厳格なLDLコレステロール管理療法の冠動脈プラーク安定化作用が糖尿病患者では減弱している可能性を報告

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2022-04-22 国立循環器病研究センター

欧州心臓病学会が推奨する厳格なLDLコレステロール管理療法 (55mg/dL未満)は、非糖尿病患者のプラーク安定化に有効であるが、糖尿病患者においてはその効果が減弱している可能性があることを、国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:大津 欣也、略称:国循)の心臓血管内科 岩井 雄大 医員、片岡 有 医長、野口 暉夫 副院長、東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野 安田 聡 教授らが報告しました。この研究結果は、アメリカ心臓病学会英文機関誌「Journal of American College of Cardiology: Cardiovascular Imaging」オンライン版に、2022年4月14日に掲載されました。

■背景
2型糖尿病は心筋梗塞などの心血管疾患発症リスクが高い疾患です。心筋梗塞は、冠動脈のプラーク形成・進展・破綻により発症することから、その発症予防において冠動脈プラークを安定化させ心筋梗塞発症を回避することが重要です。本研究の著者らは、LDLコレステロール管理療法は心筋梗塞の原因となる不安定プラークを安定化させ心筋梗塞発症予防に有効であることをすでに報告しています(片岡 有、野口 暉夫、安田 聡 Atherosclerosis 2015;242:490-5, J Am. Coll Cardiol 2015;66:245-56)。更に、本邦ならびに海外のガイドラインでも、心血管疾患発症予防においてLDLコレステロール低下療法が推奨されており、その重要性が高まっています。近年、欧州心臓病学会は、心血管疾患発症既往を有する2型糖尿病患者においては、従来のLDLコレステロール低下目標値(70mg/dL未満)よりも更に厳格な値(55mg/dL未満)を目標として管理することを推奨しています。しかしながら、このような強力なLDLコレステロール管理療法によるプラーク安定化効果については十分に検証されていませんでした。ゆえに、本研究は冠動脈疾患を既に発症した非糖尿病・糖尿病患者における、厳格なLDLコレステロール管理による冠動脈プラーク安定化効果を検証しました。

■研究手法と成果
国立循環器病研究センターならびに宮崎市郡医師会病院に入院した冠動脈疾患患者523例(非糖尿病症例 277例、糖尿病症例 246例)を後ろ向きに解析しました。冠動脈プラーク内の組織成分を描出し、プラーク不安定に関与する脂質・石灰化成分の同定に有効な近赤外線スペクトロスコピー・血管内超音波法を用いて、厳格なLDLコレステロール管理下におけるプラークの特徴を解析しました。非糖尿病症例の6.4%において、LDLコレステロール55mg/dL未満を達成していました。このような厳格なLDLコレステロール管理下にある非糖尿病症例では、冠動脈プラークの脂質成分が少なく石灰化を認め(、LDLコレステロールの厳格な管理が冠動脈プラーク安定化において有効である可能性が示唆されました(図1・2)。一方、2型糖尿病患者においては、13.0%の症例がLDLコレステロール55mg/dL未満を達成していました。非糖尿病患者とは異なり、糖尿病患者における冠動脈プラークは、厳格なLDLコレステロール管理下でも、脂質成分が豊富に存在し石灰化も軽度でした(図1・2)。本研究から、LDLコレステロール55mg/dL未満を目標とした治療は、非糖尿病症例のプラーク安定化において有効な可能性がありますが、糖尿病患者ではその効果が減弱している可能性があり、厳格なLDLコレステロール管理下でも心筋梗塞発症の素地となる不安定プラークが存在することが示されました(図3)。

■今後の展望と課題
生活習慣の欧米化等により、本邦でも2型糖尿病の患者数が増加傾向にあることから、その予後を損なう心筋梗塞発症に対する予防対策の確立が求められています。著者らは、糖尿病の冠動脈硬化症は早期から形成され進展することを報告しており (片岡 有 安田 聡 Diabetes Care 2005;28:2217-22)、その有効な冠動脈硬化安定化治療は重要です。本研究では、糖尿病患者においては、LDLコレステロールの強力な管理下でも心筋梗塞の原因となる不安定プラークは依然として存在していました。糖尿病は、脂質異常症の他に肥満・高血圧などの動脈硬化を惹起させる危険因子が集簇している病態です。特に、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症や炎症・酸化ストレスの亢進も伴っており、LDLコレステロールの介入のみでは、十分なプラーク安定化効果を得ることが困難であった可能性が推察されます。本研究成果から、2型糖尿病症例においてはLDLコレステロールだけでなく、他のリスクファクターへの介入も必要である可能性が示唆されます。近年、2型糖尿病症例に特徴的な高中性脂肪血症が残余リスクとして着目されています。すでに、責任著者は高中性脂肪血症は冠動脈プラーク進展・不安定化に寄与することを報告してきました(Arterioscler Thromb Vasc Biol 2016;36:2220-8, JACC Cardiovasc Imaging 2018;11:1721-3)。これらの研究成果から、高中性脂肪血症に対する介入治療は糖尿病症例のプラーク進展・不安定化予防に有効である可能性も期待されます。著者らは、中性脂肪低下療法によるプラーク安定化効果を検証する特定臨床研究を立案し、2021年6月より国立循環器病研究センター心臓血管内科が中心となり国内42施設と共同で研究を実施しています(PEMA-CORE研究: 片岡 有、野口 暉夫、安田 聡)。今後、2型糖尿病症例に対する有効な予防治療確立を目指し研究を進めていく予定です。

■発表論文情報
著者:Iwai T, Kataoka Y, Yasuda S, Noguchi T, et al.
題名:Phenotypic Features of Coronary Atheroma in Diabetic and Non-Diabetic Patients under Low-density Lipoprotein Cholesterol <55mg/dl
掲載誌:Journal of American College of Cardiology: Cardiovascular Imaging

<図>

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