化学療法薬に対する薬剤耐性のメカニズムを解明

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2021-09-28 庄内地域産業振興センター,慶應義塾大学先端生命科学研究所,国立がん研究センター

研究成果のポイント

  • 化学療法薬の一つであるペメトレキセド(製品名:アリムタ)に耐性の悪性胸膜細胞株を樹立し、その薬剤耐性機構のメカニズムを明らかにした。
  • ペメトレキセド耐性細胞では薬剤の標的酵素の過剰発現が誘導されており、遺伝子発現解析及びメタボローム解析により、薬剤耐性を誘導する原因遺伝子を同定した。
  • 悪性胸膜中皮腫の治療において、代謝産物や代謝酵素を代謝バイオマーカーとして開発する道筋を示した。

庄内地域産業振興センター(山形県鶴岡市、皆川治理事長)と慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市、冨田勝所長、以下先端研)および国立がん研究センター(東京都中央区、中釜斉理事長)との共同研究において、国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点の牧野嶋秀樹チームリーダーらが、化学療法薬の一つであるペメトレキセド(製品名:アリムタ)に耐性のある悪性胸膜細胞株を樹立し、その薬剤耐性機構のメカニズムを明らかにしました。ペメトレキセドは葉酸代謝拮抗薬の一種で、がん細胞内の核酸(注1)の生合成を阻害する薬剤です。ペメトレキセド耐性細胞では、薬剤の標的酵素の過剰発現が誘導されており、遺伝子発現解析及び先端研の持つメタボローム解析技術により、薬剤耐性を誘導する原因遺伝子の同定につながりました。

悪性胸膜中皮腫とは、公害の一因となっているアスベスト(石綿)を主な原因とする中皮腫の一種で、アスベストへの暴露から約40年の潜伏期間を経て、肺を覆う胸膜に発症する悪性腫瘍です。現在、有効な治療方法がなく、新たな治療方法の開発が望まれています。日本国内ではアスベストの悪性胸膜中皮腫による死亡者数が増加傾向にあり、アスベストの完全製造・使用禁止が2012年であることから、今後も同様の水準で推移することが予想されます。近年では、2018年8月に新たな免疫治療薬として「オプジーボ(一般名:ニボルマブ)」が認可され、複数のがん腫において重要な治療選択肢となっています。

本研究成果は、悪性胸膜中皮腫における治療に有用な代謝バイオマーカー(注2)の探索や薬剤耐性機構の更なる解明に繋がることが期待されます。

今回の発表は、3研究機関における共同研究での論文発表であり、2021年9月27日午前6時(日本時間9月27日午後1時)、スイス薬学専門誌『Frontiers in Pharmacology』のオンライン版にて発表されました。

用語解説

(注1)核酸
情報の保存と伝達を担うRNAとDNAといった生体内物質の総称。本研究グループでは、がんの発症に伴い、核酸に関連する生体内物質のバランスが変化し、がん進展の要因になっているのではないかと考えている。

(注2)代謝バイオマーカー
生体内において、正常な場合と比較し、病気等で特異的に変化する代謝物質のこと。唾液によるがんの診断など、疾患の早期発見に活用されている。

発表論文

雑誌名
スイス薬学専門誌 『Frontiers in Pharmacology』

タイトル
Upregulation of thymidylate synthase induces pemetrexed resistance in malignant pleural mesothelioma

著者
佐藤雄三、冨田勝、曽我朋義、落合淳志、牧野嶋秀樹

DOI
10.3389/fphar.2021.718675

研究費

がんメタボローム研究推進支援事業費補助金(山形県鶴岡市)

国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点がんメタボロミクス研究室について

国立がん研究センターのがんのメタボローム研究分野の研究拠点として、 山形県鶴岡市に2017年4月に設置。鶴岡連携研究拠点では、学校法人慶應義塾と連携し、慶應義塾大学先端生命科学研究所が有するメタボローム解析を活用した、がんの診断薬などの開発等に向けた研究を実施している。また企業との共同研究をより積極的に推進することにより、がん代謝の分子基盤に基づいた新しい診断・治療法開発を進めている。

報道関係からのお問い合せ先

国立研究開発法人国立がん研究センター・鶴岡連携研究拠点
がんメタボロミクス研究室 チームリーダー 牧野嶋 秀樹

慶應義塾大学先端生命科学研究所 渉外担当

国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)

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