抗凝固療法新時代に対応した治療選択
2018-01-29 国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市、理事長:小川久雄、略称:国循)の豊田一則副院長が作業部会長、脳卒中集中治療科の古賀政利医長、山上宏医長、脳血管内科の宮田敏行シニア研究員(前:研究所病態医科学部門長)らが部会員となり、一般社団法人日本脳卒中学会(以下「学会」)脳卒中医療向上・社会保険委員会「抗凝固療法中患者への脳梗塞急性期再開通治療に関する推奨」作業部会(以下、「本作業部会」)が結成され、その新たな推奨と解説(2017年11月版)が平成29年12月25日に学会ホームページに掲載されました
<http://www.jsts.gr.jp/img/guideline20171222.pdf>。学会の機関誌「脳卒中」にも掲載される予定です。
背景
アルテプラーゼ(rt-PA)を用いた静注血栓溶解療法は、急性期脳梗塞において梗塞巣形成、拡大の原因となる病的な血栓を溶解して、詰まった脳動脈を再開通させる治療法です。2005年に国内で認可されて以降、救命率向上や後遺症の低減などに大きく寄与してきました。しかし、rt-PAの強力に血栓を溶かす作用は、頭蓋内出血などの出血合併症の危険を高めます。したがって同じく出血合併症の危険を高め得る抗凝固薬を服用中の患者さんにrt-PAを用いることには、制約があります。
2012年に学会は「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針 第二版」を作成し、その中で抗凝固薬を服用中に起こった脳梗塞へのrt-PA静注療法(静注血栓溶解療法)の適応を詳しく記載しました。しかし当時は、ダビガトランやXa阻害剤(リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)などの新しい直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が承認されたばかりで、これらの新薬を服用中に起こった脳梗塞への適切な対応法が明らかでありませんでした。その後臨床現場での経験も増え、一部の抗凝固薬にはその効果を急速に打ち消して出血合併症の発現や進行を防ぐ中和薬が新規承認されるなど環境が大きく変わったため、抗凝固薬服用患者へのrt-PA静注療法の新たな適応基準が求められていました。
推奨内容
今回の推奨の要点は、(1) 直接作用型経口抗凝固薬の最終服用後4時間以内であることが確認できた場合には、rt-PA静注療法の適応外とみなしたこと、および (2) 各抗凝固薬の効果を中和薬を用いて緊急是正した後にrt-PA静注療法を行うことの適否を解説したことです。上記URLに示す提言に、12項目の推奨事項を記載しています。
この中でもとくに注目されるのは、ダビガトラン服用患者における推奨です。2016年11月より国内でも発売が開始されたダビガトランの中和薬であるイダルシズマブは、ダビガトランの効果だけを選択的に失効させ、凝固系全体には影響を与えない(血が固まり易くならない)と考えられています。ダビガトラン服用患者が脳梗塞を起こした際に、そのままrt-PA静注療法を行うと頭蓋内出血を招く危険が高くなりますが、イダルシズマブを用いてからrt-PAを投与すると、このような危険を避けられる可能性があります。
本作業部会では、以下のフローチャートを作成しました。今後の超急性期脳梗塞治療の指針として広く活用されることが期待されます。
*腎機能、ダビガトラン最終服薬からの時間、出血既往などを総合的に考慮したうえで、イダルシズマブの使用の有益性が危険性より高いと判断した場合は、投与を考慮する。
アルテプラーゼを投与せずに、機械的血栓回収療法を優先的に考慮することも、あり得る。
※図は「抗凝固療法中患者への脳梗塞急性期再開通治療に関する推奨 2017年11月」の内容を改変せずに掲載しています。