2023-05-10 九州大学
ポイント
- 長尺細管内部を殺菌・消毒する装置は普及しているが、滅菌(※1)が可能な医療用滅菌器はこれまで実用化されていません。
- 本研究では、空気プラズマ(※2)を利用することで、従前の長尺細管殺菌器よりも短時間(1~2時間程度)でかつ十分な長さ(1m程度)の細管を滅菌可能な方法および装置を開発しました。
- 今後、大気圧空気プラズマ滅菌法はカテーテル等の医療器材のみならず、農産物の殺菌や打ち上げ前に滅菌が必要な深宇宙探査機の滅菌にも応用されることが期待されています。
概要
九州大学大学院総合理工学府の武藤大学院生(研究当時)、同大学院総合理工学研究院の林 信哉教授らの研究グループは、空気(大気)を原料とするプラズマを用いてカテーテルなどの長尺細管内を高速かつ安価に滅菌する方法を開発しました。
医療器材は使用する前に必ず滅菌されていなければならず、現在医療機関では、主に高圧水蒸気滅菌法や低温ガス滅菌法が利用されています。近年、非耐熱性素材(プラスティックやゴム)で作られた医療器材が増加しており、低温滅菌が可能な酸化エチレンガス滅菌法が主流となっています。医療器材として多用される長尺細管、カテーテルは管内に導入できるガスの量が限られるのと残留した滅菌ガスを除去するのに長時間が必要であることから、ガス滅菌法でも十分な滅菌が困難とされてきました。
本研究では、カテーテルの一端に装着可能な小型安価な空気プラズマ装置を製作し、内径2 mm、長さ100 cmのカテーテル内の滅菌に、従前の薬剤による殺菌方法よりも短い時間(1~2時間程度)で成功しました。このとき、カテーテル自体へのダメージが僅少であり、本方法の素材適合性も確認しました。また,滅菌に寄与するプラズマ中の粒子種が活性な窒素酸化物であることを特定し、それによる菌の不活化メカニズムを明らかにしました。
今回開発した技術はカテーテル等の医療器材だけでなく、農産物の殺菌や宇宙探査機に付着した微生物の殺菌にも応用すべく研究を進めています。
本研究成果は、2023年4月28日(日本時間18:00)付けで英国科学雑誌「Scientific Reports誌」に掲載されました。
用語解説
※1 滅菌
例えば医療器材表面や液体中等に存在する微生物が完全に不活化(殺滅)された状態のこと。
※2 プラズマ
通常のガスに電気や熱のエネルギーを加えることにより、正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子とに電離した高エネルギー状態のガス。プラズマ中の高エネルギー粒子を用いてこれまで起こせなかったような化学反応を生じさせることが出来る。
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論文情報
掲載誌:Scientific Reports
タイトル:Sterilization characteristics of narrow tubing by nitrogen oxides generated in atmospheric pressure air plasma
著者名:Reona Muto and Nobuya Hayashi
DOI:10.1038/s41598-023-34243-3
研究に関するお問い合わせ先
総合理工学研究院 林 信哉 教授