増殖しない「冬眠状態」のバクテリアを調べる新しい技術 ~低エネルギー状態の病原細菌を理解し、難治性感染症の新しい治療法の開発へ~

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2024-11-15 物質・材料研究機構

NIMSとカリフォルニア工科大学からなる研究チームは、「冬眠状態」にある細菌(バクテリア)の非常にゆっくりとした代謝を効率的に測定するための新しい技術を開発しました。

概要

  1. NIMSとカリフォルニア工科大学からなる研究チームは、「冬眠状態」にある細菌(バクテリア)の非常にゆっくりとした代謝を効率的に測定するための新しい技術を開発しました。冬眠状態の細菌は、例えば、治療が難しい慢性的な肺感染症の原因となっていますが、その生存メカニズムは長年の謎でした。本技術を使うことにより、細菌がゆっくりとした代謝を維持する仕組みを詳しく調べられるようになり、現状では難しい感染症の治療への新しい道がひらかれることが期待されます。
  2. 通常は抗生剤が効く細菌でも、ゆっくりと代謝を行う状態になると抗生剤が効きにくくなることは古くから知られており、これまで様々なアプローチで研究が行われてきました。しかし、この「冬眠状態」を実験室で作り出すことは未だむずかしく、研究を進める上での本質的な障害となっていました。このため、ゆっくりとした代謝状態を簡単かつ再現性よく作り出す技術が長い間求められてきました。
  3. 今回、研究チームは、96連ポテンショスタットという独自に開発した実験装置を使うことで、ゆっくりと代謝する細菌を高効率に生み出す技術の開発に成功しました。この装置では、電極が印刷された96個の小さな容器それぞれで細菌の代謝速度を一度に測定できます。研究チームが、緑膿菌という病原細菌を調べたところ、この細菌が分泌するフェナジンという小分子がある条件では、酸素をつかって呼吸している場合よりも1000倍以上ゆっくりと代謝していることを見出しました。さらに、生命を維持できるぎりぎりの状態を維持しており、増殖も止まっているため、活動している細菌に作用する抗生剤に対して耐性をもつことがわかりました。
  4. 今後、この技術を使って、ゆっくりとした代謝への理解をより深め、いろいろな種類の病原細菌を研究することで、感染症の治療に役立てていきます。冬眠状態を維持するために必要なメカニズムがわかれば、難治性の感性症への新しい治療法へとつながることが期待できます。
  5. 本研究は、NIMS高分子・バイオ材料研究センターの岡本 章玄グループリーダー、カリフォルニア工科大学のDianne Newman教授の共同研究として、日本学術振興会および科学技術振興機構、アメリカ国立衛生研究所の助成を受けて行われました。
  6. 本研究成果は、2024年10月23日にCell誌のオンライン版に掲載されました。

増殖しない「冬眠状態」のバクテリアを調べる新しい技術 ~低エネルギー状態の病原細菌を理解し、難治性感染症の新しい治療法の開発へ~

プレスリリースの図: 増殖しない冬眠状態の細菌代謝を効率的に計測できる96連ポテンショスタットシステム

掲載論文

題目 : Mechanistic study of a low-power bacterial maintenance state using high-throughput electrochemistry
著者 : John A. Ciemniecki, Chia-Lun Ho, Richard D. Horak, Akihiro Okamoto, Dianne K. Newman
雑誌 : Cell
掲載日時 : 2024年10月23日
DOI : 10.1016/j.cell.2024.09.042

医療・健康
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