2021-12-10 京都大学
概要
藤林俊介 医学研究科特定教授は、令和3年12月9日に「カスタムメイド型多孔体チタン人工骨を用いた腰椎側方固定術の安全性と有効性に関する臨床試験(特定臨床研究)」の第一例目の手術を実施しました。手術は予定通り終了し、術後評価は良好です。
藤林 特定教授、竹本充 京都市立病院整形外科部長、西村賢治 株式会社京・クリエイト代表取締役らの研究グループは、3Dプリンターを用いることで、難治性の腰痛治療に用いる患者個々の椎間板形状に適合するインプラントを開発しました。これにより、従来のインプラントで発生していた、形状が既定されているために挿入時に椎間板形状と適合しない事例を防ぐことができるようになりました。また、表面の化学処理により骨との親和性を向上させたことにより、従来、必要とされていたインプラント内部に充填するための自家骨採取も不要となりました。
今後、症例数を重ねることで、安全性と有効性を確立するとともに、上市を目指した開発を進める予定です。
本臨床試験のイメージ
背景
難治性の腰痛治療に対しては、低侵襲の腰椎側方固定術が広く行われています。この腰椎側方固定術では、変性した椎間板にインプラントを挿入し、椎間板の高さを復元しますが、インプラント内部に自家骨を充填する必要があり、そのためには自家骨採取の新たな侵襲を伴います。また、椎間板の形状は患者個々によって様々で、特に変性した椎間板の形状は正常椎間板と大きく異なります。しかしながら、通常診療で用いるインプラントの形状はあらかじめ決まっており、挿入した際に椎間板形状と適合しないことがあり、手術成績不良の因子となっていました。
本研究グループは、上記問題を解決するために、3Dプリンターを用い、患者個々の椎間板形状に適合するインプラントを開発しました。論文1同時に、自家骨採取を不要とするために、インプラントの内部の構造を制御するとともに、表面の化学処理により骨との親和性を向上させることができました。患者適合型腰椎インプラントは、世界に類を見ない開発となります。また、表面処理技術を用いたインプラント開発はすでに臨床応用され、これまでに優れた成績を報告しており、安全性と有効性が確立されています。論文2
研究手法・成果
患者椎間板形状に適合するインプラントを設計するために、正常椎間板形状の計測を行い、そのデータをもとにソフトの開発を行いました。同時にオンデマンド製造を可能とするオーダーシステムの開発を行いました。
今回、開発したシステムを用いて患者適合型のインプラントを作製し、3名の疾病患者の治療に用い、安全性と有効性の評価を行います。なお、本研究は特定臨床研究として学内ならびに厚労省の承認を得て行っています。これら技術が一般化することにより、より低侵襲かつ効果的な腰椎疾患の治療が実現すると考えています。
波及効果、今後の予定
令和3年12月9日に第一例目の手術が無事終了し、術後評価も良好でした。今後は症例数を重ね、安全性と有効性を確立するとともに、今後の市販化に向けた問題点を解決し、2-3年後の上市を目標とし、開発を加速化させていきたいと思います。
研究プロジェクトについて
研究開発責任者:藤林俊介(京都大学大学院医学研究科・運動器機能再建学講座・特定教授)
事業化推進責任者:西村賢治(株式会社京・クリエイト代表取締役)
本研究への支援:京都大学インキュベーションプログラム
共同研究機関:京都市立病院、株式会社京・クリエイト、株式会社ジー・キューブ、アツキ動物医療センター
参考
論文1
タイトル
Stand-Alone Anterior Cervical Discectomy and Fusion Using an Additive Manufactured Individualized Bioactive Porous Titanium Implant without Bone Graft: Results of a Prospective Clinical Trial(カスタムメイド型チタン人工骨を用いた頸椎前方再建術の安全性と有効性に関する臨床試験)
著者
Shunsuke Fujibayashi, Mitsuru Takemoto, Takashi Nakamura, Tomiharu Matsushita, Tadashi Kokubo, Kiyoyuki Sasaki, Shigeo Mori, Shuichi Matsuda
掲載誌
DOI:10.31616/asj.2020.0231
論文2
タイトル
A novel synthetic material for spinal fusion: a prospective clinical trial of porous bioactive titanium metal for lumbar interbody fusion(生体活性チタン多孔体を用いた腰椎椎体間固定の臨床試験)
著者
Shunsuke Fujibayashi, Mitsuru Takemoto, Masashi Neo, Tomiharu Matsushita, Tadashi Kokubo, Kenji Doi, Tatsuya Ito, Akira Shimizu, Takashi Nakamura
掲載誌
DOI: 10.1007/s00586-011-1728-3