糖尿病症例のプラーク不安定化において、動脈硬化惹起作用を有するリポタンパク(a)粒子が関与することを報告

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2022-04-21 国立循環器病研究センター

糖尿病患者の心筋梗塞発症に関与するプラーク不安定化において、動脈硬化惹起作用を有するリポタンパク(a)粒子が関与することを、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津 欣也、略称:国循)の心臓血管内科 中村 隼人 派遣研修生、片岡 有 医長、野口 暉夫 副院長、辻田 賢一 熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学 教授らが報告しました。この研究結果は、欧州動脈硬化学会英文機関誌「Atherosclerosis」オンライン版に、2022年4月9日に掲載されました。

■背景
2型糖尿病は心筋梗塞などの心血管疾患発症リスクが高い疾患であり、その発症に寄与する因子を同定し有効な治療対策を確立することが求められています。心筋梗塞は、冠動脈のプラークが不安定化し破綻・血栓形成を引き起こすことにより発症する病態です。本研究の著者らは、不安定プラークが心筋梗塞発症に関与し、脂質低下治療薬「スタチン」を用いたLDLコレステロール管理療法が不安定プラークの改善に有効であることをすでに報告しています (片岡 有、野口 暉夫、安田 聡 Eur Heart J 2020;41:2965-73, J Am Coll Cardiol 2014;63:989-99, 2015;66:245-56 )。しかしながら、スタチン投与下でも心筋梗塞は依然として発症することから、不安定プラークを引き起こす詳細な機序を解明し更なる有効な治療法の開発につなげることが必要です。近年、炎症・酸化ストレスや血栓形成促進作用を有するリポタンパク粒子(a)は、心筋梗塞などの心血管疾患リスクを高めることが報告されており、特に糖尿病症例においてその関与は顕著であることが確認されました。著者らは、糖尿病症例におけるプラーク不安定化にリポタンパク粒子(a)が関与する可能性を考え、冠動脈疾患を既に発症した非糖尿病・糖尿病患者において、リポタンパク粒子(a)と不安定プラーク形成の関係を検証しました。

■研究手法と成果
国立循環器病研究センターに入院され、すでにスタチンによるLDLコレステロール低下療法を施行されていた冠動脈疾患患者312例(非糖尿病症例 151例、糖尿病症例 161例)を解析しました。冠動脈プラーク内の組織成分を描出しプラーク不安定に関与する脂質成分同定に有効な近赤外線スペクトロスコピーを用いて、リポタンパク粒子(a)と不安定プラーク形成の関係を解析しました。非糖尿病症例においては、厳格なLDLコレステロール管理下におけるプラークの特徴を解析しました。リポタンパク粒子(a)濃度は、糖尿病症例で有意に高値でした (リポタンパク粒子(a)濃度 >30 mg/dLの頻度: 34.2% vs. 21.8%, p=0.01)。更に、スタチンによるLDLコレステロール低下療法下でも、約45%以上の糖尿病ならびに非糖尿病症例は不安定プラークを有していました (47.7% vs. 46.6%, p=0.85)。非糖尿病症例においては、LDLコレステロール値は不安定プラーク指標と正の相関(p=0.03)を示しましたが、リポタンパク粒子(a)値と不安定プラーク指標においては有意な相関は認めませんでした(p=0.96)。一方、糖尿病症例においては、LDLコレステロール値(p=0.03)ならびにリポタンパク粒子(a)値(p=0.01)が、不安定プラーク指標と正の相関を認めました。特に、リポタンパク粒子(a)高値(>50 mg/dL)を示す糖尿病症例はプラークの不安定化が顕著に観察されました。また、スタチンにより日本循環器学会が推奨するLDLコレステロール管理目標値 (70mg/dL未満)を達成しえた症例においても、糖尿病症例のプラーク安定化においてLDLコレステロール値とともにリポタンパク粒子(a)が関与していました。本研究から、スタチンを用いたLDLコレステロール管理療法下において、リポタンパク(a)粒子は糖尿病症例のプラーク不安定化に寄与する重要な脂質粒子である可能性が示唆されました。

■今後の展望と課題
本邦でも2型糖尿病の患者数が増加傾向であり、その予後を損なう心筋梗塞発症の病態解明・予防対策の確立が重要です。責任著者は、糖尿病症例のプラーク不安定化の改善におけるLDLコレステロール管理療法の有効性と課題、ならびに動脈硬化症に関与する他の因子の重要性を報告してきました(片岡 有 JACC Cardiovasc Imaging 2018;11:1721-3, Atherosclerosis 2015;242:490-5, 2014;232:377-83)。これらの研究成果から糖尿病症例のプラーク不安定化に寄与する新たな治療標的の同定を目指し研究を進めてきました。リポタンパク粒子(a)は、アポタンパクBとアポタンパク(a)が結合したリポタンパクであり、プラスミノゲン活性低下やマクロファージの泡沫化により動脈硬化形成・進展・不安定化や血栓形成を引き起こします。本研究からは、リポタンパク粒子(a)が糖尿病症例のプラーク不安定化に寄与する粒子である可能性が示唆されました。糖尿病症例は動脈硬化症が非糖尿病症例に比して重度であり、スタチンによるLDLコレステロール管理療法や血糖管理下でも、心筋梗塞などの心血管疾患発症リスクは低くなく、心筋梗塞発症を予防しうる新たな治療アプローチが必要な病態です。近年、リポタンパク粒子(a)を標的とした抗体医薬が開発され諸外国において治験が実施されています。本研究成果から、リポタンパク粒子(a)をターゲットとする治療法は、糖尿病症例において特に有効である可能性も期待されます。著者らは(片岡 有、野口 暉夫)、国立循環器病研究センター心臓血管内科と糖尿病内科が協力し、血糖管理下におけるリポタンパク粒子(a)の経時的な推移・プラーク不安定化予防効果を検証する介入研究を2019年3月より行ってきました(jRCT1052180152)。今後、糖尿病症例においてリポタンパク粒子(a)濃度の低下によるプラークへの効果の解明も目指し、研究を進めていく予定です。

■発表論文情報
著者:Nakamura H, Kataoka Y, Tsujita K, Noguchi T, et al.
題名:Elevated Lipoprotein (a) as a Potential Residual Risk Factor Associated with Lipid-rich Coronary Atheroma in Patients with Type 2 Diabetes and Coronary Artery Disease on Statin Treatment: Insights from the REASSURE-NIRS Registry
掲載誌:Atherosclerosis

■謝辞
本研究は福田記念医療技術振興財団2018年度研究助成事業からの支援を基に実施されました。

<図>
糖尿病症例のプラーク不安定化において、動脈硬化惹起作用を有するリポタンパク(a)粒子が関与することを報告

医療・健康
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