アフリカで新世界型回帰熱ボレリア細菌の分離に成功~回帰熱は南部アフリカにも常在~

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2018-11-19 北海道大学,国立感染症研究所,ザンビア大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • アフリカのザンビア共和国において発熱患者から新種の回帰熱ボレリア属細菌を分離。
  • 回帰熱ボレリア属細菌を媒介する節足動物と自然界での保菌動物を特定。
  • 回帰熱ボレリア属細菌の進化・系統・分布に関する研究の進展に期待。
概要

北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター(邱 永晋博士研究員、杉本 千尋名誉教授)、同大学院獣医学研究院、国立感染症研究所、ザンビア大学の研究グループは、ザンビア共和国において発熱患者から回帰熱ボレリア細菌を分離することに成功しました。遺伝子解析の結果、分離されたボレリア細菌は、北米大陸に分布する新世界型のボレリア属細菌に近縁な未知の新種であったことから、この新種ボレリアをBorrelia fainii(ボレリア ファイニイ)と名付けることを提唱しました。
研究グループは、Borrelia fainiiを媒介する節足動物と自然界での保菌動物を探索し、洞窟に生息するコウモリが保菌する病原体が、Ornithodoros faini(オルニソドロス ファイニ)というヒメダニ科のマダニを介してヒトに感染したことを明らかにしました。これらの結果は、南部アフリカにも回帰熱が常在し、ヒトの健康被害が生じている可能性が高いことを示唆しています。
なお、本研究成果は、2018年11月13日(火)公開の米国感染症学会の機関誌であるClinical Infectious Diseases誌に掲載されました。
分離したボレリア属細菌(左),媒介節足動物のマダニ(中央),自然宿主のコウモリ(右)
分離したボレリア属細菌(左),媒介節足動物のマダニ(中央),自然宿主の(右)

背景

回帰熱は、回帰熱ボレリアの感染によって引き起こされる細菌感染症です。マダニやシラミなどの吸血性節足動物によって媒介され、これに刺された後、1週間程度の潜伏期間を経て発症します。罹患すると、3日程度の発熱と7日程度の無熱期を繰り返すことが知られており、このことが回帰熱という名前の由来です。回帰熱は南ヨーロッパ、中央アジア、北アメリカ大陸、アフリカサハラ砂漠周辺で流行していますが、これらの地域のなかでもアフリカは患者数も多く、公衆衛生上の重要な問題となっています。
回帰熱を引き起こす回帰熱ボレリアは、遺伝学的解析から北米大陸に分布する新世界型とそれ以外の地域に分布する旧世界型に分けられています。これまでにも、アフリカ大陸において新世界型回帰熱ボレリアの遺伝子が検出されたとする報告がありましたが、ボレリア細菌の分離には成功しておらず、また自然界における媒介節足動物や保菌動物も判明していませんでした。また、研究の行われたザンビアを含む南部アフリカでは、ナミビアで感染したと推定される回帰熱患者が1名報告されているほかは、ヒトに病気を起こす回帰熱ボレリアの存在についてはほとんど調査されていませんでした。

研究手法

ザンビア共和国のザンビア大学獣医学部に設置された北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター・ザンビア拠点に、ザンビア大学内病院から、ダニに刺されて発熱した患者の病原体検査依頼がありました。研究グループは患者血液からDNAを抽出し、回帰熱ボレリア属細菌の遺伝子を特異的に増幅するPCR法で実験室診断を実施しました。また、患者血液をBSK培地に接種し、ボレリア属細菌の分離を試みました。
次に、媒介節足動物を特定するため患者がマダニに刺された洞窟でマダニを採集し、PCR法により検査しました。さらに、自然宿主を特定するため洞窟に生息するコウモリを捕獲し、脾臓・肝臓からDNAを抽出、同様にPCR法で検査しました。また、コウモリの血液をBSK培地に接種し、ボレリア属細菌の分離を試みました。
分離に成功したボレリア属細菌からDNAを抽出し、次世代シーケンス技術(MiSeq)を利用して、患者とコウモリから分離されたボレリア属細菌のゲノム情報を取得しました。このゲノム情報の一部を用い、ボレリアの遺伝子配列バンクと照合するとともに、系統樹解析により分離された細菌の同定を行いました。

研究成果

患者血液からボレリア属細菌の遺伝子が検出され、患者はボレリア感染症と診断されました。また、患者血液からのボレリア属細菌の分離に成功しました。
洞窟で採集したマダニ(Ornithodoros faini )50匹中20匹から、ボレリア属細菌の遺伝子が検出されました。また、洞窟内で捕獲したコウモリの脾臓・肝臓の乳剤237サンプル中64サンプルからボレリア属細菌の遺伝子が検出されました。また、3匹のコウモリ(Rousettus aegyptiacus)血液サンプルからボレリア属細菌の分離に成功しました(図1)。
分離されたボレリア細菌のゲノム解析をもとに、患者とコウモリから分離されたボレリア属細菌は、北米に分布するボレリア属細菌と同じ新世界型回帰熱ボレリアに属する新種であることが判明しました(図2)。この新種のボレリア属細菌をBorrelia fainiiと名付けることを提唱しました。
図1.Borrelia fainiiの感染様式
図1.Borrelia fainiiの感染様式
図2_Borrelia fainiiの分子系統学的解析
図2.Borrelia fainiiの分子系統学的解析
発見されたBorrelia fainii(赤字)は新世界型回帰熱ボレリア属細菌に分類された。

今後への期待

本研究により、今までほとんど報告のなかった南部アフリカにも回帰熱が存在することが証明されました。同地域でも、マラリア等の熱性疾患と回帰熱の鑑別診断(疾患を絞り込むための診断)が重要だと考えられます。また、遺伝子解析の結果から、分離された細菌は北米大陸に分布するボレリア属細菌と同じグループである新世界型回帰熱ボレリアに分類されました。本菌(Borrelia fainii )を用いたさらなる研究により、回帰熱ボレリア属細菌の進化・系統・分布に関する研究の進展が期待されます。
なお、本研究は国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)、地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業及び文部科学省科学研究費助成事業(新学術領域研究、若手研究(A・B))の支援のもと実施されました。

論文情報
論文名
Human borreliosis caused by a New World relapsing fever Borrelia-like organism in the Old World(旧世界における新世界型回帰熱ボレリア感染に起因するヒトのボレリア症)
著者名
邱 永晋1,中尾 亮2,Bernard Mudenda Hang’ombe3,佐藤 梢4,梶原 将大1,Sharon Kanchela3,Katendi Changula3,衛藤 芳樹1,Joseph Ndebe3,佐々木 道仁1,May June Thu1,高田 礼人1,5,澤 洋文1,5,6,杉本 千尋1,5,川端 寛樹41北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター,2北海道大学大学院獣医学研究院,3ザンビア大学,4国立感染症研究所,5北海道大学国際連携研究教育局(GI-CoRE),6Global Virus Network)
雑誌名
Clinical Infectious Diseases(感染症学の専門誌)
DOI
10.1093/cid/ciy850(有効になるまではhttps://academic.oup.com/cid/advance-article-abstract/doi/10.1093/cid/ciy850/5181421)
公表日
2018年11月13日(火)(オンライン公開)
お問い合わせ先

北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター 名誉教授 杉本 千尋(すぎもとちひろ)

配信元

北海道大学総務企画部広報課

AMED事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 感染症研究課
感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業
国際事業部 国際連携研究課
地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)

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