8Kスーパーハイビジョン技術を医療応用する国家プロジェクト
2021-11-02 国立がん研究センター,NHKエンジニアリングシステム
発表のポイント
- 日本発の放送技術8K映像システムで手術映像をリアルタイムに送受信し、遠隔で手術を支援(指導)するシステムを開発し、世界初の実証実験で医学的有用性を確認しました。
- 実証実験の結果、本物に迫る立体感を保持した8Kの映像により遠隔地でも手術状況を詳細に把握可能となり、遠隔支援(指導)を加えることで、外科医の内視鏡技術が向上し、手術時間が短縮することを確認しました。
- 今後さらに、外科医を1名減らしても質の高い腹腔鏡下直腸切除術が実施できるかどうかを確認し、実証実験の結果を踏まえ、医療機器としての承認に向けた計画を策定し、本システムの社会実装によりわが国の外科医偏在等の課題解決を目指します。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉)中央病院(病院長:島田和明、所在地:東京都中央区)と一般財団法人NHKエンジニアリングシステム(理事長:黄木紀之、所在地:東京都世田谷区)などの研究チームは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「8K等高精細映像データ利活用研究事業」の支援により実施している8Kスーパーハイビジョン技術(以下、8K技術)を用いた新しい腹腔鏡手術システムの開発とそれを応用した遠隔手術支援システムに関する研究において、遠隔手術支援(手術指導)の実証実験を動物で行い実用化に向けた有用性を確認しました。
実証実験では、8K技術ならではの超高精細映像による「本物に迫る立体感」を保持した手術現場の映像を、伝送画質と符号化・復号化の遅延を最適化した状態で伝えることで、遠隔地においても手術状況が詳細に把握可能であり、質の高い腹腔鏡下直腸切除術が実施されました。今後、さらに実証実験を重ね、医療経済的な観点からの分析を行い、遠隔手術支援の普及を目指し、医療機器としての承認に向けた計画を策定します。
プロジェクト成果について
8K映像は、従来のハイビジョンの16倍にあたる3,300万画素の超高精細映像で、その密度は人間の網膜に迫ると言われる日本発の最先端の放送技術です。
この8K映像を遠隔手術支援型の内視鏡手術機器に応用するのは初の試みで、8K映像ならではの超高精細映像による「本物に迫る立体感」を保持した手術現場の映像を伝えることで、遠隔地においても手術状況が詳細に把握可能となり、高い質での遠隔手術支援の実現およびわが国の抱える外科医師の偏在の課題解決、最近のコロナ禍における遠隔支援に寄与することが期待されます(図1、図2、図3)。
図1 8K遠隔手術支援ソリューションシステム
8Kスーパーハイビジョン技術を用いた腹腔鏡手術システムによる遠隔手術支援システムのイメージ
図2 本プロジェクトによる課題解決イメージ
医師が不足している地域の病院と首都圏など医師が充足している地域の病院とをつなぎ、外科医師の偏在を補います。
図3 本プロジェクトによる課題解決イメージ
既存技術の課題と本プロジェクトによる新技術での課題解決
開発課題と目標
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
課題名
8K内視鏡システムを応用した遠隔手術支援システムに関する研究」
代表者
国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 大腸外科科長 金光幸秀
共同研究者
一般財団法人NHKエンジニアリングシステム、オリンパス株式会社、ハイズ株式会社
本プロジェクトでは、AMEDの支援により実施した先行研究「8Kスーパーハイビジョン技術を用いた新しい内視鏡(硬性鏡)手術システムの開発と高精細映像データの利活用」(2016年度から2018年度実施)で開発した試作器の実用化・普及を目指し、超高精細ながら大容量の8K映像を、無線も含むネットワークで低遅延・高画質で送受信し、遠隔から手術指導の支援を行うことで、遠隔地において少ない外科医でも質の高い手術の実施が可能か検討を行いました。
- 8K 内視鏡システムにより得られた高精細な手術映像データ等を、手術を実施する医師と遠隔地にて指導する医師との間でスムーズに送受信し、得られた情報から術中の重要点の提示等を可能とする遠隔手術支援システムの開発を実施
- 遠隔手術支援システムの医療上の有用性等について検証し、医療機器としての実用化・普及に向けた具体的計画を策定
- 8K内視鏡手術映像データベースの構築を行い、診断等への利活用に向けた具体的方策の検討・検証を通じて、医療の質の向上等に向けた具体的計画を策定
プロジェクトの成果
本プロジェクトでは、先行研究の課題であった視野展開、伝送の低遅延化の克服に取り組み、実証実験で医学的有用性を確認しました。
実証実験では、NHKエンジニアリングシステムと池上通信機株式会社が共同開発した小型8K内視鏡カメラとオリンパスが開発した8K腹腔鏡を用いた腹腔鏡手術システムを使い、手術室を想定した実験サイト(千葉県)で実施される動物の直腸切除術の生映像を光ファイバ、5G等のブロードバンドを使って遠隔地(京都府の京阪奈オープンイノベーションセンター)に低遅延でライブ配信するとともに(図4)、外科医3名での手術に対し遠隔支援がある場合とない場合での内視鏡手術技術の改善度を評価しました。
その結果、
- 8K内視鏡映像に遠隔支援を加えることで、外科医の内視鏡技術が向上し、手術時間が短縮することを確認しました。
- 8K内視鏡遠隔手術支援システムの映像伝送では、映像伝送レート80Mbps、遅延時間約600ミリ秒で伝送できることを確認し、医療従事者による別の評価実験で得られた同システムに必要な映像伝送レート80Mbps以上、許容映像遅延時間1.3秒以下という基準を満足することが確認されました。
今後さらに、遠隔手術支援下での外科医数3名および2名での手術完遂度などを評価し、外科医を1名減らしても質の高い腹腔鏡下直腸切除術が実施できるかどうかを確認し、これら実証実験の結果を踏まえて、光ファイバ、5Gなどを利用した遠隔支援型8K内視鏡手術システムによる低遅延ライブ伝送や「4K8K高度映像配信システム」への手術映像のアーカイブなどさらなる開発を進めるとともに、医療経済的な観点からの分析も行い、近い将来の社会実装に向けた具体的計画の策定に取り組んでいきます。
図4 実験システムの概要
参考
総務省
8K技術の応用による医療のインテリジェント化に関する検討会
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02ryutsu02_03000261.html(外部サイトにリンクします)
NHKエンジニアリングシステム:8K映像システムの医療応用
問い合わせ先
報道関係からのお問い合せ先
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室
一般財団法人NHKエンジニアリングシステム
関連ファイル
8K腹腔鏡手術システムによる映像を伝送し遠隔で手術支援を行う 世界初の実証実験で医学的有用性を確認(PDF:1.4MB)