2021-12-15 京都大学
様々な循環器疾患の終末像である心不全は、心筋の収縮や弛緩の障害を基盤とする予後不良の症候群であり、その病態に心筋細胞内カルシウムイオン調節の異常が深く関与することが知られています。心筋細胞内カルシウムイオン調節においては細胞外から細胞内へカルシウムイオンを透過させるL型カルシウムチャネル(LTCC)と、細胞内に存在しカルシウムイオンを蓄えている心筋筋小胞体(SR)からのリアノジン受容体2(RyR2)を介したカルシウムイオン動員が重要な役割を果たします。正常な心筋の収縮には心筋に存在するT管と呼ばれる膜構造におけるLTCCとSRとの連関が重要であることが知られています。心不全ではこうしたカルシウムイオン動員機構に異常が生じており、T管でのLTCC活性が低下し、それ以外の表面細胞膜においてLTCC活性が上昇することや、カルシウムカルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII (CaMKII)などの病的なカルシウムシグナルが活性化しSR上のRyR2のリン酸化を引き起こしその正常な機能を阻害していることなどが知られていますが、これらの病態形成に関与する詳細なメカニズムは明らかではなく、その解明による新規治療薬開発が望まれています。
今回、中川靖章 医学研究科助教、桑原宏一郎 信州大学教授、山田充彦 同教授らの研究グループは、ミシガン大学、順天堂大学らと共同で、転写抑制因子NRSFにより制御され不全心において発現亢進する遺伝子GNAO1の発現抑制が複数のマウス心不全モデルにおいてその病態を改善すること、逆に心筋におけるGNAO1の過剰発現は心機能低下を引き起こすことを見出しました。またGNAO1が心不全にかかわるメカニズムとして、GNAO1によりコードされるタンパク質Gαoの発現亢進が心筋表面細胞膜におけるLTCCの活性を上昇させることで心筋細胞内での病的カルシウムシグナル経路の活性化とカルシウムイオン調節恒常性破綻をきたすことを見出し、Gαoの病的ストレスによる心筋での発現亢進が心不全の発症・進展にかかわっていることを世界で初めて明らかにしました。
本研究は心不全の新しい治療薬開発に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2021年12月8日に、国際学術誌「Circulation Research」にオンライン掲載されました。
図:本研究の概要図
研究者情報
研究者名:中川靖章