2023-04-06 京都大学
内田周作 医学研究科特定准教授、稲葉啓通 同博士課程学生らの研究グループは、繰り返し心理社会的ストレスに晒された際に適応反応を示すか不適応反応(行動変容)を示すかの個体差を決定する脳内メカニズムを発見しました。困難や逆境に適応する能力(レジリエンス)を高める制御法の開発、ストレスが引き金となって発症するうつ病や不安障害の病態究明や新たな治療法の開発に繋がることが期待できます。
私たち人間の脳には、ストレスを受けてもそれに適応するシステムが備わっているため、通常の生活を送ることができます。しかし一部の人は、心理社会的ストレスに適応することができずに精神疾患を発症してしまいます。このように、ストレスを感じる度合いは個人により異なりますが、その異なる原因はよく分かっていませんでした。
本研究グループは、心理社会的ストレスに適応することのできないマウスと、適応することのできるマウスを用いて、これら2種類のマウスの脳内でどのような違いがあるのかを調べました。その結果、ストレスに弱いマウスでは、前帯状皮質とよばれる場所での神経活動が著しく低下していること、遺伝子の発現量を調節するFosタンパク質が顕著に少ないことを突き止めました。一方、ストレスに強いマウスではこのような変化は認めませんでした。さらにうつ病患者の前帯状皮質におけるFosの量も低下していました。そこで、ストレスに弱いマウスを用いて前帯状皮質におけるFosタンパク質の量を人為的に増やす神経活動操作を行ったところ、ストレスに強いマウスになりました。逆に、ストレスに強いマウスの前帯状皮質におけるFosタンパク質の量を人為的に減らす遺伝子操作実験を行ったところ、ストレスに弱いマウスになりました。
今後さらに本研究を進めることで、逆境でも前向きに生きることのできるストレスレジリエンスを高める制御法の開発、うつ病や不安障害の原因解明ならびに新たな治療法の開発が期待できます。
本研究成果は、2023年4月6日に、国際学術誌「Science Advances」に掲載されました。
研究者のコメント
「うつ病患者とモデルマウスに共通の脳内分子異常の発見を起点として、ストレスによる行動変容を引き起こす脳内責任部位と分子経路を同定することが出来ました。研究の過程で予想とは全く逆の結果が得られるなどの逆境も経験しましたが、そのようなデータから意外な発見や新しい病態仮説を提唱するに至りました。今後はレジリエンスの制御法開発、ならびに精神疾患における症状発現の個体差の原因となるメカニズム解明をめざすことで新たな治療法の開発を目指していきたいと考えています。」
研究者情報
研究者名:内田 周作
書誌情報
読売新聞(4月6日 29面)に掲載されました。