2022-03-18 浜松医科大学,日本医療研究開発機構
研究成果のポイント
- EPAやDHAを経口摂取することで、動脈硬化モデルマウスの大動脈壁でNAD+が増加することを明らかにしました。
- NAD+のイメージングに世界で初めて成功しました。
- NAD+とオメガ3脂肪酸1の関係の一端が明らかになり、血管老化を標的とした新たな研究へと繋がることが期待されます。
概要
浜松医科大学細胞分子解剖学講座の瀬藤光利教授、佐藤智仁特任助教らは、老化を防ぐ因子として世界中で注目を浴びているニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)2が、オメガ3脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)を食餌へ添加することで、動脈硬化モデルマウスの血管壁で増加することを発見しました。
本研究成果は、米国心臓協会(American Heart Association: AHA)が発刊している国際医学雑誌「Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology(ATVB)」に日本時間2022年2月10日に公表されました。
研究の背景
NAD+は、ミトコンドリアでのエネルギー産生反応の補因子の1つであり、加齢とともに低下することや、加齢関連疾患の発症に重要な役割を担っていることが知られており、老化関連因子として世界中で注目を集めています。また、オメガ3脂肪酸として知られるEPAやDHAが、心血管イベントを抑制するなど心血管系に良い効果を持つことが知られていますが、これらを投与した際のNAD+の組織内の分布に関しては知られていません。
研究手法・成果
研究グループは、質量顕微鏡3の1つである脱離エレクトロスプレーイオン化イメージング質量分析(DESI-IMS)を使用し、高脂肪食を投与した動脈硬化モデルマウスの大動脈壁を解析し、食餌にEPAやDHAを添加することにより、代謝や老化と関連のあるNAD+やその代謝物が血管壁中で増加することを明らかにしました(概略図)。質量分析イメージングで一般に使用されているマトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)では、イオン化のエネルギーが大きく、試料にマトリクスを塗布するための前処理に時間を要するため、これまでNAD+のイメージングは困難でした。今回、極めてソフトなイオン化法であり、かつ前処理の不要なDESI-IMSを使用することでNAD+のイメージングに成功しました。
概略図 動脈硬化モデルマウスへオメガ3脂肪酸を投与することで、NAD+やその代謝物が血管壁で増加することを認めた。
今後の展開
NAD+やその代謝物をイメージングできる技術は、組織採取から解析を行うまでの過程や、測定装置の改良など多くの課題がありますが、今後さらに老化関連疾患の研究に役立つことが期待されます。
用語解説
- 1 オメガ3脂肪酸
- 不飽和脂肪酸の一種であり、魚油に代表されるEPAやDHA は、虚血性心疾患や神経系の疾患によい効果があり、サプリメントとしても使用されている。
- 2 ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)
- 加齢とともに低下し、加齢関連疾患の発症に重要な役割を持つことが知られており、NAD+の細胞内レベルを高めることで、老化を遅らせ得ることが動物モデルを用いた研究で報告されている。
- 3 質量顕微鏡
- 生体組織に含まれる生体分子や薬物などの分布を、分子の質量を測定することでイメージングする手法。
論文情報
- 発表雑誌
- Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology(DOI: 10.1161/ATVBAHA.121.317166)
- 論文タイトル
- NAD+ Levels are Augmented in Aortic Tissue of ApoE-/- Mice by Dietary Omega-3 Fatty Acids
- 著者
- Do Huu Chi, Tomioki Kahyo, Ariful Islam, Md. Mahmudul Hasan, A.S.M. Waliullah, Md. Al Mamun, Madoka Nakajima, Takenori Ikoma, Keitaro Akita, Yuichiro Maekawa, Tomohito Sato, Mitsutoshi Setou
研究グループ
浜松医科大学(細胞分子解剖学講座、国際マスイメージングセンター、内科学第三講座)
研究支援
本研究は、文部科学省先端研究基盤共用促進事業(原子・分子の顕微イメージングプラットフォーム)JPMXS0410300220、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業AMED-CREST(課題番号JP22gm0910004)、JP21ak0101179およびJSPS KAKENHI Grant Numbers JP18H05268の支援をうけてまとめられた成果です。
お問い合わせ先
本件に関するお問い合わせ先
浜松医科大学細胞分子解剖学講座
特任助教 佐藤 智仁
AMED事業に関するお問い合わせ先
日本医療研究開発機構
シーズ開発・研究基盤事業部 革新的先端研究開発課