産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan GI-SCREEN」、73種の遺伝子異常を血液で解析

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リキッドバイオプシーを用いた個別化医療の実現を目指す

2018-03-13 国立研究開発法人国立がん研究センター

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:大津 敦、千葉県柏市)は、2018年2月より、結腸・直腸がんを含む消化器・腹部悪性腫瘍の患者さんを対象としたリキッドバイオプシーに関する臨床研究を開始しました。この研究は、米国Guardant Health社が開発した高感度な遺伝子解析技術Guardant360(R)アッセイを用い、産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan GI-SCREEN」の研究として実施します。従来の腫瘍組織の生検は侵襲が大きいため、複数箇所や繰り返しの生検は患者さんへのリスクが大きく、治療決定の遅れにも繋がりますが、リキッドバイオプシーは、血中を循環する腫瘍DNAの断片を低侵襲で正確、かつ迅速に解析することができるため、腫瘍組織の生検が持つ課題を克服できる可能性があります。

研究の社会的背景

消化器がんの中で様々な遺伝子異常の発見が、遺伝子解析技術の発展と共に治療への応用につながっています。抗EGFR抗体薬であるセツキシマブやパニツムマブは、大腸がんの治療薬として使用されていますが、RAS遺伝子に異常があると効果が期待できないことから、抗EGFR抗体薬を投与する前に、RAS遺伝子検査を行うようになりました。しかし、RAS遺伝子以外にも、抗EGFR抗体薬の抵抗性に関連するものとして、BRAF遺伝子、PIK3CA遺伝子、HER2遺伝子、MET遺伝子など様々な遺伝子の異常が報告されています。しかし、これらの遺伝子異常が発見されたとしても抗EGFR抗体薬の有効性が全く期待できないかどうか、現在の研究では関係性が明確ではないため、これらの遺伝子検査が保険適応とはなっておりません。また、胃がん、食道がん、肝細胞がん、胆道がん、膵がん、小腸がん、虫垂がん、肛門管がん、消化器神経内分泌腫瘍/がん、消化管間質腫瘍 (GIST) といったその他の消化器がんにおいて、臨床の現場で遺伝子異常に基づいた治療選択が行われているのは、胃がんのHER2遺伝子増幅のみです。しかし、それぞれの遺伝子異常を有する消化器がんを対象とした新たな薬剤の開発が進められているため、これらの遺伝子異常を解析することの重要性が認識されてきています。

現在、これらの遺伝子異常は腫瘍の部位や治療の影響により変化することが明らかになってきていますが、従来の腫瘍組織の生検は侵襲が大きいため、患者さんへの負担が大きく、複数箇所の生検や繰り返しの生検を行って遺伝子を解析することは困難です。一方、腫瘍DNAの断片が血中を循環していることが明確になってきたため、採取した血液を用いて腫瘍DNAの断片を低侵襲に遺伝子を解析することで、腫瘍組織の生検が持つ課題を克服できる可能性があります。消化器がんにおいて、リキッドバイオプシーによる遺伝子解析の有用性が確認されれば、近い将来、低侵襲で正確な個別化医療が実現すると予測されます。

研究概要

産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan GI-SCREEN」は、国立がん研究センターが消化器がん患者さんを対象として、一人ひとりのがん患者さんに最適な医療を提供することを目的に、全国の医療機関、製薬企業と協力して実施するがん遺伝子異常のスクリーニング事業です。特定の遺伝子異常が見つかった患者さんは、対応する治療薬の臨床試験へ参加できる可能性があり、新たな治療の機会を得ることができます。2014年より開始して、2017年12月時点で既に4000例以上の消化器がん患者さんが登録されています。

今回、SCRUM-Japan GI-SCREENに関連した新しいプロジェクトとして「結腸・直腸癌を含む消化器・腹部悪性腫瘍患者を対象としたリキッドバイオプシーに関する研究」を開始します。この研究には、血液から73種類の遺伝子(図1)の変化を一度に測定できる新しい遺伝子解析技術である「Guardant360(R)アッセイ」を導入します。これまでは、がんの組織検体を用いて遺伝子解析を行っていましたが、今回の研究では、消化器がん患者さんの血液(20ml)を用いて遺伝子解析を行います。(図2)検体は遺伝子解析を実施するGuardant Health社に送付され、RAS、BRAF、PIK3CA、HER2、MET遺伝子異常などがんに関連する73の遺伝子異常の有無が調べられます。遺伝子解析の結果は約 2 週間で判明します。まずは、抗EGFR抗体薬による治療を過去に行った大腸がんの患者さん約200名を対象としますが、今後は全消化器がん患者さん約2000名(図3)に対象を広げ、リキッドバイオプシーを使った遺伝子解析の有用性を確認する予定です。この研究で、特定の遺伝子異常が見つかった患者さんは、対応する治療薬の臨床試験へ参加できる可能性があります。

図1 Guardant360で解析対象となる73のがん関連遺伝子異常

産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan GI-SCREEN」、73種の遺伝子異常を血液で解析

図2 研究の概要

研究の概要

図3 今後の研究について(予定)

今後の研究について(予定)

展望

本研究の成果により、がん治療に結びつく血中の遺伝子異常や腫瘍組織の遺伝子異常との違いが明らかになれば、がんの遺伝子異常の変化の解明が進み、さらにリキッドバイオプシーを用いた個別化医療の実現に向けた検討をすることが可能となります。

SCRUM-Japan GI-SCREEN

SCRUM-Japan GI-SCREEN(代表:東病院消化管内科長 吉野孝之)は、国立がん研究センターが全国の医療機関、製薬企業と協力して実施している遺伝子スクリーニング事業です。2014年2月より国内の主要ながん専門病院や大学病院と協働して、「頻度は少ないが有望な治療薬があるがん患者さん」を全国規模で見つけ出し、新しい治
療薬が届く環境を整備する目的で設立されました。開始当時は、希少な大腸がんを見つけ出すことを目的としていましたが、2015年2月より、産学連携全国がんゲノムスクリーニング事業「SCRUM-Japan」の一員となり、大腸がんだけでなく胃がんや食道がんといった消化器がん全体にその範囲を広げています。

お問い合わせ先

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国立研究開発法人国立がん研究センター(柏キャンパス)
SCRUM-Japan事務局

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国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)

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