パーキンソン病モデルへのペランパネルの有効性~パーキンソン病の進行抑制治療への期待~

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2021-04-05 京都大学,日本医療研究開発機構

概要

パーキンソン病はドパミン神経が進行性の変性を起こす難病であり、本邦では20万人近くの患者が存在しています。パーキンソン病の治療法としてはドパミンを補充するなどの対症療法は存在しますが、病状は徐々に進行していくため、病状の進行自体を遅らせる治療法の開発が急務となっています。パーキンソン病の原因は、αシヌクレイン1)いう蛋白質が神経細胞に蓄積し、凝集することと考えられています。最近、この異常に凝集したαシヌクレインが神経細胞同士の間を伝播することで、脳に広く病変を形成し、病状を進行させるという現象が注目されています。

京都大学大学院医学研究科臨床神経学上田潤博士課程学生、上村紀仁同特定助教らのグループ(山門穂高同特定准教授、高橋良輔同教授ら)は、αシヌクレインフィブリル2)を投与した培養細胞とマウスを用いた実験により、抗てんかん薬の一種である「ペランパネル」が、αシヌクレインの伝播を抑制することを発見しました。ペランパネルは既に臨床で使用されている薬剤であるため、パーキンソン病の病状進行を抑える薬としても迅速な応用が期待されます。

本成果は、2021年4月5日午前0時01分(日本時間)に米国の国際学術誌「Movement Disorders」にオンライン掲載されます。


図1 パーキンソン病モデルマウスの脳におけるαシヌクレイン凝集体の伝播とペランパネルの効果
(一部画像をMouse Brain Atlasより引用)

背景

パーキンソン病(PD)は動作が緩慢になる等の運動機能障害を主徴とする進行性の神経変性疾患で、本邦で20万人近くが罹患しており、高齢化に伴い今後さらに患者数が増加することが予想されています。しかし、運動機能障害に対する対症療法は存在しますが、病状は徐々に進行して症状が悪化していくため、病状の進行を抑えることができる根本的な治療法(いわゆる疾患修飾療法3))の開発が急務となっています。

研究手法・成果

PDの原因は、αシヌクレイン(αS)の神経細胞内の異常な蓄積と、凝集体形成と考えられています。αSはPDの病理学的な特徴であるレヴィ小体という凝集体を構成する最も重要な成分です。さらに、PDの病態進行の背景には、αS凝集体の神経細胞間での伝播が深く関わっていると考えられています。すなわち、このαS凝集体の伝播を抑制できれば、病態進行を遅らせることができると考えられています。近年αSの生理的な動態に神経活動が影響を与えることが明らかになり、抗てんかん薬の一種である「ペランパネル」によって神経活動を抑制すると、PDモデルにおけるαSの伝播が抑制できるのではないかと考え、本研究に取り組みました。

本研究では、まず、人工的に作成したαSフィブリルを培養神経細胞に投与することで、その細胞内への取り込みとαS凝集体の形成を誘導しました。αSフィブリルは神経細胞内に取り込まれると細胞内の正常なαSを異常な構造へ変化させ、異常なαSが凝集してαS凝集体を形成します。この細胞モデルに対して、ペランパネルを投与すると、細胞内への取り込み機序の一つであるマクロピノサイトーシス4)が抑制され、同時にαSフィブリルの取り込みも抑制され、引き続いて起きる細胞内αS凝集体形成も抑制されることを発見しました。また、マウス脳内にαSフィブリルを接種することで、αS凝集体の形成を誘導できますが、このマウスモデルに対しても、ペランパネルの投与によりαS凝集体の形成が抑制できることを発見しました(図2)。αSフィブリルを接種した後からペランパネルを投与したマウスと比べて、αSフィブリルを接種する前からペランパネルを投与したマウスではαS凝集体の形成がさらに減少しており、PDの進展を抑える上で初期のうちから治療を開始することの重要性が示唆されました。


図2 ペランパネルはパーキンソン病モデルマウスのα-シヌクレイン凝集体を減少させる

波及効果、今後の予定

本研究の結果からはペランパネルによってαSフィブリルのような病原性蛋白の伝播を抑制することにより、PDの進行抑制効果が期待できます。さらにペランパネルは既に臨床で使用されている薬剤であるため、PDの疾患修飾療法への迅速な応用が期待されます。ただしPDに対するペランパネルの臨床応用に至るまでには、さらなる動物実験でペランパネルのPDモデルの表現型5)への効果を明らかにすることや、臨床試験で実際の患者への有効性を確認することなど、今後乗り越えるべき課題が残っています。

研究プロジェクトについて

本研究はAMED(革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト)からの支援による予算を主たる研究資金としています。

用語解説
1)αシヌクレイン
主に神経細胞に存在し、シナプス機能制御や神経可塑性に関与するタンパク質。パーキンソン病(PD)では異常なαシヌクレインが神経細胞に蓄積し、その凝集体はレヴィ小体を形成し、神経細胞毒性を持つと考えられている。
2)αシヌクレインフィブリル
αシヌクレインの単量体が多数結合したもの。
3)疾患修飾療法
疾患の経過を変えることができる、狭義には疾患の進行を抑制することができる治療法を指す。これに対して、症状を緩和するだけで疾患の進行抑制効果がないものを対症療法と呼ぶ。
4)マクロピノサイトーシス
細胞膜由来の小胞を介して細胞外の物質を細胞内へ取り込む機構をエンドサイトーシスと呼ぶ。マクロピノサイトーシスはエンドサイトーシスの一種で、マクロピノソームと呼ばれる大型のエンドソームを形成することを特徴とする。
5)表現型
生物の観察可能な特徴や症状のこと。
論文タイトルと著者
タイトル
Perampanel inhibits α-synuclein transmission in Parkinson’s disease models.(ペランパネルはパーキンソン病モデルにおけるα-シヌクレイン伝播を抑制する)
著者
Ueda J, Uemura N, Sawamura M, Taguchi T, Ikuno M, Kaji S, Taruno Y, Matsuzawa S, Yamakado H, Takahashi R.
掲載誌
Movement Disorders
DOI
10.1002/mds.28558
お問い合わせ先

上田潤(うえだじゅん)
京都大学大学院医学研究科臨床神経学 大学院生

報道に関してのお問い合わせ
京都大学総務部広報課国際広報室

AMED事業に関するお問い合わせ先
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
疾患基礎研究事業部疾患基礎研究課
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