タンパク質の選別輸送の品質管理 ~糖脂質(GPIアンカー)のリモデリングによる制御~

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2022-05-04 広島大学

本研究成果のポイント
  • 細胞内で新たに生合成されたタンパク質は小胞体(※1)もしくはゴルジ体(※2)で選別(※3)され最終目的地へ運ばれるが、それがどのように起こり調節されているかは不明であった。本研究では、小胞体におけるグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質(※4)の選別が品質管理されていることを発見した。
  • GPIアンカー型タンパク質の選別輸送にはGPIアンカーのセラミド(※5)部分と、それをモニターする糖鎖リモデリング(※6)酵素が必要であることが判明した。
  • 品質管理機構が正常でないと、正しい選別が起こらず、GPIアンカー型タンパク質が他のタンパク質と一緒に小胞体のER exit sites(ERES)(※7)から出芽される。
概要

広島大学大学院統合生命科学研究科の船戸耕一准教授、池田敦子助教、中ノ三弥子准教授、理化学研究所(理研)光量子工学研究センター生細胞超解像イメージング研究チームの黒川量雄専任研究員、和賀美保テクニカルスタッフ II、中野明彦チームリーダー(光量子工学研究センター副センター長)、セビリア大学細胞生物学部・セビリア生物医学研究所(IBiS)のManuel Muñiz准教授らの国際共同研究グループは、GPIアンカー型タンパク質の選別輸送がGPIアンカーのリモデリング酵素により品質管理されていることを発見しました。

本研究成果は、タンパク質の選別輸送の異常やその破綻により発症する疾患のメカニズム研究の発展につながると期待できます。

小胞体で新たに作られたさまざまなタンパク質(積荷タンパク質(※8))は、小胞体に多数存在する ERESに取り込まれ、出芽しゴルジ体へ輸送されます。しかし、多様な積荷タンパク質がどのように ERESへと選別されるのか、そしてどのようにその選別が管理されているのか、その詳細は不明でした。

今回、国際共同研究グループは、GPIアンカー型タンパク質のGPIアンカーのリモデリングが小胞体膜上における集積と小胞体からの輸送に重要であることを発見しました。また、脂質部分のリモデリングと糖鎖部分のリモデリングの連続的な作用がGPIアンカータンパク質の選択的ERESへの選別を確実にし、他の積荷タンパク質と区別して配送させる品質管理システムとして機能していることを見出しました。

本研究は、科学雑誌『Cell Reports』オンライン版に、アメリカ東部標準時(夏時間)の5月3日(火)11時(日本時間 5月4日(水)0時)に掲載されました。

発表内容

【背景】

ヒト、植物、酵母など真核生物の細胞内には、さまざまな細胞小器官(※9)があります。その一つである小胞体は、細胞内の全タンパク質の約1/3を合成する場であり、タンパク質の品質を管理し、正しく折り畳まれた積荷タンパク質のみをCOPII小胞(※10)を介してゴルジ体へ運び出すという重要な機能を担っています。

小胞体では、分泌タンパク質、膜貫通ドメインを持つタンパク質や GPIアンカー型タンパク質など、異なる構造の多様なタンパク質が合成されます。GPIアンカー型タンパク質は、カルボキシル末端にアミド結合したグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)によって細胞膜外葉に局在する一群のタンパク質で、真核生物に広く存在しています。GPIアンカー(糖脂質)の付加は小胞体で行われ、種々の修飾を受けて GPI の脂質と糖鎖部分の構造変化(リモデリング)を受けながら、分泌経路により細胞膜へ輸送されます。
出芽酵母(※11)を用いたこれまでの解析により、GPIアンカー型タンパク質が他のタンパク質と異なる COPII小胞に含まれることや、GPIアンカー型タンパク質が他と異なる ERES へ選別されることが報告されてきました。また、その選別に小胞体膜のセラミドが重要な役割を果たしていることも判ってきました(注1)。しかし、GPIアンカー型タンパク質の選別輸送におけるGPIアンカーの役割は不明でした。

【研究成果の内容】

今回、国際共同研究グループは、出芽酵母のセラミドリモデリングを触媒する酵素Cwh43とGPIの2つ目のマンノースにエタノールアミンリン酸(EtNP)を付加する酵素Gpi7をコードする遺伝子(それぞれCWH43とGPI7)を欠失した変異株を用いることで、GPIアンカー型タンパク質の選別輸送機構の解明を目指しました。GPIアンカーのセラミド型への変換(セラミドリモデリング)が起こらないCWH43遺伝子の欠損株では、GPIの2つ目のマンノースのEtNPが除去されないことから、GPIアンカー型タンパク質Gas1は積荷受容体Emp24と結合できず、COPII小胞に積み込まれないことが分かりました。しかし、EtNPの付加に必要なGPI7を同時に欠失させると、それらの表現型がレスキューされました。EtNPの付加はセラミドリモデリングのために必須であることから、それらの結果はEtNPの付加とその除去がGPIアンカー型タンパク質のGPIアンカーをセラミド型に正しく変換させ、変換したもののみを小胞体から送り出す働きをしていることを示しています(図1上段)。

また、高感度共焦点顕微鏡システム SCLIM(※12)を用いた3次元ライブイメージングにより、膜貫通ドメインを持つMid2-iRFPとGas1-GFPのERES内への取り込みを解析したところ、野生株ではそれらのタンパク質がそれぞれ異なるERESに選別されるが、GPI7を欠失した株ではGas1-GFPはMid2-iRFPと同じERESに取り込まれました(図1下段)。このことから、GPIアンカーのEtNPにより、タンパク質の選別が制御されていることが初めて証明されました。以上、本研究の発見は、GPIアンカー型タンパク質の選別輸送がGPIアンカーの脂質部分と糖鎖部分の連続的なリモデリング反応によって品質管理されていることを示唆しています。

【今後の展開】
GPIに関連する遺伝子の突然変異による多くの疾患が多数発見されてきています。GPIアンカータンパク質の選別輸送とその機構はヒトでも保存されていることから、今回得られた知見は、GPIが関わる疾患のメカニズムの理解に役立つことが考えられます。

タンパク質の選別輸送の品質管理 ~糖脂質(GPIアンカー)のリモデリングによる制御~

図1 GPIアンカー型タンパク質の選別輸送における糖脂質リモデリングの役割

GPIの2つ目のマンノースに結合したエタノールアミンリン酸(EtNP)は、脂質部分のリモデリング反応を触媒する酵素セラミドリモデラーゼCwh43を活性化し、GPIアンカーの脂質部分をジアシルグリセロール型(pG1)からセラミド型(Cer)へ変換(セラミドリモデリング)させます(野生株(WT)、上段右)。セラミド型のGPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)Gas1は、膜貫通ドメインを持つタンパク質(TM protein)Mid2から分離し、潜在的にセラミドに富むドメイン(Cer-enriched domain)と相互作用し、Gas1同士のクラスタリングを引き起こし、特定のER exit site (ERES)に選別されます。次いで、GPIの2つ目のマンノースに結合したEtNPが糖鎖リモデラーゼ酵素Ted1の作用により切り取られます。EtNPを失ったセラミド型GPIアンカー型タンパク質は、積荷受容体タンパク質であるp24タンパク質(Emp24)複合体に認識され、特殊なCOPII小胞で小胞体を出ます(上段右)。このように、Cwh43によるセラミドリモデリングとTed1による糖鎖リモデリングの連続的な作用はセラミド型GPIアンカー型タンパク質の選別の品質管理システムとして機能しています。Gpi7を欠失した株(gpi7Δ、gpi7Δcwh43Δ)ではGas1はMid2と同じERESに取り込まれ、小胞体を出ます(下段左)。

用語解説

(*1) 小胞体:シート状またはチューブ状の膜からなる細胞小器官の一つ。リボソームが付着している粗面小胞体では、ゴルジ体に運ばれる積荷タンパク質の合成が行われる。

(*2)ゴルジ体:ホルモンや消化酵素などの分泌タンパク質や膜タンパク質の生合成に必要な細胞小器官であり、一端(シス面)から新規合成されたタンパク質を受け取り、もう一端(トランス面)からタンパク質を送り出す。

(*3)選別:タンパク質や脂質などを輸送先別に選び出し、特別の輸送経路へと導くこと。

(*4)GPI アンカー型タンパク質:カルボキシル末端にアミド結合したグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)によって、細胞膜外葉に局在する一群のタンパク質。真核生物に広く存在し、酵素や受容体、接着因子など多様な働きをしている。

(*5)セラミド:細胞の脂質二重層を構成する主要な脂質の一つ。スフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した化合物の総称。小胞体で生合成される。GPIアンカーの脂質部分のリモデリングによって付加される脂質である。

(*6)リモデリング:環境温度や栄養状態の変化等に応答して細胞機能の恒常性を維持するために行われる分子の構造変化。リモデラーゼと呼ばれる酵素によって触媒される。

(*7)ER exit sites(ERES):小胞体膜上の特殊な領域。COPⅡ小胞が集積する領域。ERは小胞体を意味するendoplasmic reticlum の略。

(*8)積荷タンパク質:膜交通により運ばれるタンパク質の総称。リボソームが付着している粗面小胞体で作られる。

(*9)細胞小器官:真核細胞の内部に存在する一定の機能、形態を持つ膜構造の総称。小胞体・ゴルジ体・エンドソーム・ミトコンドリアなど。

(*10)COPII小胞:小胞体で新しく作られた積荷タンパク質を積み込む輸送小胞。COPⅡと呼ばれる被覆タンパク質により覆われている。

(*11)出芽酵母:パン酵母やビール酵母などと呼ばれる真核微生物で、出芽によって増えるのでこの名
がある。細胞生物学や遺伝学実験のモデル生物として広く使われている。

(*12)高感度共焦点顕微鏡システム SCLIM:理化学研究所(理研)光量子工学研究センター生細胞超解像イメージング研究チームが独自開発した蛍光顕微鏡システム。ニポウディスク方式共焦点スキャナー、拡大レンズ、高性能のダイクロイックミラー、フィルターシステムによる分光器、冷却イメージインテンシファイアー(電子増倍管)と複数の EMCCD カメラシステムから構成される。複数蛍光の同時取得と高 S/N 比の蛍光画像取得が可能。SCLIM は、Super-resolution Confocal Live Imaging Microscopy の略。

論文情報
  • 掲載誌: Cell Reports
  • 論文タイトル: Quality-controlled ceramide-based GPI-anchored protein sorting into selective ER exit sites
  • 著者名: Sofia Rodriguez-Gallardo, Susana Sabido-Bozo, Atsuko Ikeda, Misako Araki, Kouta Okazaki, Miyako Nakano, Auxiliadora Aguilera-Romero, Alejandro Cortes-Gomez, Sergio Lopez, Miho Waga, Akihiko Nakano, Kazuo Kurokawa*, Manuel Muñiz*, and Kouichi Funato*.
    (*責任著者)
  • DOI: org/10.1016/j.celrep.2022.110768

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
広島大学大学院統合生命科学研究科 食品生命科学プログラム准教授 船戸 耕一

理化学研究所 光量子工学研究センター 生細胞超解像イメージング研究チーム
専任研究員 黒川 量雄

<広報に関すること>
広島大学 広報室
理化学研究所 広報室 報道担当

生物化学工学
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