がん遺伝子パネル検査データの研究開発利活用が開始

ad
ad

保険診療で得られたデータを日本のがんゲノム医療の発展に還元

2021-09-28 国立がん研究センター,がんゲノム情報管理センター

発表のポイント

  • がんゲノム情報管理センター(C-CAT)が、がんゲノム医療で行われたがん遺伝子パネル検査の情報を研究・開発に利活用いただくための「利活用検索ポータル」の運用を開始しました。
  • 厳正な審査の下、医療機関、学術機関、企業等の幅広い研究者が、C-CATの「利活用検索ポータル」に集積された遺伝子変化や診断・治療効果等の臨床経過に関する情報(2021年9月時点で約2万例)を研究開発に活用できるようになります。
  • 本取組は、患者さん、医療機関の皆様のご協力によって達成された、世界でも例を見ない保険診療と研究開発イノベーションによる協働開発です。
  • 保険診療で得られたデータを学術研究や医薬品開発等に活用することで、がん医療が発展し、がんゲノム医療の成果が患者さんをはじめ多くの方に還元されることが期待されます。

発表概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)がんゲノム情報管理センター(略称: C-CAT、センター長:間野博行)は、保険診療で行われたがん遺伝子パネル検査から得られた遺伝子変化の情報と診断・治療効果・副作用等の臨床経過に関する情報を研究や開発に利活用いただくための「利活用検索ポータル」の運用を10月4日より開始します。
がん遺伝子パネル検査は、標準治療がないまたは局所進行または転移が認められ標準治療が終了となった固形がんの患者さん(終了が見込まれる方を含む)を対象に、2019年6月より保険診療で行われており、現在までに200施設を超える全国のがんゲノム医療中核拠点病院・がんゲノム医療拠点病院・がんゲノム医療連携病院(以下、「がんゲノム医療中核拠点病院等」)のご協力により、2万例を超える遺伝子パネル検査と臨床経過等の情報がC-CATに集積されています。C-CATの「利活用検索ポータル」では、検査を受けられた患者さんの同意に基づき、厳正な審査の下で、医療機関、学術機関、企業等の幅広い研究者が学術研究や医薬品等の開発に、これらの情報を利活用することができるようになります。
全国の研究者に、C-CATに集積されたデータを役立てていただくことにより、がん医療が発展し、がんゲノム医療の成果が患者さんに還元されることが期待されます。

背景と目的

がん遺伝子パネル検査が保険診療で用いられるようになり、がん細胞のゲノムを調べて、どの遺伝子に変化が起こっているのかを知り、その変化に対応した治療法を選択するがんゲノム医療が本格的に開始されています。
C-CATでは、患者さんの同意に基づいて、がん遺伝子パネル検査で検出された遺伝子の変化や診療情報を収集しています。この収集は、がんゲノム医療中核拠点病院等や検査企業の多大なご協力のもと行われ、2021年8月末にはその登録数は2万例を超えています。C-CATは、それぞれの遺伝子の変化に対応して治療効果が期待できる薬剤や治験・臨床試験の情報を「C-CAT調査結果」としてがんゲノム医療中核拠点病院等に返却し、患者さんの治療法の選択に役立てていただいており、2020年8月末時点の厚生労働省の調査では、がん遺伝子パネル検査によって、既に標準治療が終了した患者さんの8.1%(607人/7,467人)が、遺伝子の変化に基づく治療を受けたとされています。今後、治療を受けられる患者さんをさらに増やすためには、遺伝子の変化に基づいた治療開発を一層促進する必要があります。
そこでC-CATでは、がん遺伝子パネル検査で検出される遺伝子の変化と患者さんの診療情報を、学術研究や医薬品等の開発に役立てていただく「利活用検索ポータル」の運用を開始しました。

20210928_fig1.jpg

C-CAT「利活用検索ポータル」の特徴

C-CATにご自身のデータを登録することに同意くださった患者さんの99.7%が、学術研究や医薬品等の開発のために、学術研究機関や企業にご自身のデータを提供すること(二次利活用)に同意いただいています。C-CATの「利活用検索ポータル」では、情報利活用審査会の適正な審査のもと、二次利活用に同意いただいた患者さんの匿名化されたデータをがん種、遺伝子変化、薬剤名、治療効果などで検索を行い、結果を閲覧することができます。
C-CATの「利活用検索ポータル」を利用することにより、日本人のがんでは、特定の遺伝子変化がどのくらいの頻度で生じているか、遺伝子変化と病態や治療への応答性・有害事象(副作用)に結びつきがあるかなどを調べることができます。また、特定の遺伝子変化を持つがんの患者数を把握することが可能となり、日本人に適した抗がん剤の臨床試験の計画や実施が促進されると期待されます。また、登録されている大規模なデータを用いた研究により、新しいがんの診断法や治療法が開発されることも期待されます。

データ利用の情報公開について

C-CAT は、C-CATの「利活用検索ポータル」に集積されたデータの利用を行う機関の名称や課題名等についてホームページで公開します。患者さんのご同意・ご理解のもと、また、がんゲノム医療中核拠点病院等、検査企業のご協力により集積される貴重なデータが、どのように学術研究や医薬品等の開発のために利活用されているか、情報公開を行ってまいります。
https://www.ncc.go.jp/jp/c_cat/use/release/index.html

20210928_fig2.jpg

今後の展望

C-CATの「利活用検索ポータル」に集積されたデータの利活用は、がんの研究・開発を大きく推進するものと考えます。その結果、日本のがんゲノム医療が進展し、患者さんに多くの有効な治療法が届くことを期待しています。

  • 日本人のがんにおける遺伝子の変化と治療薬の効果、有害事象との関係が明らかになり、がんの個別化医療がより適切に行われるようになります。
  • 日本人のがんに適した新しいがんの治療薬の開発(創薬)や新たな臨床試験が行われ、患者さんにより多くの有効な治療法が届くことが期待されます。
謝辞

利活用検索ポータルの運用を可能としてくださった、以下の方々にC-CAT一同感謝申し上げます。日本や世界のがんゲノム医療の発展に貢献できるよう、引き続き尽力してまいります。

  • C-CATへのデータ登録、利活用にご同意いただいた患者さん
  • 遺伝子パネル検査のデータ・診療情報の登録にご協力いただいたがんゲノム医療中核拠点病院等の方々
  • 遺伝子パネル検査のデータを登録くださった検査企業の方々
参考情報

2018年6月1日 プレスリリース
がんゲノム情報管理センター(C-CAT)開設
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2018/0601/index.html

2020年12月1日プレスリリース
新規ホームページ「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査」を公開
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/

解説

がんゲノム医療について
がん細胞のゲノムを調べて、どの遺伝子に変化が起こっているのかを知り、それぞれの患者さんのがんがどのような性質のがんなのか、どのような治療法が適しているのかを選択していくのが、がんゲノム医療です。例えば、日本人の肺がんではEGFRという遺伝子の変化が3割から5割の方のがんで見られます。このようながんを持つ患者さんは、EGFRタンパク質に対する阻害薬(分子標的薬)の効果が高いことが知られています。そのため、その時点では、他の抗がん剤よりもまず、EGFR阻害薬を用いた治療を行うことが、その患者さんには適していると言えます。

がん遺伝子パネル検査について
数十から数百個の遺伝子の変化を一度に調べることで、がん細胞におきている遺伝子の変化を調べる検査です。がん細胞の遺伝子の変化、つまり特徴を知ることで、患者さんのがんに適した治療法を検討します。令和元年から、全国のがんゲノム医療病院(がんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院)では保険診療としてがん遺伝子パネル検査を受けられるようになりました。現在では、3種類の遺伝子パネル検査が保険診療で用いられており、C-CATはそれら3種類の検査の情報を収集しています。がんゲノム医療病院については以下のサイトに情報を掲載しています。
https://for-patients.c-cat.ncc.go.jp/hospital_list/

がんゲノム医療中核拠点病院等について
ゲノム医療を必要とするがん患者さんが、全国どこにいてもがんゲノム医療を受けられる体制を構築するために厚生労働省により指定・公表された医療機関のことを指し、これらの施設で保険診療としての遺伝子パネル検査が受けられます。2021(令和3)年10月1日の時点で、全国合計228施設が指定・公表されています。がんゲノム医療中核拠点病院(12施設)・がんゲノム医療拠点病院(33施設)は、臨床研究・治験の実施、遺伝子カウンセリング体制等、国の指定要件を満たすことで指定されます。また、これらの施設と連携して、遺伝子パネル検査の結果を踏まえた医療を行うがんゲノム連携病院(183施設)が合わせて公表されます。がんゲノム医療中核拠点病院等については以下のサイトに情報を掲載しています。

がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院について|がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査|国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)
がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院についてのページです。地域・都道府県から病院を検索できる外部サイトへのリンクや、病院一覧データを掲載しています。全国どこにいても、がんゲノム医療を受けられる体制を目指しています。

https://www.mhlw.go.jp/content/000829244.pdf(外部サイトにリンクします)

C-CATについて
国は、全国どこにいても良質ながんゲノム医療が受けられるように、がんゲノム医療中核拠点病院・拠点病院・連携病院(228病院: 2021(令和3)年10月1日付)からなるがんゲノム医療診療体制の整備を進めています。2018(平成30)年6月、国によって国立がん研究センター内に「がんゲノム情報管理センター」が設置されました。がんゲノム情報管理センターは、がんゲノム医療病院で、患者さん一人ひとりの遺伝子パネル検査の結果、得られる配列情報および診療情報を集約・保管し、利活用するための機関です。がんゲノム情報管理センターは、その英語名 Center for Cancer Genomics and Advanced Therapeutics の頭文字から、略称で「C-CAT(シー・キャット)」とも呼ばれています。

C-CATの役割について
C-CATは、次の三つの役割を持ちます。一つ目は、患者さん一人ひとりの遺伝子パネル検査の結果、得られる配列情報および診療情報を集約・保管したデータベースを厳格に管理・運営することです。二つ目は、がんゲノム医療を行う病院とデータを共有し、がんゲノム医療の質の確保・向上に役立てることです。そして三つめは、大学などの研究機関や製薬会社などの企業で行われる研究開発のための基盤を提供することです。三つ目に該当するC-CATデータの利活用については、基本方針や利活用ポリシー等が第4回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議(令和3年3月5日開催)で了承され、今回ご紹介する「利活用検索ポータル」が開設されました。

C-CATへのデータ登録状況
がん遺伝子パネル検査を受ける患者さんから同意をいただいた場合、検査データや診療情報がC-CATに登録されます。登録されたデータは大切に保管され、患者さんご自身の診療支援と将来の医療のために使われます。また、がん遺伝子パネル検査を受ける患者さんには、C-CATに登録されたご自身のデータを学術研究や医薬品などの開発目的で利用するために第三者に提供すること(二次利活用)に同意いただけるかおたずねしています。登録や二次利活用への同意の状況は、以下のホームページで公開しています。

C-CAT登録状況|がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査|国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター(C-CAT)
C-CAT登録状況のページです。現在のがん遺伝子パネル検査データの登録数として、C-CATレポジトリー登録数累計・月間登録数、二次利用の同意割合、がん種内訳などをご覧いただけます。

データ利用申請について
C-CATデータの利用申請には、所属施設等における倫理審査委員会による承認を前提条件とします。C-CATデータを利用する研究・開発計画を立案いただき、倫理審査委員会の承認後、C-CAT情報利活用戦略室に申請書をお申込みいただきます。次に、C-CAT情報利活用審査会により、適切な審査が行われ、審査で利活用申請が承認されますと、C-CATとの間で「C-CATデータの利用許諾等に関する契約」が結ばれ、1年間の利用が開始となります。詳しくは、C-CAT利活用のページをご覧ください。

利活用のページ
国立がん研究センター がんゲノム情報管理センターのホームページです。

データの公表や成果・知的財産権について
C-CAT データの利用者は、C-CAT データを用いた研究成果を論文等で公表することができます。また、C-CAT データの利用から生じる成果や知的財産権は利用者に帰属するものとします。詳しくは、C-CAT データ二次利活用ポリシーに記載しております。

https://www.ncc.go.jp/jp/c_cat/use/download/K20210312Policy.pdf

問い合わせ

データ利活用に関するお問い合わせ先
国立研究開発法人国立がん研究センター
がんゲノム情報管理センター 情報利活用戦略室

広報窓口
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室

ad

医療・健康
ad
ad
Follow
ad
タイトルとURLをコピーしました