世界初のmRNAの完全化学合成~精密分子デザインによる天然を凌駕するスーパーmRNAの創製~

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2022-06-17 名古屋大学,日本医療研究開発機構

国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の阿部 洋 教授(糖鎖生命コア研究所 統合生命医科学糖鎖研究センター分子生理・動態部門 教授)、阿部 奈保子 特任准教授らの研究グループは、酵素を用いないmRNAの完全化学合成法を世界で初めて開発しました。

本研究では、生物学的手法ではなく化学合成法を用いることで、mRNAを安価に大量に調製することを可能にしました。また、化学合成手法を用いることで、これまで不可能であったmRNAの精密分子デザインが可能になり、安定性や機能の向上が達成されました。本手法を用いて作られたスーパーmRNAはコロナウイルスなどの感染症ワクチン、癌ワクチン、再生医療等への応用が期待されます。

本研究成果は、2022年5月24日付アメリカ化学会雑誌「ACS Chemical Biology」に掲載されました。

本研究は、2021年度から始まった日本医療研究開発機構(AMED)の 革新的先端研究開発支援事業インキュベートタイプ(LEAP)事業「化学を基盤としたmRNAの分子設計・製造法の革新とワクチンへの展開」の支援のもとで行われたものです。

ポイント
  • 酵素を用いないmRNAの完全化学合成を世界で初めて開発した。
  • mRNAを安価に大量合成することが可能になった。
  • これまで不可能であったmRNAの精密分子設計が可能になった。
  • 天然を凌駕するスーパーmRNAは、コロナウイルスなどの感染症ワクチン、癌ワクチン、再生医療等への応用が期待される。
研究背景と内容

メッセンジャーRNA(mRNA)とは、遺伝子であるDNAから写し取った遺伝情報を担う分子です。細胞内で、mRNAを鋳型としてタンパク質が生合成されます。真核生物のmRNAは3 ʹ末端にポリA鎖を持ち、また、5ʹ末端には7位がメチル化されたグアノシン(m7G)を含む5ʹキャップと呼ばれる特徴的な構造を持ちます(図1)。5ʹ末端のキャップ構造は、3ʹ末端のポリA鎖と相互作用し、翻訳反応の開始や安定性の付与などに重要な役割を果たします。近年、試験管内で合成されたmRNAを生体に投与する、mRNA医療が実用化されました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し、SARS-CoV2のスパイクタンパク質をコードしたmRNAがワクチンとして現在、広く使用されています。このような長鎖のmRNAの合成は、RNAポリメラーゼを用いて酵素的に行われています。今回本研究グループは、mRNAを化学合成する場合に鍵段階となる、5ʹ末端キャップ構造の構築法として、簡便で高効率な手法を開発しました。核酸自動合成機で合成した5ʹリン酸化RNAに対し、m7Gジリン酸のイミダゾール活性化体を有機溶媒(ジメチルスルホキシド)中で反応させることで、95% という高い効率で目的のキャップ構造付加反応が起きることを見出しました(図2)。このようにして合成したキャップ化mRNAは、実際に、ヒト培養細胞中において高い翻訳活性を示しました。本研究においては、Cap-2キャップ構造と呼ばれる、RNA鎖の5ʹ末端の2つの塩基が2ʹ-O-メチル化されたキャップ構造を含む107塩基長のmRNAを合成し、このものが培養細胞において2ʹ-O-メチル基を持たないCap-0キャップ構造含有mRNAよりも2.6倍高い翻訳活性を示すことを明らかにしました(図3)。加えて、酵素合成法で合成した対照サンプルのRNA (IVT/ARCA、図3)よりも5.7倍高い翻訳活性を示しました。現在、Cap-2キャップ構造を効率的に構築する方法は確立されていないことから、本法の今後の応用が期待できます。また、非ヌクレオチド型の化学修飾注1)(トリエチレングリコール、図2)を導入したmRNAを合成し、その翻訳活性への影響を調べました。その結果、導入位置が非翻訳領域の場合は、ほとんど翻訳活性を下げないことも明らかにしました。これは、今後の化学修飾導入mRNAのデザインに役立つ知見です。


図1 真核生物のメッセンジャーRNA構造的特徴を示す図


図2 本研究成果の概要


図3 Cap-2キャップ構造構築の有効性を示す実験結果

成果の意義

化学合成mRNAには、任意の化学修飾を導入できます。これにより、mRNAの安定性改善や翻訳効率の向上を目指すことが出来ます。そのため、本手法は、現存のmRNA医薬の活性を飛躍的に改善する手法の有力なツールとして用いることが期待されます。

用語説明
注1)非ヌクレオチド型の化学修飾
天然に存在するRNA/DNA分子においては、ヌクレオチドと呼ばれる構成単位が連続的に連なり鎖状分子を形成する。本研究ではRNA分子を化学合成することで、天然のRNA分子に含まれることがない、トリエチレングリコール分子をmRNA鎖中に導入し、翻訳反応に及ぼす影響を調べた。
論文情報
雑誌名
ACS Chemical Biology
論文タイトル
Complete Chemical Synthesis of Minimal Messenger RNA by Efficient Chemical Capping Reaction
著者
Abe, Naoko(阿部 奈保子、特任准教授);Imaeda, Akihiro(今枝 昭裕);Inagaki, Masahito(稲垣 雅仁、特任助教);Li, Zhenmin(研究員);Kawaguchi, Daisuke(川口 大輔);Onda, Kaoru(恩田 馨); Nakashima, Yuko(中嶋 裕子、研究員);Uchida, Satoshi(内田 智士);Hashiya, Fumitaka(橋谷 文貴、助教); Kimura, Yasuaki(木村 康明、講師);Abe, Hiroshi(阿部 洋、教授)
DOI
10.1021/acschembio.1c00996
URL
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acschembio.1c00996
お問い合わせ先

研究内容に関するお問い合わせ先
東海国立大学機構
名古屋大学大学院理学研究科
教授 阿部 洋

報道に関するお問い合わせ先
東海国立大学機構 名古屋大学広報室

AMED事業に関するお問い合わせ先
日本医療研究開発機構(AMED)
シーズ開発・研究基盤事業部 革新的先端研究開発課

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