2023-11-24 国立成育医療研究センター
国立成育医療研究センター(所在地:東京都世田谷区、理事長:五十嵐隆)分子内分泌 研究部の深見真紀、吉田朋子らは、ダイバーシテイ研究室の松原圭子、周産期病態研究部 中林一彦、國學院大學の島田由紀子、明治大学の佐々木掌子らと共同で、大学生のジェンダーアイデンティティー(GI)[1]と性的指向[2]について調査しました。
本研究では、大学生736名に対して、GIと性的指向に関する質問を行い、その解答を点数化して評価する心理学的調査を行いました。その結果、GIを示すスコアは広く分布しており、出生時の性別と自分が認識している性が同じである性別同一感について多様性があることが分かりました(グラフ1)。
【グラフ1:出生時の性別とジェンダーアイデンティティ】
同様に性的指向のスコアにもばらつきが多く、出生時の性別に対する異性だけを性的指向の対象としていたのは「出生時に男性」の80%、「出生時に女性」の60%のみでした(グラフ2)。
【グラフ2:出生時の性別と性的指向】
また、非典型的なGIスコアや性的指向スコアを示した人を対象に、GIや性的指向に影響する遺伝的因子が何かを調べる検査も行いました。その結果、非典型的なこころの性を持つ方々のゲノム配列に4つの多型[3]を一般集団より高い頻度で見いだしましたが、これらの多型を持つ方の割合は低く、この遺伝子変化だけでこころの性の多様性を説明することはできませんでした。
これらの結果は、ヒトにおいてGIと性的指向に大きなバリエーションがあること、またその一部に遺伝的因子が関与する可能性があることを示します。
本研究成果は、英国の医学専門誌 『Sexual Medicine』に2023年11月にオンライン公開されました。
[1] ジェンダーアイデンティティ:自分の性(ジェンダー)をどのように認識しているかということ。
[2] 性的指向:恋愛や性愛の対象としての、性。
[3] 多型:ある集団で、1%以上の頻度で見られるDNAの塩基配列の変化のこと。
プレスリリースのポイント
- これまで、LGBTQ+など非典型的なこころの性を持った方々は、社会の中の特別な存在であると考えられていました。
- 今回の研究から、大学生のGIと性的指向に多様性があることが分かりました。
- この結果は、社会が単純に「LGBTQ+の人々」と「それ以外の人々」の2群に分けられないことを示しています。
- GIや性的指向の多様性を規定する遺伝的因子については、今後の研究が必要です。
発表論文情報
英文タイトル:『Variations in Gender Identity and Sexual Orientation of University Students』
和文タイトル:『大学生におけるジェンダーアイデンティティと性的指向の多様性』
著者名:吉田朋子1)、松原圭子1,2)、緒方広子3)、宮戸真美1)、石渡啓介3)、中林一彦3)、 秦健一郎3)、影山郁子1)、玉岡哲1)、島田由紀子4)、深見真紀1,2)、佐々木掌子5)
所属:
1) 国立成育医療研究センター研究所 分子内分泌研究部、
2) ダイバーシテイ研究室、
3) 周産期病態研究部、
4)國學院大學 、
5) 明治大学
掲載誌:Sexual Medicine
DOI:https://doi.org/10.1093/sexmed/qfad057