内の差(=機種間差)をできるだけ小さくするようにしました(図2)。さらに、これまではT1強調画像、安静時機能結合の2種類の計測シーケンスしか策定されていませんでしたが、国際脳調和プロトコルでは同一被験者から得られる脳構造・機能・連絡性に関する情報量を格段に多くするために、T1強調画像、T2強調画像、安静時機能結合、拡散テンソル画像、定量的磁化率マッピング、動脈スピンラベリング、課題時脳機能画像といった多数の計測法を設定しました。
(注3)トラベリングサブジェクト法
国際脳調和プロトコルを採用しても、MRIの感度差、機種間差は取り切れません。そのため、被験者が多施設に旅行する方法(トラベリングサブジェクト法)を用いて、この差をさらに軽減することにしています。具体的には、研究参加者が異なる施設のMRI機種で計測を受け、これを鋳型として各施設で得られた脳画像データを補正します。国際脳で予定したトラベリングサブジェクト計測では、1計測1時間、全部で13施設にもなることから、研究参加者の負担軽減のため、ハブ機種を設定し、この機種のある3つの施設で必ず撮像を受けつつ、可能な範囲でほかの施設でもデータを取得することとしました(図3)。このトラベリングサブジェクトデータを用いて、全施設のMRIデータを結合することができます。狭い国で、高速の交通網が発達する日本ならではの研究手法です。
お問い合わせ先

研究内容に関すること
東京大学大学院総合文化研究科附属進化認知科学研究センター
准教授 小池進介(こいけしんすけ)

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