家族性大腸腺腫症患者の治療選択拡大に期待~がん高危険度群に対する初のがん予防薬実用化を目指して~

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2021-04-02 京都府立医科大学,国立がん研究センター,日本医療研究開発機構

発表のポイント
  • 家族性大腸腺腫症(FAP)患者(※1)において8ヶ月間、1日100mgの低用量アスピリン服用によりポリープの増大を有意に抑制することを明らかにしました。
  • 大腸がんは左側大腸に多く発生する事が明らかとなっていますが、アスピリンが左側大腸においてより強いポリープ増大抑制効果を示すことが明らかとなりました。
  • 成人で大腸が保存されているFAP患者対象の試験としては世界最大の試験成果であり、従来大腸全摘出術が標準治療とされていたFAP患者にとって新たな治療法の選択肢となることが期待されます。
概要

京都府立医科大学大学院医学研究科分子標的予防医学石川秀樹特任教授と同武藤倫弘教授らからなる研究グループは、家族性大腸腺腫症(FAP)患者において低用量アスピリン(※2)がポリープの再発を有意に抑制することを解明し、その報告となる論文が、『THE LANCET Gastroenterology & Hepatology』にグリニッジ標準時2021年3月26日(日本時間2021年3月27日)付けで掲載されますのでお知らせします。

本研究は、がんの危険疾患であるFAPの患者の視点に立ってより良い治療法を開発しようと実施された第3次対がん総合戦略研究事業(厚生労働省)における研究を起点に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)設立とともに移管された後も引き続き行われてきました。今回、これらの試験結果について公表できる準備が整いました。

本研究成果をもとに、今後はFAP患者の治療選択肢が増え、これまでの予防的な措置として行われてきた大腸全摘出術に加え、低用量アスピリンを服用することで大腸がんの発生を予防/遅延するという「がん予防」を志向した手法が加わることが期待されます。

発表内容
研究分野の背景や問題点

本邦における家族性大腸腺腫症(FAP)の患者数は、現在約7,300人を数えています。この疾患はAPC遺伝子の病的変異により大腸に腺腫が多発するため(臨床診断基準では大腸腺腫を100個以上持つ患者)、ポリープがぱらぱらとみられるタイプ(非密生型)でも約60歳までにほぼ100%大腸がんを発生するなど、若年にてきわめて高い確率で大腸がんを発症することが知られています。

FAP患者に対する標準的ながん予防手法は、がん罹患の可能性が高い大腸を20歳頃に全て外科的に取り出してしまう「予防的な大腸全摘出術」しかありません。しかし、この治療では患者の生活の質の低下は避けられず、また手術によるデスモイド(※3)が発生する確率も高くなります。さらに、手術は20歳を過ぎた頃に考慮されるため、仕事や出産への影響を鑑みて手術を希望しない患者も近年増加しています。

本研究グループは以前、大腸腺腫を摘除した患者(FAP患者ではない患者)に低用量アスピリン(100mg/日)を2年間服用してもらうことで、大腸ポリープの発生を非投与群の6割(4割減)に減少させることが可能となることを報告しています(Gut 2014年)。この時ほぼ同時に計画していたのが、大腸がん発生確率が高いとされる「腺腫を数個持つ一般人」よりもかなり高い大腸がん発生確率が示されているFAP患者に対する同じ低用量アスピリンのポリープ増大抑制効果の検証でした。ただ7,300人という患者数を鑑みても希少疾患であるFAPについて、この試験を多数で行うことは容易ではなく、この度ようやくその有用性を科学的に示すことが出来ました。

大腸内視鏡により大きな腺腫をできる限り摘除した後に、低用量アスピリンを服用するという今回の試験で用いた手法は、大腸がんの発生を予防/遅延できる有効な方法として、FAP患者会を始めとする多くの患者たちから切望されていたものであります。

研究内容・成果の要点

これまでの臨床介入試験では、FAPではない大腸ポリープのある一般人に対する低用量アスピリンのポリープ抑制効果が認められていました。一方で、より症状の重い(ポリープ発生数が多い)FAP患者に対しては、低用量アスピリンによるポリープ抑制効果は報告されていませんでした。海外の報告でもFAP患者に対する高用量アスピリンの抑制効果が、副次評価項目として報告されるに留まっていました。

表1 今回実施した試験の概要

試験名(デザイン)J-FAPP Study IV(2×2 factorial design)
対象疾患5mm以上の腫瘍の摘除が終了したFAP患者
投与薬剤メサラジン(2g/日)、低用量アスピリン腸溶錠(100mg/日)およびプラセボ
症例数104人
投与期間8ヶ月間
主要評価項目介入期間に5mm以上の大腸腫瘍が発生した人の有無

上記条件により計104人の協力を得て試験を実施

今回、本研究グループの臨床試験において、FAP患者においても低用量アスピリンが大腸ポリープの増大を有意に抑制することが可能である、という主要評価項目におけるデータを得ました。潰瘍性大腸炎の治療薬であるメサラジンに関しては抑制傾向を示すにとどまりました。8ヶ月間、低用量アスピリンを服用すると、新たな大腸腫瘍が発生する患者の、補正オッズ比は0.37(95%CI:0.16―0.86)であり、アスピリンが有意に大腸腫瘍の増大を抑制することが示されました。本試験は試験薬を飲んでいる人も、投与している医師も、どちらがアスピリンを服用しているかがわからないように設計されている、最も治験レベルの高い「二重盲検ランダム化比較試験」(※4)として行われました。今回、その試験デザイン(統計学的手法)に合った主要評価項目(一番目的とする結果)として成果が得られたことは、臨床研究の中でも最も科学的エビデンスレベルの高い証拠を明確に提示できたということになります。

表2 今回実施した試験の主要評価項目の結果

また副次評価項目として、アスピリンが左側大腸ポリープに対してより強い抑制効果を示すことも見出しました。これは大腸がんが左側大腸に多く発生することを考えると、将来の大腸がん発生に対するアスピリンの予防効果がさらに期待される結果です。

FAP患者のこれまでの標準的ながん予防手法は、予防的な大腸全摘出術であり、臨床ガイドラインに従い、日本中のどの医療機関でも患者が成人した頃には予防的な大腸全摘出術が医師により勧められてきました。このことは我が国以外においても同様です。そのため、大腸が温存されているFAPの成人患者はほぼいません。オールジャパンで臨んだ今回試験では成人で大腸が温存されている希少なFAP患者を全国からリクルートすることによって、このような患者を対象とした試験としては世界最大規模の試験となりました。また、重篤な副作用が見られなかった試験であることも強調したいと思います。

今後の展開と社会へのアピールポイント

医療で用いられる標準的治療法を定めた「診療ガイドライン」は、科学的に高いエビデンスを集めて作成されています。そのため、質の高い研究手法に則った試験での主要評価項目における成果は、診療ガイドライン(※5)に反映させるための大きな一歩となります。本研究は(正に)この条件をクリアしている、明白な結果を示した、科学的根拠の伴った結果であると考えられます。我が国にはこれまでに保険収載された(承認された)がんの予防薬はありませんので、本試験の最終目的・意義としてはFAP患者に対して低用量アスピリンを重症化予防薬として実用化(保険収載)することになります。つまり、我が国における予防薬の第一剤目を目指しています。

またFAP患者でない場合でも、50歳の4割に大腸ポリープが見つかります。そしてこの大腸ポリープが大きくなることでポリープから大腸がんが発生するもの、と考えられています。この様な大腸がんが発生する一般的メカニズムはFAP患者における大腸がん発生メカニズムと遺伝学的には同じ機構によるものと考えられていますので、FAPに対してアスピリンが日本初のがん予防薬として承認された場合、中程度の大腸がんリスクがある(例えばポリープが複数見つかり、その内視鏡的摘出術を受けたような)対象への予防薬としても応用展開がなされていくことが十分に期待されます。

一方、日本人は欧米人に比べて脳内出血など出血を起こしやすいことがわかっています。そしてアスピリン服用は、脳内出血を含めた出血があったときには止血をしにくくさせることが知られているため、この点には十分な注意が必要です。このようなリスクを含め、低用量アスピリンの年単位の服用がFAPの病勢に与える影響に関してはまだ検討がなされてないため、長期投与を行う臨床試験を今後更に実施することが強く望まれます。

なお本試験は、日本医療研究開発機構(革新的がん医療実用化研究事業)における研究開発課題として実施しております。

AMED事業等について

現在、国立研究開発機構日本医療研究開発機構(AMED)革新的がん医療実用化研究事業「家族性大腸腺腫症の重症化リスク低減手法の実用化を目指した臨床介入研究」(研究代表者:武藤倫弘、令和2年度~令和4年度)を実施しています。

また、革新的がん医療実用化研究事業「大腸がん超高危険度群におけるがんリスク低減手法の最適化に関する研究」(研究代表者:武藤倫弘 平成29年度~令和元年度)、革新的がん医療実用化研究事業「大腸がん超高危険度群におけるがんリスク低減手法の最適化に関する研究」(平成26年度~平成28年度)における研究成果と合わせて、今回の成果発表となりました。

論文情報
雑誌名
THE LANCET Gastroenterology & Hepatology
論文名
Chemoprevention with low-dose aspirin, mesalazine, or both in patients with familial adenomatous polyposis without previous colectomy (J-FAPP Study IV): a multicentre, double-blind, randomised, two-by-two factorial design trial
(大腸摘出術がまだ施行されていない家族性大腸腺腫症患者に対するアスピリンやメサラジンを用いた化学予防 (J-FAPP Study IV): 2×2 ファクトリアルデザインによる多施設二重盲検ランダム化試験)
著者名
石川秀樹、武藤倫弘、佐藤康史、土山寿志、田近正洋、田中信治、堀松高博、竹内洋司、樫田博史、田代淳、江副康正、中島健、池松弘朗、堀伸一郎、鈴木貞夫、大谷隆浩、高山哲治、應田義雄、牟礼佳苗、若林敬二、酒井敏行
掲載日
日本時間2021年4月2日7時30分
用語解説
(※1)家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis:FAP)
本邦においてFAPの患者数は現在約7,300人を数えています。この病気ではAPC遺伝的の病的変異により大腸に腺腫が多発するため(臨床診断基準では大腸腺腫を100個以上持つ患者)、ポリープがぱらぱらとみられるタイプ(非密生型)でも約60歳までにほぼ100%大腸がんを発生するなど若年にて大腸がんをきわめて高い確率で発症することが知られています。
(※2)低用量アスピリン(商品名:バイアスピリン錠100mg)
シクロオキシゲナーゼ-1の阻害により、トロンボキサンA2の合成を阻害して抗血小板剤として臨床では用いられています。通常、成人は1回1錠(主成分として100mg)を1日1回服用します。痛み止めとして服用する市販のアスピリン一回量は本試験で用いたアスピリンの投与量の4~6倍程度の量であり、今回の試験の量では痛み止めの効果はありません。また、市販のアスピリンは痛いときにだけ服用する薬で、長期間連続で服用できるような薬の設計になっていないものもあります。本試験で用いた薬は、胃障害を軽減するため、胃を通過して小腸内でゆるやかに溶ける様に設計された特別な薬剤ですので、医師の処方がなければ入手できないものです。市販の痛み止めの薬を大腸がん予防のため継続的に服用することには大きな危険がありえますので、自己判断で勝手に市販のアスピリンなどを服用されることは厳にお控え下さい。
(※3)デスモイド
軟部組織にできる線維が増成する腫瘤で、手術外傷などに伴い発生することの多い病変。
(※4)二重盲検ランダム化比較試験
被験者も医師も試験薬の中身を知らない比較試験を二重盲検試験と言います。比較試験としては医師が試験薬の中身を知っている単盲検試験よりも質が高いとされます。ランダム化比較試験とは、研究の対象者を2つ以上のグループにランダムに分け、治療法などの効果を検証することです。ランダム化により検証したい方法以外の要因がバランスよく分かれるため、公平に比較することができます。
(※5)診療ガイドライン
医療者や患者が科学的根拠に基づいて適切な診断と治療を意思決定できる様に補助することを目的として、診療上の重要度の高い医療行為についての最新の情報を専門家が分かりやすくまとめた指針です。
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研究全般に関する問い合わせ
京都府公立大学法人 京都府立医科大学 大学院医学研究科
分子標的予防医学 教授 武藤倫弘

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