自閉スペクトラム症には脳内のドーパミンD2/3受容体の減少が関連し、社会的コミュニケ―ションの困難さや脳部位間の機能的な結びつきに関与していることが明らかに

ad
ad
ad

2022-02-21 浜松医科大学,日本医療研究開発機構

研究成果のポイント
  • 自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder:ASD)と診断される方の多くに、脳内でドーパミンD2/3受容体の減少を認めました。
  • この減少は、ASDの中核症状である社会的コミュニケーションの困難さや、ASDに特徴的とされる脳部位間の機能的な結びつきに関与することを見出しました。
  • 脳内ドーパミンD2/3受容体の減少は、ASDの「社会的動機付け仮説」を裏付けるものであり、さらに新たな治療薬開発の標的となりうることを支持する研究成果です。
概要

浜松医科大学精神医学講座の村山千尋医師と山末英典教授らは、同子どものこころの発達研究センターの岩渕俊樹特任助教や同光尖端医学教育研究センター生体機能イメージング研究室の尾内康臣教授らと共同し、浜松PET診断センター設置の浜松ホトニクス社製頭部用陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography、以下PET)装置を用いて、自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder: ASD)1)に脳内のドーパミンD2/3受容体の減少が関連し、この減少は、ASDの中核症状である社会的コミュニケーションの困難さや、ASDに特徴的とされる脳部位間の機能的な結びつきに関与していることを見出しました。脳内ドーパミンD2/3受容体の減少は、ASDの「社会的動機付け仮説」を裏付けるもので、さらに新たな治療薬開発の標的となりうることを示す成果です。なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の脳科学研究戦略推進プログラム『臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳):発達障害・統合失調症研究チーム(チーム長:浜松医科大学・山末英典教授)』の一環として行われました。研究成果は、Nature Publishing Groupの医学誌「Molecular Psychiatry」に日本時間2022年2月18日(金)午前10時に公表されました。

研究の背景

ASDは、一般人口の54人に1人の割合で認められる頻度の高い発達障害です。その中心的な特徴として、視線、表情、抑揚、ジェスチャー、そして言葉を介して他者と交流することが難しく社会生活に制約が生じるという社会的コミュニケーションの困難さ、および、興味が偏り同じ行動を繰り返しやすく変化に対して混乱しやすいという常同行動・限定的興味がみられますが、これらを起こす分子的なメカニズムは分かっていませんでした。

この社会的コミュニケーションの困難さを説明する仮説として「社会的動機付け仮説」が提唱されています。この仮説によると、定型的な発達をする人では、他の物よりも人の顔に自然と注意が向く、対人交流に喜びを見出す、といった社会的な注意や喜びを選択しやすい傾向があるのに対し、ASDの診断がつく人ではこの傾向が弱いとされています。実際、社会的な場面を好む傾向に関与する脳部位の活動性を調べた研究では、ASDに関連した多数の機能変化が報告されていました。しかし、その脳機能の違いに関与する分子メカニズムはわかっていませんでした。我々は、注意や喜びに関連することで知られる神経伝達物質であるドーパミンに注目しました。ドーパミンの受容体には大きく分けてD1(D1、D5が含まれる)とD2(D2、D3、D4が含まれる)という2つのグループがありますが、ASDに関連してD2受容体グループの分布の変化があるかどうかは、線条体と呼ばれる脳部位以外では調べられていませんでした。また、ASDに関連して、脳部位間の機能的な結びつきのパターンに変化があることが多数報告されていましたが、その分子的な原因はわかっていませんでした。

そこで本研究は、ASDに関連して脳内のドーパミンD2受容体グループの分布に変化があり、そのことが社会的コミュニケーションの困難さや脳部位間の機能的な結びつきの変化に関連しているという仮説を立て、ドーパミンD2受容体グループの中で多数を占めるD2/3(D2およびD3)受容体を検出する陽電子放射断層撮影を行いました。

研究の成果

本研究では、ASDと診断された22名の方と定型的な発達を示す24名の方が参加し、PETとMRIの撮像を受けて頂き、PETトレーサー[11C]FLB457を用いて線条体以外でドーパミンD2/3受容体の豊富な脳部位でかつドーパミン投射系の主要な経路である、黒質、腹側被蓋野、扁桃体、背側および吻側前部帯状回、視床の5つの亜区域の計10領域(図1、2)のドーパミンD2/3受容体への[11C]FLB457結合能(D2/3受容体密度を反映した指標)の変化を調べました。


図1 ドーパミンD2/3受容体結合能のPET画像と測定領域の例


図2 視床の5つの亜区域

その結果、定型的な発達の方と比べてASDと診断された方では、ドーパミンD2/3受容体が元来豊富な脳領域全般にわたって、ドーパミンD2/3受容体の減少が認められました。特に、視床、前部帯状回、扁桃体では、減少の程度を表す効果量2)が比較的大きく(図3)、社会的な場面を好まない背景にこれらの脳領域の機能変化が認められることを根拠としてきたASDの「社会的動機付け仮説」に、ドーパミンD2/3受容体の減少という分子的なメカニズムを示しました。また、視床の亜区域の中でも視床枕(ししょうちん)に相当する視床後部領域(図2)で減少の効果量が最大でした(図3)。さらに、ASDの方では、この視床後部領域のドーパミンD2/3受容体の減少が社会的コミュニケーションの困難さと相関していました(図4)。視床枕は、物よりも人の顔に対して反射的に視線が向きやすいといった視覚的な社会的注意に関係すると考えられている脳領域です。


図3 PETで測定した領域におけるドーパミンD2/3受容体結合能の低下

図4 視床枕に相当する視床後部領域でのドーパミンD2/3受容体結合能と社会的コミュニケーションの困難さの相関関係


さらに、浜松PET診断センター設置のPhilip社製3T MRI装置を用いて、安静時の脳領域間の機能的な結びつきを調べるMRI解析を行ったところ、脳内ドーパミンD2/3受容体の減少と脳の機能的な結びつきの強さとの相関が、ASDと定型的な発達の研究参加者で逆になっている神経経路が4つ見つかりました(図5A)。この中には、社会行動を制御することで知られるいわゆる社会脳領域に含まれ視覚による社会情報を処理する上側頭溝と視床とのネットワークも含まれていました(図5B)。この経路では、ASDに関連した機能的な結びつきの変化が既に報告されています。以上のように本研究によって、ASDに関連した社会脳ネットワークの変化には、ドーパミンD2/3受容体の減少が関係していることが示されました。


図5 脳内ドーパミンD2/3受容体結合能と脳部位間の機能的な結びつきの強さの相関関係がASDと定型的な発達の研究参加者で逆になっている4つの神経経路(A)とその脳内での位置 (B)

今後の展開

今回の研究結果から、脳内のドーパミンD2/3受容体の減少が、ASDと診断される方に見受けられる社会的コミュニケーションの困難さや社会脳ネットワークの変化に関わることが分かりました。このことから、脳内でドーパミンD2/3受容体を調整する薬によって、社会的コミュニケーションの困難さを改善する新しい治療法の開発につながることが期待されます。

用語解説
1)自閉スペクトラム症(自閉症スペクトラム障害)
従来の自閉症からアスペルガー障害や特定不能の広汎性発達障害までを含む概念です。自閉症的な特性は、知的障害も伴う自閉症から、知的機能の高い自閉症を経由し、自閉スペクトラム症の症状を持ちながらも症状の数が少なく程度も軽い正常範囲の人まで続くスペクトラム(はっきりした境界のない連続体)を形成するという考えに基づいています。
2) 効果量(本研究ではCohen’s dを使用)
2つの集団の平均にどの程度の差があるか、データの単位や規模に左右されないように標準化するものです。効果量0.1の差は、偏差値では1の差に当たります。
論文情報
発表雑誌
Molecular Psychiatry(モレキュラー・サイキアトリー)
論文タイトル
Extrastriatal dopamine D2/3 receptor binding, functional connectivity, and autism socio-communicational deficits: a PET and fMRI study
著者
Chihiro Murayama, Toshiki Iwabuchi, Yasuhiko Kato, Masamichi Yokokura, Taeko Harada, Takafumi Goto, Taishi Tamayama, Yosuke Kameno, Tomoyasu Wakuda, Hitoshi Kuwabara, Atsushi Senju, Sadahiko Nishizawa, Yasuomi Ouchi, Hidenori Yamasue* *責任著者
研究グループ

本研究は、浜松医科大学精神医学講座が、同子どものこころの発達研究センター、同光尖端医学教育研究センター生体機能イメージング研究室、浜松光医学財団浜松PET診断センターと行った共同研究で、日本医療研究開発機構(AMED)脳科学研究戦略推進プログラム『臨床と基礎研究の連携強化による精神・神経疾患の克服(融合脳):発達障害・統合失調症研究チーム(チーム長:浜松医科大学・山末英典教授)』の一環として行いました。

本件に関するお問い合わせ先

国立大学法人浜松医科大学 精神医学講座
教授 山末 英典

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
疾患基礎研究事業部疾患基礎研究課
脳科学研究戦略推進プログラム

タイトルとURLをコピーしました