窒素肥料依存による環境負荷の低減につながる発見
2021-11-17 岡山大学,東京都立大学,理化学研究所
◆発表のポイント
- Anabaena sp. PCC 7120は数珠繋ぎの糸状性シアノバクテリアの一種であり、窒素欠乏条件下でヘテロシストと呼ばれる特殊な細胞を形成することが知られていますが、ヘテロシスト内でどのような励起エネルギー伝達が行われているか不明でした。
- 本研究では、純度の高いヘテロシストを調製し、光化学系タンパク質の発現および励起エネルギー伝達機構を調べました。
- ヘテロシストには光化学系II(PSII)の分子集合中間体が存在し、PSII中間体から光化学系I(PSI)へ励起エネルギーが伝達されないことを明らかにしました。
岡山大学異分野基礎科学研究所の長尾遼特任講師、東京都立大学大学院理学研究科の得平茂樹准教授らの共同研究グループは、理化学研究所環境資源科学研究センターの堂前直ユニットリーダーらと共に、シアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120の窒素欠乏条件下で形成されるヘテロシストのタンパク質発現および励起エネルギー伝達機構の解明に成功しました。この結果から、ヘテロシストでは光化学系II(PSII)の分子集合中間体が存在し、PSII中間体から光化学系I(PSI)へ励起エネルギー伝達されないことが明らかになりました。本研究成果は貧栄養条件の中での光合成生物の生存戦略に対して知見を与えるものであります。11月15日に欧州の科学雑誌「Biochimica et Biophysica Acta – Bioenergetics」にオンラインで掲載されました。
◆研究者からのひとこと
Anabaena sp. PCC 7120はヘテロシストと呼ばれる興味深い細胞を形成します。ヘテロシストの特性を調べるためには、それ自身を高純度に調製する必要があります。共同研究者による専門的な技術により、高純度なヘテロシストの調製を実現し、生化学および分光学分析を行いました。本研究によりヘテロシスト特有の励起エネルギー伝達機構を解明しました。
■論文情報
論 文 名:“Excitation-energy transfer in heterocysts isolated from the cyanobacterium Anabaena sp. PCC 7120 as studied by time-resolved fluorescence spectroscopy”
「時間分解蛍光分光によるアナベナヘテロシストの励起エネルギー伝達機構の解明」
掲 載 紙:Biochimica et Biophysica Acta – Bioenergetics
著 者:Ryo Nagao, Makio Yokono, Yoshifumi Ueno, Yoshiki Nakajima, Takehiro Suzuki, Ka-Ho Kato, Naoki Tsuboshita, Naoshi Dohmae, Jian-Ren Shen, Shigeki Ehira, and Seiji Akimoto
URL/DOI:https://doi.org/10.1016/j.bbabio.2021.148509
図. 本研究の概要および成果
<お問い合わせ>
岡山大学 異分野基礎科学研究所
特任講師 長尾 遼 (ながお りょう)
東京都立大学大学院理学研究科
准教授 得平 茂樹 (えひら しげき)