ウイルスを使わずに、簡単に、安く、効果の高いCAR-T細胞製剤を開発

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EPHB4受容体を発現する固形がんに対して強く持続的な抗腫瘍効果を証明

2021-05-19 京都府立医科大学,日本医療研究開発機構

ポイント
  • 遺伝子改変キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)は患者の血液を遺伝子改変して作製される新しいがん免疫療法であり、血液腫瘍、固形腫瘍に対するCAR-T細胞製剤が相次いで開発されています。
  • 研究グループは、ウイルスを使わない遺伝子改変技術である「ピギーバックトランスポゾン法」と、本研究で独自に開発した、遺伝子導入されたCAR-T細胞を免疫疲弊を誘導せずに体外で増殖させる「遺伝子改変フィーダー細胞法」を組み合わせ、さまざまなCAR-T細胞を効率よく製造する技術を開発しました。
  • 本開発技術で作製されたCAR-T細胞は、免疫疲弊による治療効果の減弱を起こすことなく、強く持続的な抗腫瘍効果を示し、機能的に優れていることを明らかにしました。
  • また、本開発技術を用いて、世界で初めて、骨軟部腫瘍などの多くのがんに高発現するEPHB4受容体を標的とするCAR-T細胞(EPHB4-CAR-T細胞)を開発し、骨軟部腫瘍、乳がん細胞に対する抗腫瘍効果を証明しました。さらに、がん細胞の増殖に関わるたんぱくの一つであるHER2などを標的とするCAR-T細胞の製造が可能であることも証明し、本開発技術が多種多様なCAR-T細胞の製造に応用可能であることを証明しました。
  • ピギーバックトランスポゾン法によるCAR-T細胞の製造は、従来の技術と比べて、簡便で安価な細胞の製造が可能である上に、固形腫瘍に対しても効果の高い細胞の製造が可能であり、難治性固形腫瘍患者に新たな治療選択肢を提供できることが期待されます。現在、すでにEPHB4-CAR-T細胞を用いた医師主導治験が計画中であり、数年後の臨床応用を目指した開発が継続されています。
研究支援等

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の革新的がん医療実用化研究事業(研究開発課題名:EPHB4 受容体陽性悪性軟部腫瘍を標的とした非ウイルス遺伝子改変キメラ抗原受容体T 細胞療法の非臨床試験、研究代表者名:柳生 茂希)、日本学術振興会科学研究費助成事業ならびに京都発革新的医療技術研究開発助成の支援のもと行われたもので、その研究成果は国際科学雑誌『Molecular Therapy Oncolytics』、『Molecular Therapy-Methods & Clinical Development』にそれぞれ2021年3月4日、2021年3月23日付けで発表されました。

研究の背景

CAR-T細胞とは、免疫細胞であるT細胞に対して遺伝子操作を加えることで、がん細胞を強力に殺傷する能力をもった人工T細胞のことを指します(図1)。CAR-T細胞を用いたがん治療は従来の抗がん剤や放射線治療とは異なる機序でがん細胞を殺傷することから、難治性あるいは治療抵抗性のがんに対してもその有効性が期待されています。


図1 CAR-T細胞療法とは?

すでに、一部の白血病や悪性リンパ腫など、血液腫瘍に対するCAR-T細胞が製剤化され、非常に高い治療効果を示すことが報告されており、わが国でも治療に使われています。一方で、CAR-T細胞の製造には複雑な製造工程が必要であり、非常に高額な薬価につながることから、CAR-T細胞療法の普及による医療経済のひっ迫も懸念されています。そのため、簡便、安全かつ安価な方法で製造できる、抗腫瘍効果の高いCAR-T細胞の開発が望まれています。また、血液腫瘍だけではなく、固形腫瘍に対するCAR-T細胞を開発し、より多くの患者さまにCAR-T細胞療法が行えるように研究が進められています。

固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の開発も活発な研究が行われていますが、血液がんに対するCAR-T細胞療法と比較するとその効果は不十分であると言われています。この理由の一つとして、「CAR-T細胞の免疫疲弊」が注目されています。CAR-T細胞に「免疫疲弊」が生じると、がん細胞を攻撃する力を失ってしまいます。この免疫疲弊には、T細胞の細胞死誘導時に発現が増強されるPD-1分子も一因として関わっており、PD-1分子がCAR-T細胞に発現してくることで免疫疲弊が生じ、がんに対する効果を減弱させます(図2)。そのため、免疫疲弊が起こりにくく、持続的にがん細胞に効果を発揮し続けるCAR-T細胞こそが、真に効果があるCAR-T細胞である、と言えます。


図2 CAR-T細胞の「免疫疲弊」

現在開発されているCAR-T細胞の多くは、「ウイルスベクター」を用いて遺伝子操作を行うことで製造されています。しかし、ウイルスベクターによる遺伝子操作には複雑な工程が必要であり、CAR-T細胞の製造に莫大なコストがかかってしまいます。また、ウイルスベクターを用いた遺伝子操作の中で、CAR-T細胞の免疫疲弊が起こってくることが報告されています。

研究成果の概要

研究グループは、「ピギーバックトランスポゾン法」という遺伝子操作技術と、独自に開発した「遺伝子改変フィーダー細胞法」を用いて、様々なCAR-T細胞を製造する技術を開発しました。

ピギーバックトランスポゾン法とは、ピギーバック転移酵素を用いた遺伝子操作法であり、T細胞にCARたんぱくを安定に発現することが可能となります(図3)。この方法を用いることで、ウイルスを用いる遺伝子操作と比べて製造工程が少なく安価に細胞が製造できます。


図3 ピギーバックトランスポゾン法によるCAR-T細胞作製技術

さらに、研究グループは、遺伝子導入されたCAR-T細胞に対して、免疫疲弊を誘導せずに体外で増殖させる方法として、「遺伝子改変フィーダー細胞法」を開発しました。遺伝子改変フィーダー細胞は、患者の血液から採取された末梢血単核球に、がん抗原遺伝子などを導入することで作製されます。この細胞とCAR-T細胞を混合することで、CAR-T細胞が免疫疲弊を起こすことなく活性化し(図4)、体外で増殖することを証明しました。


図4 遺伝子改変フィーダー細胞によるCAR-T細胞の活性化

例として、欧米ですでに臨床開発中のHER2特異的CAR-T細胞を本製造法で作製すると、免疫疲弊に関与するPD-1発現が誘導されず、CAR-T細胞の抗腫瘍効果と密接にかかわるステムセルメモリー型T細胞が誘導されてくることを証明しました(図5)。また、HER2陽性腫瘍担がんマウスに対して、強力かつ持続的な抗腫瘍効果を示しました。


図5 免疫疲弊のないHER2-CAR-T細胞の作製

さらに研究グループは、本製造法を用いて、骨軟部腫瘍、乳がん、卵巣がん、大腸がんなど、多くのがんに高発現するEPHB4受容体に対する特異的なCAR-T細胞(EPHB4-CAR-T細胞)を開発し、EPHB4-CAR-T細胞が、これらの腫瘍細胞を認識、結合することで強力な抗腫瘍効果を示すことを、担がんマウスモデルを用いて証明しました(図6)。また、EPHB4-CAR-T細胞は、ヒトのEPHB4受容体だけではなく、マウスのEPHB4受容体にも結合することを証明し、この結果からマウスを用いた安全性試験(正常臓器を間違って傷害しないかどうかを検証する試験)を実施し、その安全性を確認しました(図7)。


図6 EPHB4-CAR-T細胞による強力な抗腫瘍効果
図7 EPHB4-CAR-T細胞のマウスEPHB4たんぱくへの結合性及びマウスを用いた安全性試験

今後の期待

現在、EPHB4-CAR-T細胞の臨床応用に向けて、医師主導試験開始に向けた非臨床安全性試験が行われています。また、日本医療研究開発機構 革新的がん医療実用化研究事業の支援を受け、数年後の医師主導治験開始が計画されています。

本研究で開発した、簡便、安価、安全に製造可能で、かつ機能が良く、複数のCAR-T細胞に応用可能な新規製造法によって、血液腫瘍のみならず固形腫瘍に対しても有効なCAR-T細胞開発が可能となり、多くの難治性がん患者さまに新しい治療法が提供できると期待されます。

論文情報
タイトル
Development of non-viral, ligand-dependent, EPHB4-specific chimeric antigen receptor T cells for treatment of rhabdomyosarcoma.
著者
Kubo H, Yagyu S, Nakamura K, Yamashima K, Tomida A, Kikuchi K, Iehara T, Nakazawa Y, Hosoi H
雑誌名
Molecular Therapy Oncolytics
DOI
10.1016/j.omto.2021.03.001
タイトル
Autologous antigen-presenting cells efficiently expand piggyBac transposon chimeric antigen receptor T cells with predominant memory phenotype.
著者
Nakamura K, Yagyu S, Hirota S, Tomida A, Kondo M, Shigeura T, Hasegawa A, Tanaka M, Nakazawa Y
雑誌名
Molecular Therapy-Methods & Clinical Development
DOI
10.1016/j.omtm.2021.03.011
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京都府立医科大学大学院医学研究科 小児科学
柳生茂希

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