国際動脈硬化学会が策定した "重症"家族性高コレステロール血症 (=severe FH)は、 冠動脈ならびに脳・下肢動脈疾患発症の高リスク群であることを報告

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2021-09-22 国立循環器病研究センター

国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津欣也、略称:国循)の心臓血管内科 舟橋 紗耶華 研修生、心臓血管内科部 冠疾患科 片岡 有 医長、野口 暉夫 副院長、研究所 病態ゲノム医学部 堀 美香 客員研究員、研究責任者の研究所 分子病態部 斯波 真理子 非常勤研究員らの研究グループは、国際動脈硬化学会が策定した”重症”家族性高コレステロール血症 (=severe FH)は、冠動脈ならびに脳・下肢動脈疾患発症の高リスク群であることを報告しました。この研究結果は、Journal of the American College of Cardiology Asia誌に2021年9月22日付で掲載されました。

背 景

家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体(FH)は、顕著な高LDLコレステロール血症を特徴とする常染色体性遺伝子疾患です。FHは早発性の動脈硬化性心血管疾患を発症しうる疾患ですが、その心血管疾患発症リスクは個々の症例において大きく異なり、一部には冠動脈疾患だけでなく脳血管・末梢血管疾患を合併する重症症例も存在します。そのため、このような”真の高リスクFH”を同定し、適切な脂質管理を含めた予防治療を行うことが重要です。しかしながら、これまで高リスクFHを簡便に同定する方法は十分に確立されていませんでした。近年、国際動脈硬化学会よりLDLコレステロール値やリスクファクターの集簇等を基に高リスクFH=重症FH(=severe FH)を同定するアプローチが提唱されました (Santos, Harada-Shiba, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016;4:850-61)。しかし、このFHリスク層別化法により診断された日本人の”重症FH”の臨床的特徴や予後については十分に検証されていませんでした。故に、このリスク層別化法により定義される日本人の重症FHの臨床像を解明する臨床研究を行いました。

研究手法と成果

国立循環器病研究センターに受診あるいは入院されたFH症例480例において、動脈硬化性心血管疾患発症既往を有さないヘテロ接合体FH 380例を後ろ向きに解析しました。
重症FHは、国際動脈硬化学会の基準を基に、未加療LDL-C値 >400 mg/dl、LDL-C値 >310 mg/dl+リスク因子1つ、あるいはLDL-C値 >190 mg/dl+リスク因子2つと定義しました(リスク因子: 高血圧症、糖尿病、喫煙、早発性冠動脈疾患の家族歴、慢性腎不全、未加療年齢40歳以上、Lipoprotein(a) [Lp(a)]>50 mg/dl、HDL-C<40 mg/dl、BMI>30 kg/m2)。対象症例の40.3%は重症FHと診断されました。重症FH症例は非重症FH症例に比してLDLコレステロール値・中性脂肪値ならびに心臓病リスクを高める脂質粒子: リポプロテイン(a)が高値であり、低HDL-C血症も合併していました。更に、アキレス腱肥厚や黄色腫の合併頻度も重症FHにおいて有意に高率でした。7.4年間の観察期間において、重症FH症例の初回心血管イベント(心臓・非心臓イベントの複合エンドポイント)発生リスクは、非重症FHに比べて7.8倍高く(95%信頼区間2.56-23.5, p値<0.001)、心臓イベント(心臓死+冠動脈疾患+冠動脈血行再建)ならびに非心臓イベント(脳梗塞+下肢閉塞性動脈硬化症)発生リスクも、非重症FHに比してそれぞれ15.4倍、5.9倍と有意に高率でした。さらに、これらの動脈硬化性心血管疾患の再発リスクについても、重症FHは非重症FHに比べて7.9倍も高いことが明らかとなりました(95%信頼区間2.97-20.9, p値<0.001)。

今後の展望と課題

日本人における重症FHは、LDLコレステロール高値など顕著な脂質異常症を合併しており、動脈硬化性心血管疾患の発症・再発リスクが高率でした。本研究結果から、日本人の重症FHを早期に診断し、適切な脂質管理療法を速やかに導入する必要性が示唆されました。今後は、このような重症FHに対する最適な治療アプローチの確立も必要であり、さらなる研究を進めていく予定です。

 

発表論文情報

著者: Sayaka Funabashi, Yu Kataoka, MD, Mika Hori, Masatsune Ogura, Yuriko Nakaoku, Kunihiro Nishimura, Takahito Doi, Ryo Nishikawa, Kosuke Tsuda, Teruo Noguchi, Mariko Harada-Shiba
題名: Substantially Elevated Atherosclerotic Risks in Japanese Severe Familial Hypercholesterolemia Defined by the International Atherosclerosis Society
掲載誌: Journal of the American College of Cardiology Asia

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