抗酸化が腫瘍形成に必須であることの新証拠
2020-11-02 京都大学
高橋重成 白眉センター特定准教授、Joan S. Brugge ハーバード大学教授らの研究グループは、酸化ストレス誘導型転写因子NRF2の過活性化が3次元癌スフェロイド(球状集合体)の形成に必須であることを発見しました。さらに、事実上世界初となる3次元培養下でのCRISPRスクリーニングを実施することで、NRF2を介した脂質過酸化の抑制がそのメカニズムの一端を担うことを見出しました。
かつて、抗酸化サプリメントは癌抑制効果があると信じられてきましたが、近年行われた大規模疫学調査により、抗酸化サプリメントの摂取はむしろ癌の発生率を上昇させることが明らかにされました。しかし、酸化ストレスと癌との関連性は詳細が不明でした。
本研究では、肺癌など様々な腫瘍で過活性が認められ、生体内抗酸化物質のマスターレギュレーターとして機能するNRF2に注目し、その効果を一連の肺がん細胞株において大規模に調査しました。その結果、標準的な培養方法である2次元(平面)培養では、NRF2の過活性が細胞の増殖に影響を及ぼすことはなかった一方、生体内の状態により近い3次元培養下ではNRF2の過活性が細胞の生存・増殖に必須であることがわかりました。また3次元培養下において、CRISPR-Cas9技術(2020年ノーベル化学賞)を用いた大規模スクリーニングを行った結果、NRF2によるフェロトーシス(脂質過酸化による細胞死)の回避がスフェロイド内部細胞の生存に必要であることを明らかにしました。本研究成果は、3次元培養を用いた研究の更なる重要性を示すのと同時に、NRF2の癌に対する新規創薬標的として応用が期待されます。さらに癌予防の観点において、抗酸化サプリメントは負の側面を持つ可能性を再認識させる結果となりました。
本研究成果は、2020年10月31日に、国際学術誌「Molecular Cell」のオンライン版に掲載されました。
図:NRF2の過活性がスフェロイド内部細胞の生存に必須であることを示している。((c)Rachel Davidowitz)
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1016/j.molcel.2020.10.010
Nobuaki Takahashi, Patricia Cho, Laura M. Selfors, Hendrik J. Kuiken, Roma Kaul, Takuro Fujiwara, Isaac S. Harris, Tian Zhang, Steven P. Gygi, Joan S. Brugge (2020). 3D Culture Models with CRISPR Screens Reveal Hyperactive NRF2 as a Prerequisite for Spheroid Formation via Regulation of Proliferation and Ferroptosis. Molecular Cell.