受容体に複数の状態が共存することが明らかに
2021-03-20 東京工業大学,理化学研究所,科学技術振興機構
ポイント
- さまざまな薬のターゲット分子であるヒトのアデノシンA2A受容体(A2AR)の活性化の鍵となる仕組みを解明。
- A2ARに複数の状態が共存し、その比率が活性化状態に依存して変化することを発見。
- A2ARのリガンド結合部位からGたんぱく質への長距離の情報伝達経路を特定。
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系のチャン・フ・ズイ 助教、北尾 彰朗 教授、理化学研究所 革新知能統合研究センターのアドナン・スリオカ 研究員、トロント大学のスコット・プロッサー 教授、カリフォルニア大学サンディエゴ校のロジャー・スナハラ 教授らの国際共同研究チームは、フッ素19核磁気共鳴法、分子動力学シミュレーション、数理剛性理論を組み合わせることで、ヒトのアデノシンA2A受容体(A2AR)の活性化の鍵となる仕組みを明らかにした。
A2ARは、Gたんぱく質と結合して細胞のシグナル伝達を開始する機能を持つGたんぱく質共役型受容体(GPCR)の一種である。がんや動脈硬化などさまざまな薬のターゲット分子として有用だが、薬理学的現象に重要であるGたんぱく質活性化のプロセスはこれまで十分明らかになっていなかった。
本研究では、核磁気共鳴法によって、A2ARには少なくとも2つの不活性状態と3つの活性状態が同時に存在しており、その共存比率がリガンドの結合やGたんぱく質の活性化状態に依存して変化することを明らかにした。また、分子動力学で得られたA2ARとGたんぱく質の複合体立体構造を数理剛性理論で解析することで、A2ARのリガンド結合部位からGたんぱく質へ長距離の情報伝達経路を特定できた。本研究でA2ARの活性化の鍵となる仕組みを解明できたことで、A2ARに作用する新たな薬剤の開発につながると期待される。
本研究成果は、2021年3月19日付の科学誌「Cell」オンライン版に公開され、同誌4月号に掲載される。
本研究は、以下の事業・研究領域・研究課題などの支援を受けて行われた。
科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域:「ビッグデータ統合利活用のための次世代基盤技術の創出・体系化」(研究総括:喜連川 優 国立情報学研究所 所長/東京大学 生産技術研究所 教授、副研究総括:柴山 悦哉 東京大学 情報基盤センター 教授)
研究課題名:「ビッグデータ時代に向けた革新的アルゴリズム基盤」(JPMJCR1402)
研究代表者:加藤直樹(兵庫県立大学 社会情報科学部 学部長・教授)
日本学術振興会(JSPS) 科研費
研究課題名:「先端シミュレーションで低分子結合が制御するGPCR活性化のメカニズムを探る」(19H03191)
研究代表者:北尾 彰朗(東京工業大学 生命理工学院 教授)
<論文タイトル>
- “Delineating the conformational landscape of the adenosine A2A receptor during G protein coupling”
- DOI:10.1016/j.cell.2021.02.041
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
北尾 彰朗(キタオ アキオ)
東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系 教授
アドナン・スリオカ
理化学研究所 革新知能統合研究センター 分子情報科学チーム 研究員
<JST事業に関すること>
舘澤 博子(タテサワ ヒロコ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループ
<報道担当>
東京工業大学 総務部 広報課
理化学研究所 広報室 報道担当
科学技術振興機構 広報課