2022-10-19 東京大学
1.発表者:
寺田 晋一郎(東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 細胞分子生理学分野 助教)
松崎 政紀 (東京大学大学院医学系研究科 機能生物学専攻 細胞分子生理学分野 教授)
2.発表のポイント:
◆自発的もしくは外発的に運動を開始した際の前頭葉における神経活動を情報の経路に沿い密に計測し、抽象的な活動が具体的な運動へと変換される過程の詳細を明らかにしました。
◆前頭葉前方に位置する高次運動野は抽象度が高く、後方に位置する一次運動野は抽象度が低い情報を持つと考えられていましたが、一次運動野浅層部では情報の抽象度が運動の習熟度に応じ動的に変化する事を発見しました。
◆将来的に脳の領野間において行われている情報処理原理の解明による高性能な人工知能アルゴリズムの開発や、運動疾患の病態解明にも貢献することが期待されます。
3.発表概要:
前頭葉は大脳新皮質の前部分に位置する脳領域で、ヒトの思考、言語、運動等を制御する領域です。前頭葉は前方から後方へ向かう前後軸に沿って、処理する情報が抽象的な内容から具体的な動作へと移り変わっていくことが知られていますが、いつ、どこで、どのようにそうした情報の変換がなされているかについての詳細は不明でした。
今回、東京大学大学院医学系研究科 寺田晋一郎 助教、松崎政紀 教授、自然科学研究機構生理学研究所 小林憲太 准教授らの共同研究グループは、自発的もしくは音キューに応じて外発的に運動を開始するという、ふたつの異なった文脈に基づき同じ運動を開始する課題を行っているマウスの脳活動を、前頭葉前方に位置する高次運動野とその後方に位置する一次運動野(注1)において単一細胞レベルで詳細に測定しました。その結果、高次運動野浅層部の神経細胞は文脈情報という抽象度の高い活動を、一次運動野深層部の神経細胞は具体的な動作と一致した抽象度の低い活動を安定して示すのに対し、その中間に位置する一次運動野浅層部の神経細胞や高次運動野から一次運動野へと入力する神経細胞では、個体の運動成績の向上に伴い、抽象度の低い活動から高い活動へと動的に変化することを発見しました。本研究成果は脳における情報処理原理の一端を明らかにするもののみならず、運動学習や制御メカニズムの解明により運動疾患の病態解明にも貢献することが期待されます。
本研究成果は、2022 年 10 月 18 日(米国東部時間)に米国科学誌「Cell Reports」のオンライン版に掲載されました。
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(17H06309, 19H01037, 19K23772, 20K15927, 22H05160)、日本医療研究開発機構(AMED)(JP17dm0107053, JP18dm0107150, JP22dm0207001)、中谷医工計測技術振興財団、東京医学会の支援により実施されました。