TGF-βを介したがん微小環境リモデリング機構の発見~組織透明化を用いたがん微小環境の三次元解析~

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2021-03-30 東京大学

東京大学大学院医学系研究科分子病理学の久保田晋平特任研究員、江帾正悟准教授、宮園浩平教授らの研究グループは、システムズ薬理学の上田泰己教授らの研究グループと共に、マウスの組織や臓器を透明化するという手法を用いて、がんを取り巻く微小環境を三次元的に解析しました。これにより、がんの転移に関与するサイトカインであるTGF-ßが、がん微小環境を変えることでがんの転移を促進するという、がん微小環境の新たなリモデリング機構を見出しました。

TGF-ßは多彩な作用をもつサイトカインですが、がんの進行期においてはがん促進的に機能することが知られています。 TGF-ßは上皮間葉転換(EMT)とよばれるプロセスを介して、がん細胞の運動・浸潤能を亢進させることから、進行したがんでは TGF-ßによって転移が起こりやすくなっていることが想定されています。ただし技術的な困難から、これらのプロセスをマクロのレベルからミクロのレベルまで生体内で完全に可視化するには至っていませんでした。

今回の研究では、これまでに樹立した簡便な組織透明化手法の開発に、機械学習による画像解析を組み合わせることで、がん微小環境内における細胞間相互作用の解析基盤を構築しました。本解析手法を用いることで TGF-ß刺激をうけたがん細胞が、TGF-ß刺激をうけていないがん細胞にも影響を与えてがん細胞の転移巣(コロニー)の形成を促進するという、TGF-ßの新たな作用を明らかにしました。またこの作用は、マクロファージなどから構成されるがん微小環境のリモデリングによって媒介されることが示唆されました。

本成果は、がん微小環境における細胞間相互作用によるがん転移促進機構と、そのメカニズムを担う分子のがん治療標的としての可能性について有益な示唆をもたらしました。

「組織透明化手法を用いることにより、TGF-ßを介したがん微小環境の再構築を時空間的に解析することに成功しました」と久保田研究員は話します。「組織透明化手法はがん研究の分野ではまだ広く用いられていませんが、今後有力な解析技術となると思います。今回の研究で整備された機械学習を取り入れた解析基盤を使うことで、がん微小環境を構成する細胞が治療抵抗性に関わる役割を解明できるかもしれません」と宮園教授と江帾准教授は続けます。


組織透明化手法を用いたがん微小環境の可視化
蛍光タンパク質(黄色: mCherry)を発現している肺がん細胞をマウス尾静脈移植することによって肺転移を誘導した。摘出したマウスの肺を透明化し、平滑筋アクチンが染まる蛍光色素標識抗体(赤色: FITC)、血管内皮細胞増殖因子受容体3が染まる蛍光色素標識抗体(青色: Alexa 546)で染色し、がん細胞と脈管を観察した。本解析基盤では、がん微小環境の構成要素である脈管とがん細胞の空間的な関係性を可視化し、定量的に解析することが可能である。© 2021 宮園 浩平

論文情報

Shimpei I. Kubota, Kei Takahashi, Tomoyuki Mano, Katsuhiko Matsumoto, Takahiro Katsumata, Shoi Shi, Kazuki Tainaka, Hiroki R. Ueda, Shogo Ehata & Kohei Miyazono, “Whole-organ analysis of TGF-β-mediated remodelling of the tumour microenvironment by tissue clearing,” Communications Biology: 2021年3月5日, doi:10.1038/s42003-021-01786-y .
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