配偶者同士は生活も一緒、病気も一緒?~日本・オランダにおけるバイオバンクを利用した国際共同研究~

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2021-09-22 東北大学東北メディカル・メガバンク機構,日本医療研究開発機構

研究のポイント
  • 日本(東北大学)とオランダ(フローニンゲン大学Lifelines)の公的バイオバンクを利用した一般地域住民の夫婦ペアの生活と健康の関係に関する国際共同研究の成果を論文発表しました。
  • 日本・オランダの一般地域住民の夫婦ペア総計約3万組を対象に生活習慣、医学検査値、疾病の類似性を検討した結果、さまざまな項目で配偶者同士の類似性が確認されました。遺伝的に類似性が低く、生活習慣は類似性が高い夫婦間で多くの相関がみられたことから、生活習慣の重要性が示唆されました。
  • 心血管・代謝疾患予防の新たな方略として、夫婦一緒の保健指導、そして夫婦で励まし合い、競争し合うことによる効果的な生活習慣の変容が期待できます。
概要

日本・オランダの一般地域住民の夫婦ペアを対象に、生活習慣、医学検査値、疾病の類似性を両国の公的バイオバンクを利用し検討しました。日本の情報は東北メディカル・メガバンク計画、オランダはLifelines研究※1で得られたものです。

喫煙・飲酒・運動などの生活習慣、体重、腹囲、肥満度(Body Mass Index)、血圧、総コレステロール・中性脂肪・HDL-コレステロール・LDL-コレステロールなどの検査値、高血圧・糖尿病・メタボリック症候群の疾患について、配偶者同士の類似性が確認されました。この結果は日本・オランダともに同様でした。

これらの指標から導き出される心血管・代謝疾患リスクが配偶者同士で類似していることから、生活習慣病予防の新たな方略として、健康診断等で夫婦一緒に保健指導を行う、夫婦で励まし合い・競争し合うような環境を作るなどの施策により、効果的な生活習慣への改善が期待できます。また、夫婦は遺伝要因よりも環境要因を共有していることから、環境要因と疾病の関連をより明確にできる可能性があります。

本研究成果は、Atherosclerosis誌にて、2021年8月26日に公開されました。

詳細
背景と目的

これまで、配偶者同士の心血管・代謝疾患のリスク因子(生活習慣、医学検査値、疾病の有無)の類似性を2国間で調査し、比較した研究はありませんでした。今回の国際共同研究は、日本人とオランダ人の集団間の心血管・代謝疾患のリスク因子について、配偶者同士の類似性を定量化して比較することを目的としました。

方法

日本の東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)地域住民コホート研究からは5,391ペア(2013–2016年に調査)が、オランダのLifelinesコホート研究からは28,265の配偶者ペア(2006–2013年に調査)が研究に参加しました。心血管・代謝疾患のリスク因子として喫煙・飲酒・運動などの生活習慣、高血圧・糖尿病・メタボリック症候群の疾病(表1)、体重、腹囲、肥満度(Body Mass Index)、血圧、総コレステロール・中性脂肪・HDL-コレステロール・LDL-コレステロールなどの検査値(表2)について、配偶者同士の類似性を評価しました。分析は配偶者の年齢を考慮した相関分析またはロジスティック回帰分析を使用して評価しました。

表1:心臓代謝関連疾患リスク要因における夫婦同士の一致度
心臓代謝関連疾患リスク要因の夫婦同士の一致度が示された

リスク要因Lifelines
コホート研究
ToMMo 地域住民
コホート研究
年齢調整オッズ比
(95% 信頼区間)
年齢調整オッズ比
(95% 信頼区間)
現在喫煙6.86
(6.30,7.48)***
4.60
(3.52,6.02)***
現在飲酒5.14
(4.70,5.61)***
2.83
(2.39,3.35)***
十分な運動習慣2.14
(1.96,2.35)***
2.76
(2.28,3.32)***
高血圧1.45
(1.36,1.55)***
1.20
(1.05,1.38)**
2型糖尿病1.59
(1.29,1.94)***
1.34
(0.96,1.83)
メタボリック症候群1.77
(1.65,1.90)***
1.72
(1.47,2.02)***

***P<0.001
**P<0.01

表2:心臓代謝関連疾患リスク要因における夫婦同士の相関分析
心臓代謝関連疾患リスク要因の夫婦同士の相関は非常に低いものの有意な結果であった

リスク要因Lifelines
コホート研究
ToMMo 地域住民
コホート研究
年齢調整オッズ比
(95% 信頼区間)
年齢調整オッズ比

(95% 信頼区間)

年齢#0.955(0.954,0.956)0.934(0.930,0.937)
体重0.225(0.214,0.236)0.110(0.084,0.137)
身長0.205(0.194,0.216)0.175(0.149,0.201)
腹囲0.263(0.252,0.274)0.126(0.092,0.160)
BodyM ass Index0.248(0.237,0.259)0.136(0.109,0.163)
収縮期血圧SBP0.123(0.111,0.134)0.086(0.059,0.113)
拡張期血圧DBP0.086(0.074,0.097)0.073(0.046,0.100)
HbA1c0.098(0.085,0.110)0.080(0.051,0.109)
総コレステロール0.050(0.039,0.062)0.101(0.057,0.145)
中性脂肪0.093(0.081,0.105)0.129(0.102,0.155)
HDLーコレステロール0.106(0.094,0.118)0.100(0.073,0.126)
LDLーコレステロール0.032(0.020,0.044)0.095(0.060,0.129)
結果

ToMMo地域住民コホート研究の夫と妻の平均年齢は63.2歳と60.4歳、とLifelinesコホート研究の夫と妻の平均年齢は50.0歳と47.7歳でした。配偶者同士の類似性は両方のコホートのすべての心血管・代謝疾患のリスク因子および疾患で確認されました。検査値の夫婦同士の類似性について、相関係数は0.032から0.263の範囲であり、体重や腹囲で相関係数が高い値を示しました。生活習慣の夫婦同士の類似性について、現在喫煙のオッズ比※2は約5倍、現在飲酒、運動習慣で2倍以上と配偶者同士の類似性が示されました。疾病について、高血圧、糖尿病、メタボリック症候群の年齢調整オッズ比はいずれも約1.5倍であり夫婦同士の類似性が示されました。

この成果は、2021年8月26日に、欧州動脈硬化学会(European Atherosclerosis Society:EAS)が出版するAtherosclerosis誌のオンライン版で公開されました。

今後の展望

日本人とオランダ人の2国の集団間で、殆どの心血管代謝疾患のリスク因子に類似性が示されたことにより、疾患予防として以下のような新たな施策が考えられます。

  • 健康診断等で夫婦一緒に保健指導を行う(問題認識の共有)
  • 夫婦で励まし合い、競争し合うよう誘導する(日常生活における健康管理)

こういった施策で効果的な生活習慣の変容ができる可能性があります。また、遺伝要因よりも環境要因を共有する夫婦の類似性の結果から、環境要因と疾病の関連をより明確化できる可能性があります。

論文情報
タイトル
Spousal similarities in cardiometabolic risk factors: A cross-sectional comparison between Dutch and Japanese data from two large biobank studies
日本語タイトル
循環・代謝疾患リスク要因における配偶者同士の類似性:日本・オランダ大規模バイオバンクを利用した横断研究
著者
Naoki Nakaya, Tian Xie, Bart Scheerder, Naho Tsuchiya,  Akira Narita, Tomohiro Nakamura, Hirohito Metoki, Taku Obara, Mami Ishikuro, Atsushi Hozawa, Harold Snieder, Shinichi Kuriyama
掲載誌
Atherosclerosis
掲載日
2021年8月26日
DOI
10.1016/j.atherosclerosis.2021.08.037
参考
東北メディカル・メガバンク計画について

東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として平成23年度から始められ、被災地の健康復興と、個別化予防・医療の実現を目指しています。ToMMoと岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査を平成25年より実施し、収集した試料・情報をもとにバイオバンクを整備しています。

東北メディカル・メガバンク計画は、平成27年度より、日本医療研究開発機構(AMED)が本計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。

用語説明
※1 Lifelines研究
オランダ北部で実施された大規模な前向きコホート研究です。オランダ北部に住む167,729人を対象とした三世代の家族をリクルートしています。評価項目は幅広く、一般集団の健康と疾病に寄与する生物医学的、人口統計学的、行動学的、身体的および心理的要因を多面的に評価しています。さらに、複雑な遺伝的要因と複数の疾患発症に焦点を当てており、この研究の重要な位置付けとなっています。
※2 オッズ比
要因と曝露の関連の強さを示す指標です。今回の研究に当てはめると、夫婦のうちの夫の生活習慣・病気の有無(要因)と、妻の生活習慣・病気の有無(曝露)が一致しているかどうかを分析しました。その結果、高い一致度が示されました。
お問い合わせ先

研究に関すること
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
健康行動疫学分野
教授 中谷 直樹(なかや なおき)

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
長神 風二(ながみ ふうじ)

AMED事業に関すること
日本医療研究開発機構 ゲノム・データ基盤事業部 ゲノム医療基盤研究開発課

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