2023-12-15 国立がん研究センター
発表のポイント
- 先進医療制度(注1)下で実施した医師主導特定臨床研究(注2)「早期乳癌へのラジオ波熱焼灼療法の有効性の検証と標準化に向けた多施設共同研究(RAFAELO試験)」の成果を活用し、Cool-tip RFAシステム Eシリーズ(コヴィディエンジャパン株式会社(注3))を用いたラジオ波焼灼療法(Radiofrequency ablation:RFA)の早期乳がんへ適応追加の薬事承認が得られ、保険適用となりました。
- 先進医療制度下で行われた特定臨床研究の成果を活用した医療機器の薬事承認の取得は日本初となります。
- 早期乳がんにおいてラジオ波焼灼療法による、乳房を切ることのない低侵襲な治療選択肢が新たに加わりました。
概要
国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)中央病院(病院長:島田和明)は、2013年から早期乳がんに対して非切除を前提としたRFAの有効性と安全性を評価するための医師主導特定臨床研究(RAFAELO試験)を先進医療制度下で他施設と共同で行いました。
この試験の短期成績の結果に基づき、RFAに用いるCool-tip RFAシステム Eシリーズを開発・販売するコヴィディエンジャパン株式会社から早期乳がんに対するCool-tip RFAシステム Eシリーズの適応追加を目的とした一部変更承認申請が行われ、2023年7月7日に厚生労働省から承認され、12月1日より保険診療として行えるようになりました。
Cool-tip RFAシステム Eシリーズの乳がんへの適応の薬事承認取得は世界初となります。
国立がん研究センター中央病院では、アンメット・メディカル・ニーズに対して有効的な治療法を開発するため、医師主導の臨床研究に積極的に取り組んでまいりました。今回の成果は、医師主導の臨床研究により治療法の有効性・安全性が示され薬事承認および保険適用取得に結び付いた成功例です。
早期乳がんの治療法について
乳がんは、国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」がん罹患数予測2022年によると日本人女性の乳がん年間予測罹患数は全国で94,300人と推定されており、女性の部位別罹患数では大腸がんを超えて第1位で、女性が最も多く罹患するがんです。日本乳癌学会全国乳がん患者登録調査報告によると、0-I期の早期乳がんの患者さんの割合は近年増加しており(2010年:48.6%、2015年:54.0%、2020年:57.5%)、2020年の患者数は、5万人を超過しました。
早期乳がんの治療は、手術によってがんを切除することが中心です。がんの状態によっては、手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせて治療します。主な手術としては、乳房部分切除術や、乳房全切除術が挙げられます。
しかしながら、乳房を切除することは侵襲を伴う治療であり、手術に伴う出血のリスクや乳房に傷や変形を残すため、患者さんのQOL等に問題があり、患者さんに負担の少ない治療開発が大きな課題となっています。
ラジオ波焼灼療法(RFA)について
がんの中に細い針状の電極を差し込んでラジオ波帯の電流を流し、発生する熱を利用しがんを焼灼する治療法で、手術に比べ患者さんの身体への負担が比較的少ない治療法です。
日本乳癌学会は、RFAの十分な知識や経験がある医師と治療に係る体制が整った医療機関を選定し、日本乳癌学会のホームページにて順次公開予定です。
日本乳癌学会ホームページ
- https://www.jbcs.gr.jp/(外部サイトにリンクします)
焼灼中イメージ
焼灼後イメージ
RAFAELO試験(NCCH1409試験)について
本試験は腫瘍の大きさが 1.5 センチメートル以下の単発、触診及び画像診断による 腋窩リンパ節転移及び遠隔転移を認めない限局性早期乳がんの患者さんを対象にCool-tip RFAシステム Eシリーズを用いたRFAの有効性・安全性を評価する第III相医師主導特定臨床研究です。詳細は臨床研究実施計画・研究概要公開システムでご覧いただけます。
臨床研究実施計画・研究概要公開システム
「標準的乳がんラジオ波熱焼灼療法確立のための多施設共同研究」の研究班(研究代表者 木下貴之 現 国立病院機構東京医療センター)の計画のもと、国立がん研究センター中央病院を中心に、同院など全国9施設で、372名の患者さんにご参加いただきました。
本試験の短期成績における乳房内無再発生存割合は標準治療である乳房部分切除術に劣らない成績でした。
本試験を実施した医療機関
国立病院機構北海道がんセンター
群馬県立がんセンター
千葉県がんセンター
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院
岡山大学病院
広島市立病院機構広島市立広島市民病院
国立病院機構四国がんセンター
岐阜大学医学部附属病院
研究費
本試験は厚生労働科学研究費補助金(H23-臨研推-一般-007:早期乳がんに対するラジオ波熱焼灼療法の標準化に係る多施設共同臨床研究、H26-医療技術-一般-005:早期乳がんに対するイメージガイド下ラジオ波熱焼灼療法の標準化に係る多施設共同試験)、国立研究開発法人日本医療研究開発費(15Elk0201029h0002:早期乳がんに対するイメージガイド下ラジオ波燃焼灼療法の標準化に係る多施設共同研究、17ck0106318h0001:標準的乳がんラジオ波熱焼灼療法確立のための多施設共同臨床研究、20ck0106590h0001:標準的乳がんラジオ波熱焼灼療法開発に係る多施設共同試験)、国立研究開発法人国立がん研究センター運営費交付金研究開発費(25-B-09:早期乳癌へのラジオ波熱焼灼療法(RFA)の有効性の検証と標準化に向けた多施設共同研究)、コヴィディエンジャパン株式会社より研究資金提供を受けて実施しました。
用語解説
注1 先進医療
先進医療については、平成16年12月の厚生労働大臣と内閣府特命担当大臣(規制改革、産業再生機構)、行政改革担当、構造改革特区・地域再生担当との「基本的合意」に基づき、国民の安全性を確保し、患者負担の増大を防止するといった観点も踏まえつつ、国民の選択肢を拡げ、利便性を向上するという観点から、保険診療との併用を認めることとしたものです。 また、先進医療は、健康保険法等の一部を改正する法律(平成18年法律第83号)において、「厚生労働大臣が定める高度の医療技術を用いた療養その他の療養であって、保険給付の対象とすべきものであるか否かについて、適正な医療の効率的な提供を図る観点から評価を行うことが必要な療養」として、厚生労働大臣が定める「評価療養」の1つとされています。 具体的には、有効性及び安全性を確保する観点から、医療技術ごとに一定の施設基準を設定し、施設基準に該当する保険医療機関は届出により保険診療との併用ができることとしたものです。(厚生労働省HPより引用)
参考ページ
・先進医療の概要について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/sensiniryo/index.html
注2 特定臨床研究
医薬品等(医薬品、医療機器)を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性又は安全性を明らかにする研究で、「未承認薬・適応外の医薬品・医療機器を用いた臨床研究」もしくは「製薬企業等から資金提供を受けて実施する臨床研究」です。
・臨床研究法について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000163417.html
注3 コヴィディエンジャパン株式会社
https://www.medtronic.com/covidien/ja-jp/index.html
お問い合わせ先
医師主導特定臨床研究に関するお問い合わせ
国立がん研究センター中央病院
臨床研究支援部門 研究企画推進部
一般の方からのお問い合わせ
国立がん研究センター中央病院
がん相談支援センター
報道関係のお問い合わせ
国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室