2024-07-30 九州大学
工学研究院
藤ヶ谷 剛彦 教授
ポイント
- 慢性腎不全の進行を遅延させるため、大量の医療用活性炭を服薬し、原因物質を腸管内で吸着除去する処置が行われているが、患者の負担が大きいのが課題となっていた。
- 本研究により服薬量を3分の1に低減できる新しい炭素吸着剤の開発に成功した。
- 患者の負担が軽減できることで継続的な服薬を可能にし、慢性腎不全の進行遅延が期待できる。
概要
慢性腎不全はわが国の成人の8人に1人が発症する国民病とされている。ある程度進行すると症状が急激に悪化し、人工透析生活を余儀なくされる。しかし、人工透析は患者の肉体的・精神的負担が大きいため、慢性腎不全の進行を遅延させることは患者にとって極めて重要である。現在、進行遅延の方法の一つとしてインドールなどの尿毒症毒素前駆体を医療用の活性炭により吸着除去する処置がなされている。しかし、既存の医療用活性炭はアミノ酸やビタミンなどの必要物質も吸着除去してしまう選択性の低さもあり、1日6gもの大量の服用が必要で、患者の負担が大きいことが課題であった。
九州大学大学院工学研究院の藤ヶ谷剛彦教授、加藤幸一郎准教授、田中直樹助教および工学府博士課程3年のA.B.M. Nazmul Islam氏、同修士2年(当時)の赤峰麻衣氏らの研究グループは、選択性の低さは、従来の吸着材に空いている穴の大きさがバラバラであることに原因があると考え、メソポーラスカーボンと呼ばれる決まったサイズの穴を持つ炭素材料に着目した。メソポーラスカーボンのインドールの吸着選択性を調べたところ、様々なアミノ酸が混在する環境において市販の吸着剤と比較し3倍ものインドールの吸着選択性を有することを発見した。
今回の発見は、服薬量を減らせることを意味し、患者の服薬負担を軽減できることにつながる。服薬負担が軽減できるため、患者が継続して服薬することが可能になり、慢性腎不全の進行遅延に役立つことが期待される。
本研究成果は炭素材料学会が発行する国際学術誌「Carbon Reports」に2024年7月22日(月)(日本時間)にオンライン掲載された。
研究者からひとこと
メソポーラスカーボンによるインドール吸着の選択性実験の結果(8種類のアミノ酸共存下でのインドール吸着率)
今回の発見はまだフラスコの中での実験結果であるため、現在動物を使った実験を計画しています。実際に効果を発揮し、慢性腎不全患者が服用できるようになることを目指して研究を継続します。
論文情報
掲載誌:Carbon Reports
タイトル:Selective Adsorption of Indole on Mesoporous Carbon in an Aqueous System
著者名:A.B.M. Nazmul Islam, Mai Akamine, Chaerin Kim, Naoki Tanaka, Koichiro Kato, Tsuyohiko Fujigaya
DOI:10.7209/carbon.030304
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工学研究院 藤ヶ谷 剛彦 教授