AIを用いてマウスのグルーミングを検出

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2022-02-02 東京大学

発表のポイント
  • AI(畳み込みニューラルネットワーク)(注1)を用いて、マウスを撮影した動画から自動的にグルーミング(毛づくろい)(注2)を検出する方法を開発した。
  • グルーミングの頻度や長さは、動物の心と体の状態を理解するうえで重要な指標だが、これまで人が観察する以外に評価する簡便な方法がなかった。
  • 本研究は特殊な装置を必要とせず、ヒトの観察とほぼ同じ精度でマウスの体と顔のグルーミングを分けて自動的に検出することができるという点で、画期的である。
発表概要

実験動物として広く用いられているマウスやラットを含む多くの動物は、顔や体の毛づくろいをする。このような行動をグルーミングと呼ぶ。グルーミングの頻度や長さ、対象部位は動物の心理的、身体的な状態を知るための非常に有用な指標として知られており、ストレス刺激や、自閉症や認知症などの疾患、薬剤投与によってそのパターンが変化する。分かりやすい例を挙げると、健康な動物の毛並みが美しく、健康を損ねた動物の毛並みが乱れるのは、健康状態によってこのグルーミングの頻度や長さが変わるからである。現在、多くの研究において目視によるグルーミング行動の評価が行われているが、この方法は実験者の負担が大きく観察時間に限界がある。また、観察する人や環境によって実験結果が異なるため、客観性や再現性という点でも不十分である。
東京大学大学院農学生命科学研究科の坂本直観学部生、小林幸司特任助教、村田幸久准教授らの研究グループは、AI(畳み込みニューラルネットワーク)を用いて、動画からマウスの顔と体のグルーミング行動を自動判定する方法の開発に成功した。
本研究は、マウスのグルーミングを低コストで長時間かつ自動的に検出できる点で画期的である。これらの技術により高い再現性や客観性をもって動物の微細な心と体の変化を捉えられるようになると考えられ、動物実験の効率の大幅向上が期待される。

発表内容

AIを用いてマウスのグルーミングを検出

図1 AIによるマウスのグルーミングの検出
動画を撮影してラベル付け、畳み込みニューラルネットワークを学習させた。これを用いて試験動画のマウスのグルーミングの検出を行い、検出精度を評価した。その結果、ヒトの観察と変わらない、高精度のグルーミングの自動検出が可能となった。

【研究の内容】
本研究ではまず上部にビデオカメラをセットし、ケージを上からのアングルで動画撮影できる環境を整えた。そのケージ内にマウスを入れ行動を撮影した各動画をフレームごとにまとめて、各画像を観察しながら「グルーミングなし」、「顔のグルーミング」、「体のグルーミング」に分類し、ラベル付けを行った。その上でラベル付けした画像セットを教師データとして、畳み込みニューラルネットワークの学習を行った。
続いて、学習に用いていない動画を用いて各フレームがどの分類にあたるかを学習済みの畳み込みニューラルネットワークに予測させ、人によるラベル付けと比較した。その結果、体のグルーミングを感度87.2%・陽性的中率90.2%、顔のグルーミングを感度78.6%・陽性的中率89.2%の精度で識別することができた。学習済みの畳み込みニューラルネットワークが間違える画像のパターンを解析し、これを補整するフィルターを適用し、改善を試みた。その結果、体のグルーミングを感度91.9%・陽性的中率88.5%、顔のグルーミングを感度81.3%・陽性的中率83.5%の精度で識別することができた。また、グルーミング回数の評価は人の観察と畳み込みニューラルネットワークの予測で同等であった(相関係数 顔のグルーミング:R=0.93、体のグルーミング:R=0.98)。

【結論と意義】
本研究によって、畳み込みニューラルネットワークを用いた部位別のグルーミング行動の自動判定法が確立できた。本技術は、ヒトが動物の心を読む手助けとなるものであり、動物実験の省力化および評価速度の向上にもつながることが期待される。
現在、自閉症や認知症、統合失調症といった中枢性疾患の治療方法の開発が求められている。しかし、これらヒトの疾患の病態を適切に反映できる動物モデルや解析方法が少なく、治療方法の開発が進まない原因となっている。今回確立した技術により、動物の心の機微と体の変化を捉えることが可能となれば、ヒトの中枢性疾患の病態解明や治療方法の開発にも大いに役立つことが期待される。

発表雑誌
雑誌名
Frontiers in Behavioral Neuroscience
論文タイトル
Automated grooming detection of mouse by three-dimensional convolutional neural network
著者
Naoaki Sakamoto†, Koji Kobayashi1†, Teruko Yamamoto, Sakura Masuko, Masahito Yamamoto, Takahisa Murata.
DOI番号
10.3389/fnbeh.2022.797860
論文URL
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnbeh.2022.797860/full
発表者
坂本 直観(東京大学農学部 獣医学専修 5年生)
小林 幸司(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 特任助教)
山本 晃子(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 修士課程:研究当時)
益子  櫻(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 博士課程3年生)
山本 雅人(北海道大学 大学院情報科学研究院 教授)
村田 幸久(東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 准教授)
問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 応用動物科学専攻 放射線動物科学研究室
准教授 村田 幸久(むらた たかひさ)

用語解説

注1 畳み込みニューラルネットワーク
脳の神経回路を模した数理モデルの一種で、画像認識を得意とする。

注2 グルーミング
動物が体の衛生や機能維持、他動物とのコミュニケーションなどを目的として行う毛づくろい行動。健康な動物はグルーミングの頻度が高く、毛並みがよい。

生物工学一般
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