がん遺伝子産物RASの分解異常によるヌーナン症候群発症メカニズムを解明 RAS/MAPKシグナル阻害が治療に効果

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2024-10-04 東北大学

大学院医学系研究科遺伝医療学分野 阿部太紀 助教

【発表のポイント】

  • 先天異常症であるヌーナン症候群(注1)の患者で同定された原因分子LZTR1(注2)のアミノ酸変異を持つマウスを世界で初めて作製しました。
  • 変異を持つマウスでは低身長、骨格異常、肥大型心筋症がみられ、正常なLZTR1が分解する標的であるRASタンパク質(注3)の蓄積がみられました。
  • マウスで見られた肥大型心筋症に対しては、細胞の増殖を抑えるMEK阻害剤にて効果が認められたことから、今後の治療法開発が期待されます。

【概要】

ヌーナン症候群は、低身長・心疾患・骨格異常などを伴う遺伝子疾患で、先天的にRAS/MAPKシグナル伝達経路(注4)の分子の変異が認められます。ヌーナン症候群の原因として報告された遺伝子LZTR1は、患者で同定されるほとんどは遺伝子の機能を失う変異ですが、アミノ酸の変異(ミスセンス変異)が1つの場合の発症メカニズムは不明でした。

東北大学大学院医学系研究科遺伝医療学分野の阿部太紀助教、青木洋子教授、国立成育医療研究センター研究所の高田修治部長らの研究グループは、ヌーナン症候群で同定されたLZTR1ミスセンス変異をもつマウスの作製に成功しました。作製したマウスは低身長、肥大型心筋症、骨格異常などを示しますが、心臓ではRASサブファミリーのRIT1とMRASタンパク質の蓄積が認められました。阿部助教らは2020年にLZTR1がRASをユビキチン化し分解する分子であることを報告しましたが、今回の研究ではLZTR1のミスセンス変異を持つマウスではRASタンパクが蓄積し、さまざまな症状を来すことを初めて明らかにしました。新しいRASの活性化メカニズムが明らかとなり、ヒトでの治療法開発につながることが期待されます。

本研究成果は、2024年10月1日(現地時間)に国際科学誌JCI Insight(電子版)に掲載されました。

がん遺伝子産物RASの分解異常によるヌーナン症候群発症メカニズムを解明 RAS/MAPKシグナル阻害が治療に効果
図1. 本研究の概略(左:従来のRAS/MAPK活性化機構、中央:LZTR1によるRAS分解機構、右:LZTR1変異体によるRAS分解機構の異常とヌーナン症候群発症機序)

【用語解説】

注1.ヌーナン症候群:先天性心疾患・低身長・骨格異常を伴う先天異常症であり国の指定難病の一つです。

注2. LZTR1 (leucine-zipper-like post translational regulator 1):BTB-Kelchスーパーファミリーに属する分子であり、ユビキチン・プロテアソーム経路を介したタンパク質分解に関与する分子です。ヌーナン症候群の他にグリオブラストーマなどのがんにおいても遺伝子変異が報告されています。

注3. RASタンパク質:古典型RAS(HRAS、KRAS、NRAS)ならびに非古典型RAS (RIT1、MRAS)などから構成されるがん原遺伝子産物であり、ヌーナン症候群の発症に関与することが知られています。

注4.RAS/MAPKシグナル伝達経路:細胞の中で様々な情報を伝達する生体に必須のシグナル伝達経路あり、細胞の増殖、様々な組織への分化などを制御しています。

【論文情報】

タイトル:Dysregulation of RAS proteostasis by autosomal-dominant LZTR1 mutation induces Noonan syndrome-like phenotypes in mice
著者:Taiki Abe*, Kaho Morisaki, Tetsuya Niihori, Miho Terao, Shuji Takada, Yoko Aoki*  *責任著者
掲載誌:JCI Insight
DOI:10.1172/jci.insight.182382

詳細(プレスリリース本文)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院医学系研究科遺伝医療学分野
助教 阿部太紀(あべ たいき)
教授 青木洋子 (あおき ようこ)

(報道に関すること)
東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
東北大学病院広報室

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