画像診断よりも優れた腫瘍マーカーの発見に成功!

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2021-04-13 金沢大学.東京工業大学,東京大学医科学研究所,神奈川県立がんセンター,アボットジャパン合同会社,日本医療研究開発機構

金沢大学附属病院総合診療部の山下太郎准教授および医薬保健研究域医学系の金子周一教授、東京工業大学生命理工学院の越川直彦教授(東京大学医科学研究所 人癌病因遺伝子分野 客員教授)、東京大学の清木元治名誉教授、アボットジャパン合同会社総合研究所の吉村徹所長らの共同研究グループは、肝がん発症の危険、転移の危険に関わる血液成分(血液マーカー)の同定に成功しました。

肝がんは年間約70万人が死亡する世界第3のがん死亡原因であり、日本でも毎年約3万人の患者が亡くなっています。C型肝炎ウイルス感染者は肝がんになる危険が高く、ウイルスの根治が可能となった現在でも肝がんになる危険がなくなることはありません。肝がんを診断する上で助けとなる新たな血液マーカーが求められていました。

研究グループは、これまでに細胞の接着や生存に関わる生体膜(基底膜)の主要成分であるラミニン※1の中でがん特異的に発現するラミニンγ2単鎖(LG2m)に着目し、血液検査で微量のLG2mを再現性よく測定できる手法の開発を行ってきました。今回、研究グループは、肝がん患者で血液中のLG2mを測定、LG2mが高い(60pg/ml以上)肝がん患者では低い患者(60pg/ml未満)に比べ約8-20倍、治療後に他臓器への転移(遠隔転移)が生じる危険が高いことを突き止めました(図1)。さらに研究グループは、C型慢性肝炎で治療によりウイルスが消失した肝がんのない患者で血液中のLG2mを測定し、LG2mが陽性(30pg/ml以上)の患者では陰性患者(30pg/ml未満)に比べ約20倍、肝がんを発症する危険が高いことを前向き多施設共同研究で明らかにしました(図1)。


図1 画像診断よりも優れた腫瘍マーカーの発見に成功

今回の研究成果から、血液中の微量LG2mの存在は肝臓ががん化する過程、遠隔転移を起こす過程において生じる何らかの異常を反映している可能性が示唆されます。今回の知見からは将来的にC型慢性肝炎患者における肝がん発症の予測因子や、肝がん患者における遠隔転移の予測因子として血液中のLG2m測定が活用されることが期待されます。

本研究成果は、2021年2月20日に米国医学誌『CHepatology』にAccepted Articleとして掲載されました。

研究の背景

肝がんは膵がんに次ぐ高悪性度がんとして知られ、C型肝炎ウイルスなどの肝炎ウイルス感染が肝がんの危険因子として知られています。基礎研究、創薬研究の成果により、C型肝炎は治療によりウイルスが消失する病気となりました。しかし、C型肝炎治癒後も肝がんを発症する危険が完全に消えるわけではなく、このような患者で肝がんを早期に診断する技術の開発が求められています。さらに高悪性度肝がんの特徴として肺や骨など他臓器に転移する能力(遠隔転移能力)がありますが、これまで転移を起こす前の段階でがんの遠隔転移能力を見出す方法はありませんでした。

研究グループはこれまでに上皮細胞の接着や生存に関わる生体膜(基底膜)の主要成分であるラミニンの中でがん特異的に発現するラミニンγ2単鎖(LG2m)に注目し、血液検査で微量のLG2mを再現性よく測定できる、アボット社アーキテクト測定装置を用いた検査薬の基礎研究、開発研究を行ってきました。本研究では血液中の微量LG2mの上昇が肝炎、肝がん患者の診断やその後の経過にどのような影響があるのか、基礎的、探索的、検証的研究を行いました。

研究成果の概要

がんにはがんの元となり、発生、増殖、転移、治療抵抗性にかかわるがん幹細胞※2の存在が知られています。研究グループはこれまでの肝がん幹細胞研究から、肝がんには局所で増殖する上皮系がん幹細胞(EpCAM陽性)と遠隔転移を制御する間葉系がん幹細胞(CD90陽性)の2種類が存在することを見出してきました(図2)。肝がんでは現在アルファ・フェトプロテイン(AFP)、ピブカ・ツー(PIVKA-II)の二つの腫瘍マーカーの測定が行われていますが、これらはいずれもEpCAM陽性細胞で発現しており、CD90陽性細胞での発現は認められません。今回14種類の肝がん細胞を用いてLG2mの測定を行ったところ、LG2m はAFP、PIVKA-IIが発現していないCD90陽性細胞でも上昇していること、肝がん患者血清を用いた測定データからAFP、PIVKA-IIとは相関のない新しいマーカーであることが分かりました(図2)。


図2 LG2mと既存の肝がん腫瘍マーカーとの関係

これまでの研究からCD90陽性細胞の存在は、肝がん治療後に遠隔転移を起こす危険が高いと考えられていることから、研究グループは肝がん診断時の血清LG2mと治療後の遠隔転移の関係について解析を行いました。肝がん診断時に血清LG2mが高値(60pg/ml以上)の患者では、治療後に高率に遠隔転移を引き起こし予後が悪いことが二つの独立した後ろ向きコホート(コホート1:治療として外科切除、もしくはラジオ波焼灼療法を受けた肝がん患者47例、コホート2:コホート1とは独立した、治療として外科切除、もしくはラジオ波焼灼療法を受けた肝がん患者81例)の解析で明らかになりました(図3)。現在用いられているAFP、PIVKA-IIではこのような傾向は全く認められないことから、血清LG2mの測定は遠隔転移能力の高い細胞集団を反映する、新たな肝がんマーカーである可能性が示唆されました。これまでにがん遠隔転移能力を反映する腫瘍マーカーは存在しないことから、本研究成果は世界で初めてのがん遠隔転移マーカーの開発につながる可能性が期待されます。


図3 診断時に血液中のLG2mが高値(60pg/ml以上)の肝がん患者は治療後に遠隔転移を起こすリスクが高い

さらに、研究グループは画像的に肝がんがないと診断されたC型慢性肝炎患者で血清LG2mを測定し、約1/3の患者で血清LG2mが健常人上限であるカットオフ値(30pg/ml)を超えていることを見出しました(図4)。血清LG2mが上昇している患者は経過で高率に肝がんを発症している一方、血清LG2mが正常な患者からは一例も肝がんを発症していないことが後ろ向きのコホート解析で明らかになりました(図4)。そこで、2014年から2018年までにC型肝炎ウイルス治療を受けウイルスが消失した、これまでに肝がんを発症したことがない399例の患者を登録、血清LG2mを測定し肝発がんを前向き多施設共同研究で検討しました。この結果、血清LG2mの上昇が認められる患者は正常な患者に比べ、経過で肝がんを発症する危険が約20倍高いことが明らかになりました(図4)。さらに、既存の肝発がん予測マーカーである血小板数や線維化マーカー、AFPなどと比較した結果、血清LG2mは最も肝発がんの危険に関わるマーカーであることが明らかになりました。


図4 血液中のLG2mが陽性(30pg/ml以上)のC型慢性肝炎患者(治癒後も含む)は、経過で肝がんを発症するリスクが高い

今後の展開

本研究により,血中に存在する微量の特殊な基底膜成分LG2mを測定することにより、1)画像的に肝がんのないC型慢性肝炎治療後の患者で、将来の肝発がんの危険を血液診断する、2)画像的に遠隔転移のない肝がん患者で、将来の遠隔転移の危険を血液診断する、という、がん研究における画期的な二つのブレイクスルーを将来達成することが期待されます。

研究支援

本研究は,国立研究開発法人日本医療開発機構(次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(患者層別化マーカー探索技術の開発)、肝炎等克服実用化研究事業、地球規模保健課題解決推進のための研究事業、 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)、文部科学省科学研究費補助金、アッヴィー合同会社、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ社、MSD社、ギリアッド・サイエンシズ社の支援を受けて実施されました。

掲載論文
雑誌名
Hepatology
論文名
Serum laminin g2 monomer as a novel diagnostic and predictive biomarker for hepatocellular carcinoma
(血清ラミニンγ2単鎖は新たな肝がん診断、肝発がん予測バイオマーカーである)
著者名
Taro Yamashita, Naohiko Koshikawa, Tetsuro Shimakami, Takeshi Terashima, Masatoshi Nakagawa, Kouki Nio, Rika Horii, Noriho Iida, Kazunori Kawaguchi, Kuniaki Arai, Yoshio Sakai, Tatsuya Yamashita, Eishiro Mizukoshi, Masao Honda, Azusa Kitao, Satoshi Kobayashi, Shizuko Takahara, Yasuhito Imai, Kenichi Yoshimura, Toshinori Murayama, Yasunari Nakamoto, Eisaku Yoshida, Toru Yoshimura, Motoharu Seiki, and Shuichi Kaneko
(山下太郎、越川直彦、島上哲朗、寺島健志、中川将利、丹尾幸樹、堀井里香、飯田宗穂、川口和紀、荒井邦明、酒井佳夫、山下竜也、水腰英四郎、本多政夫、北尾梓、小林聡、高原志津子、今井康人、吉村健一、村山敏則、中本安成、吉田栄作、吉村徹、清木元治、金子周一)
掲載日時
2021年2月20日にオンライン版に掲載
DOI
10.1002/hep.31758
用語解説
※1 ラミニン
ラミニンは基底膜を形成する巨大な糖蛋白質である。ラミニンγ2鎖はラミニンα3鎖、β鎖と会合して基底膜の主要成分であるラミニン332を構成する。ラミニンγ2単鎖は悪性がんの浸潤先進部で発現が亢進するがん特異的に発現するラミニン分子として同グループの越川が見出した。
※2 がん幹細胞
正常組織が正常幹細胞に維持されるように、がんの発生、維持、増殖、転移、治療抵抗性に必須の働きを果たす細胞集団のこと。自己複製能力、分化誘導能力、DNA損傷に対する抵抗性など幹細胞に類似した性質をもつ。
本件に関するお問い合わせ先

研究内容に関すること
金沢大学附属病院総合診療部 准教授
山下 太郎(やました たろう)

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