ニカルジピン静注による急性期脳出血患者の血圧管理: 研究参加者個々情報の統合解析

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2021-09-21 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の豊田一則副院長、古賀政利脳血管内科部長らの研究チームが、国内研究者と共同で行ったStroke Acute Management with Urgent Risk-factor Assessment and Improvement-IntraCerebral Hemorrhage study (SAMURAI-ICH)研究、国内外の研究者と共同で行ったAntihypertensive Treatment of Acute Cerebral Hemorrhage (ATACH)-2試験など3研究の研究参加者個々情報(individual participant data: IPD)を統合して解析した研究成果が、世界脳卒中機構 (World Stroke Organization)機関誌「International Journal of Stroke」オンライン版に、令和3年9月20日に掲載されました。

背 景

脳卒中は日本を含めたアジア諸国で発症率の高い病気ですが、とくに脳出血は高率に起こります。脳出血は脳梗塞と比べて死亡や重度後遺症を遺す割合が高く、しかも脳梗塞よりも治療開発が遅れています。脳出血の急性期治療法として、従来から積極的な降圧治療が注目されてきましたが、近年になってその科学的エビデンスが少しずつ集積されてきました。
国循の研究チームが中核的に参加した前向き観察研究SAMURAI-ICHと第Ⅲ相無作為化比較試験ATACH-2は、いずれも降圧薬ニカルジピンの持続静脈注射によって目標とする降圧範囲に正確に血圧値を調節して、脳出血患者の90日後臨床転帰を調べたものです。今回のIPD統合解析研究では、同じようにニカルジピンを用いて急性期脳出血治療を行い、一定の条件を満たす研究を、文献レビューによって集めました。その研究収集方法は、メタ解析登録サイトであるPROSPEROに掲載されています(課題番号42020213857)。その結果、上記2研究とATACH-2の前哨的研究であるATACH-1の3つの研究が、解析対象に選ばれました。

解析結果

3つの研究を併せて1,265 例(年齢 62.6±13.0歳、女性484例)が登録され、このうち499例(39%)が日本から登録されました。いずれの研究も脳出血発症後3~6時間以内にニカルジピン静注を始め、24時間以上投与を続けました。脳卒中転帰の尺度である修正ランキン尺度で4~6に当たる死亡または高度機能障害の90日後時点での割合は38.2%、24時間後の頭部CTにおいて血腫が6 mL以上拡大する割合は17.4%を占めました(図1)。ニカルジピン静注開始後24時間に記録された毎時の収縮期血圧値を平均した値は、死亡・高度機能障害(10 mmHg上昇する毎の調整オッズ比1.12、95%信頼区間1.00~1.26)や血腫拡大(調整オッズ比1.16、95%信頼区間1.02~1.32)との間に、有意な正の相関関係を認めました。また、治療開始後収縮期血圧値が140 mmHg以下に達するまでの時間が長いほど、死亡・高度機能障害の割合が有意に増えることも示されました(1時間遅れる毎の調整オッズ比1.02、95%信頼区間1.00~1.05)。一方で、血圧の到達レベルと重篤な有害事象との間に、一定の関係を認めませんでした。

謝辞

本統合解析に組み込まれたSAMURAI-ICH研究は、循環器病研究委託費(H20-019、H23- 010)により支援されました。同じくATACH-2試験の国内での試験遂行の一部は、国循循環器病研究開発費(H23-4-3、H28-4-1)により支援されました。

発表論文情報

著者: 豊田一則、吉村壮平、福田真弓、古賀政利、その他国内外多施設の研究者による共著
論文名: Intensive blood pressure lowering with nicardipine and outcomes after intracerebral hemorrhage: an IPD systematic review
掲載誌: International Journal of Stroke  (世界脳卒中機構機関誌)

※ 修正ランキン尺度は脳卒中患者の自立度を表す機能評価尺度で、0(無症状)~6(死亡)の7段階で評価する。両端矢印線で示した4~6が、死亡または高度機能障害を表す。

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