チオプリン製剤の重篤な副作用の予測に有用である世界初の体外診断用医薬品の開発に成功

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チオプリン製剤の重篤な副作用の予測に有用であるNUDT15 Arg139Cys遺伝子多型を検出する世界初の体外診断用医薬品(MEBRIGHT NUDT15 キット)の開発に成功

2018-04-13 株式会社医学生物学研究所,国立大学法人東北大学,国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表のポイント
  • 炎症性腸疾患、白血病、リウマチ性疾患、臓器移植後の治療におけるチオプリン製剤の重篤な副作用の予測に有用なNUDT15(Nudix Hydrolase 15)遺伝子多型を検出するキット(製品名:MEBRIGHT NUDT15 キット、以下「本キット」)を開発し、世界で初めて体外診断用医薬品として製造販売承認(平成30年4月6日)を取得しました(図1)。本キットの新発売は平成30年7月2日を予定しております。
  • 本キットはチオプリン製剤による治療選択を補助し、最適な治療法の提供や医療費の適正化に貢献するものと期待されます。
  • 本キットは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)によるゲノム創薬基盤推進研究事業における研究課題名「チオプリン不耐例を判別するNUDT15 R139C遺伝子多型検査キットの開発を軸とした炎症性腸疾患におけるゲノム実用化フレームワークの確立」の支援を受けて、国立大学法人東北大学(研究開発代表者:角田洋一)と株式会社医学生物学研究所(研究開発分担者:阿部由紀子)らによって開発されました。
研究の背景

チオプリン製剤(アザチオプリンおよびメルカプトプリン水和物)は、炎症性腸疾患を始め、白血病、リウマチ性疾患、臓器移植後の治療に効能効果が認められた安価かつ有用な薬剤であり(1、2、3)、日本国内で広く使用されています(4、5、6)。しかしながら、日本人を含む東アジア人では、チオプリン製剤を服用した一部の患者さんにおいて、早期に重度の白血球減少症や全身脱毛症といった重篤な副作用を生じることが知られてきました。重度の白血球減少症は、致死的な感染症を合併するリスクを増大させることから生命に重大な影響を及ぼし、発見や治療が遅れると患者さんが死亡するケースもあります。また、全身脱毛症は一度発症するとチオプリン製剤の服用中止後も進行し、完全脱毛に至ると回復に数か月以上を要するため、日常生活に著しい影響を及ぼします。
これまではチオプリン製剤による重篤な副作用の事前予測方法がなく、慎重な投与にもかかわらず一部の患者さんで重篤な副作用が発症し、治療の中断や入院加療を余儀なくされてきました。また、重篤な副作用への懸念から、チオプリン製剤の服用自体が受け入れられないことも少なくありませんでした。
近年、日本人を含む東アジア人で知られてきたチオプリン製剤による重篤な副作用の発症とチオプリンの代謝酵素の1つであるNUDT15の遺伝子多型との間に強い関連があることが発見されました。NUDT15はチオプリン製剤の薬効を示す活性型分子の代謝に関与しており、その遺伝子多型により酵素活性が大きく変化します(図2)。特にNUDT15の139番目のアミノ酸がアルギニンからシステインに変化する遺伝子多型を持つ場合、その酵素活性が著しく低下します。そのため、139番目のアミノ酸がシステインのみとなる患者さんでは、チオプリン製剤の活性型分子の分解が抑制され薬効が強く出るため、チオプリン製剤の服用による重篤な副作用を発症するリスクが高いことが報告されています(7、8)。
我々は、チオプリン製剤の服用による重篤な副作用発症に関与するNUDT15の139番目のアミノ酸を決定する遺伝子多型の情報を、正確かつ迅速に提供できる体外診断用医薬品を開発し、適切な診断に結びつけることを目的に本キットの開発を開始しました。

研究の内容

本キットは、株式会社医学生物学研究所(研究開発分担者:阿部由紀子)らによって開発され、患者さんの血液から抽出されたゲノムDNAを検体に用いて、NUDT15遺伝子多型を検出する試薬です。リアルタイムPCR法を原理としており、3種類のアレル(アルギニン、システインもしくはヒスチジンをコードする塩基配列)に対応する蛍光標識プローブの反応から検体中のNUDT15遺伝子多型を検出し、NUDT15の139番目のアミノ酸を判定します。また、本キットの試薬調製から判定までに必要な時間はおよそ2時間程度であり、多数検体の同時測定も可能なことから、迅速性を特徴としています。
本キットの性能を評価するため、3施設(国立大学法人東北大学 東北大学病院、医療法人社団 綾和会 浜松南病院、杏林大学医学部付属病院)から160症例の炎症性腸疾患の患者さんを登録し、臨床性能試験を実施しました。対照法としてダイレクトシークエンス法を用い、本キットとダイレクトシークエンス法の判定結果の一致率を解析したところ、160症例の全てで判定結果が一致しました。したがって、本キットは迅速かつ精度高くNUDT15遺伝子多型を検出し、コドン139のアミノ酸を判定する性能をもつことが確認されました。
東北大学東北メディカル・メガバンク機構で構築をおこなった3,554人の日本人の全ゲノムリファレンスパネルでは、アルギニンがシステインに変化するアレルが10.5%、ヒスチジンに変化するアレルが0.7%の頻度で確認されています。今後は、同パネルを活用することでより詳細なハプロタイプ(染色体上のSNPのつながり)ごとの副作用などについても検討を進めていく予定です。
また、東北メディカル・メガバンク機構は、バイオバンクとしての役割を担っており、本研究課題の支援のもとで行われている多施設型臨床研究「炎症性腸疾患患者におけるチオプリン関連副作用とNUDT15遺伝子多型との相関性に関する多施設共同研究(MENDEL Study)」で収集された約3千検体の全国の炎症性腸疾患患者さんのDNAの管理を行うことで同プロジェクトの推進に貢献しています。今回、本キットの臨床性能試験は、このバイオバンクで保管されているDNA検体を用いて行われました。

研究の意義・今後期待される展開

NUDT15遺伝子多型とチオプリン製剤の重篤な副作用の関係は、日本、中国、韓国など東アジアを中心に多数の報告がなされていますが、NUDT15遺伝子検査について体外診断用医薬品として製造販売承認されているキットは存在しませんでした。日本国内で開発された本キットは、世界初の体外診断用医薬品として迅速かつ簡便にNUDT15遺伝子多型を検出できる性能を有しており、日本発のゲノム医療の1つとなることが期待されます。
チオプリン製剤は炎症性腸疾患や小児の急性リンパ性白血病等の治療で広く使用されていますが、日本国内における炎症性腸疾患の患者数は約21万人とされ、年々増加の一途を辿っており、その年間新規患者数は1万人に昇ると推計されます。また、小児急性リンパ性白血病の患者数は約2千人程度と推計され、その年間新規患者数は500~600人に昇ります。日本人では、重篤な副作用を発症するリスクの高いNUDT15の139番目のアミノ酸がシステインのみとなる方の割合は、1%程度と報告されています。
本キットの開発の成功によって、チオプリン製剤の投与前にNUDT15遺伝子検査が可能となり、重篤な副作用を発症するリスクの高い患者さんを特定できるようになりました。本キットはチオプリン製剤による治療選択を補助し、患者さんへの最適な治療法の提供や医療費の適正化に貢献するものと期待されます。

用語説明
注1.チオプリン製剤
チオプリン製剤は生体内で代謝され、活性型分子(TGTPおよびTdGTP)となって効能・効果を発揮します。NUDT15はチオプリン製剤の代謝関連酵素として、活性型分子の脱リン酸化に関与しています。
注2.炎症性腸疾患:
炎症性腸疾患は主に潰瘍性大腸炎とクローン病の二つの疾患からなる、大腸及び小腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍が生じる原因不明の難治性炎症性腸管障害です。慢性的あるいは寛解と再燃を繰り返す疾患であり、治療では速やかな寛解導入療法と寛解の維持療法が重要となります。
注3.白血病:
白血病は急性骨髄性白血病や急性リンパ性白血病に代表される血液のがんであり、血液細胞ががん化し骨髄内で増殖することで正常な血液細胞が減少し、免疫機能の低下、出血、貧血などの症状が現れる疾患です。

チオプリン製剤の重篤な副作用の予測に有用である世界初の体外診断用医薬品の開発に成功
図1 本キットの検出対象NUDT15遺伝子多型とアミノ酸の種類
図2 NUDT15とチオプリン製剤
図2 NUDT15とチオプリン製剤

参考文献
  1. アスペンジャパン株式会社.イムラン®錠50mg.添付文書.2017年2月改定(第16版)
  2. 田辺三菱製薬株式会社.アザニン®錠50mg.添付文書.2016年1月改定(第15版)
  3. 大原薬品工業株式会社.ロイケリン®散10%.添付文書.2017年6月改定(第12版)
  4. 炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2016.編集 日本消化器病学会.南江堂2016
  5. 平成28年度 改訂版 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針.厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」(鈴木班)平成28年度分担研究報告書 別冊
  6. 小児白血病診療ガイドライン.日本癌治療学会 がん診療ガイドライン
  7. Kakuta Y, Naito T, Onodera M, et al., NUDT15 R139C causes thiopurine-induced early severe hair loss and leukopenia in Japanese patients with IBD. Pharmacogenomics J. 2016;16:280-5
  8. 8. Tanaka Y, Kato M, Hasegawa D, et al., Susceptibility to 6-MP toxicity conferred by a NUDT15 variant in Japanese children with acute lymphoblastic leukaemia. Br J Haematol. 2015;171(1):109-15
お問い合わせ先
研究に関すること

東北大学病院 消化器内科 助教 角田 洋一(かくた よういち)
株式会社医学生物学研究所 研究開発本部 遺伝子試薬開発ユニット
ユニット長 阿部 由紀子(あべ ゆきこ)

報道に関すること

株式会社医学生物学研究所 総務部 本社総務グループ
グループリーダー 東 成見(あずま まさちか)
東北大学病院 広報室

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構 基盤研究事業部 バイオバンク課

有機化学・薬学
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