2025-01-24 大阪公立大学
ポイント
◇本手法の検出下限は7.37 fg/μLで、デジタルPCR法(検出下限:約200 fg/μL)と比較して、1~2桁高感度かつ簡便な遺伝子検査が実現可能。
◇PCR法による増幅なしで、DNA中の1塩基の違いをわずか数分で高精度に識別。
概要
大阪公立大学 研究推進機構 協創研究センター LAC-SYS研究所の飯田 琢也所長、床波 志保副所長、豊内 秀一特任講師らの研究チームは、PCR法で標的DNAを増幅せずに、光照射だけで超高感度かつ迅速にDNAを分析する「ヘテロプローブ光濃縮法※1」を新たに開発しました(図1)。この手法は、蛍光染色した一本鎖の標的DNA(蛍光DNA)と選択的に結合する一本鎖DNAを修飾した、サイズや材質が異なる二種類のプローブ粒子を用い、選択性と濃縮効率を向上させます。標的DNAを含む溶液に光照射し、標的DNAとプローブ粒子を光の力(光誘起力)とその力が引き起こす対流(光誘起対流)により局所的に濃縮させ、DNAの二重鎖形成を加速することに成功しました。5分間の光照射により大きさ約数十μmの集合体が形成され、その間隙に蛍光DNAが捕捉されます。金ナノ粒子への光照射によって生じる光の熱(光発熱効果)で二重鎖の結合を緩め、標的DNAの計測の選択性を高めることができます。本手法の検出下限は7.37 fg/μLであり、μL(= 10-6 L、読みはマイクロリットル)レベルのゴマ粒程度の量の液体試料から1fg=10-15g(1000兆分の1グラム、読みはフェムトグラム)のDNAを計測できるため、従来のDNA検出法であるデジタルPCR法(検出下限:約200fg/μL、通常2.5~5時間を要する)よりも1~2桁高感度となります。また、PCR法による増幅なしで、DNA中の1塩基の違いを高精度に識別することにも成功しました。本研究結果は、がん等の遺伝子疾患の早期診断や食品・環境中の遺伝子検査の革新につながるものと期待されます。
本研究成果は、2025年1月24日(金)10時(日本時間)に、米国化学会が発行する国際学術誌「ACS Sensors」にオンライン掲載されました。さらに同誌のSupplementary Cover Artにも採用される予定です。
図1 ヘテロプローブ光濃縮
遺伝子検査は新型コロナのような感染症の検査、がんの早期診断、食品産地検査、環境中の生物由来遺伝子(環境DNA)などさまざまな分野で必要不可欠な技術です。本技術を発展・普及させ、人類の「健康・食品・環境」の保全に貢献したいと思っています。
豊内特任講師、床波副所長、飯田所長
資金情報
本研究は、JST未来社会創造事業(JPMJMI21G1)、創発的研究支援事業(JPMJFR201O)、科研費基盤研究(A)(JP21H04964)、科研費研究活動スタート支援(22K20512)、科研費若手研究(20K15196)、特別研究員研究奨励費(21J21304)、大阪府立大学キープロジェクトの支援の下で実施されました。
用語解説
※1 ヘテロプローブ光濃縮法:ヘテロとは「異種」という意味。異なる種類の微粒子の表面に、標的となる分子に選択的に結合するプローブとなる分子(検出対象となる生体物質に選択的に結合する分子)を修飾して光濃縮効果を高めた方法。
掲載誌情報
【発表雑誌】
ACS Sensors
【論 文 名 】
Single Nucleotide Polymorphism Highlighted via Heterogeneous Light-Induced Dissipative Structure
【著 者】
Shuichi Toyouchi, Seiya Oomachi, Ryoma Hasegawa, Kota Hayashi, Yumiko Takagi, Mamoru Tamura, Shiho Tokonami,* and Takuya Iida*
【掲載URL】https://doi.org/10.1021/acssensors.4c02119
本研究では、飯田と床波は本研究を立ち上げ、研究デザインに等しく貢献しました。豊内、大間知、長谷川、林、高木、床波および飯田は、異種プローブ粒子によるDNAハイブリダイゼーションの光誘導加速に関する実験を行いました。田村、豊内、飯田は理論計算を行いました。
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学
大学院理学研究科/LAC-SYS研究所
教授/所長:飯田 琢也(いいだ たくや)
大学院工学研究科/LAC-SYS研究所
准教授/副所長:床波 志保(とこなみ しほ)
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課