低コストで簡易なウイルス検出技術の実用化を加速
2021-10-01 京都府立大学,科学技術振興機構
ポイント
- 京都府公立大学法人京都府立大学の塚本 康浩 学長らの研究グループは、このたび、ダチョウ抗体を担持した口元フィルター入りの不織布マスク(以下「ダチョウ抗体担持マスク」という。)を用いることにより、呼気からのSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)の可視化が、蛍光抗体法で肉眼でも可能であることを見いだしました。
- 新型コロナウイルス感染者が8時間使用したダチョウ抗体担持マスク(臨床検体)からも、ウイルスの存在が確認でき、光源ボックスを用いて、同マスクに捕捉されたウイルスの可視化(目視)技術の開発に成功しました。
- また、光源LED紫外線ブラックライトおよびスマートフォンのLED光を用いた場合も、ダチョウ抗体担持フィルター上のウイルス抗原の可視化に成功しました。これにより家庭内でも簡単にマスク上のウイルスの可視化が可能となります。
- 今後、自家蛍光(バックグランド・ノイズとなるマスク素材自体からの蛍光)が極めて少ない不織布フィルターの開発、ダチョウ抗体担持マスクに捕捉されたウイルス抗原を強く可視化させるための光波長の選定などの研究を加速し、ダチョウ抗体担持マスクとスマートフォンのLED光による、変異株を含むウイルス検出法を確立し、無発症および未発症感染者からのウイルス排出を低コストで迅速に検出する技術の実用化を進めます。
- 実用化に関しては、米国 スタンフォード大学 医学部での臨床検体での検証を経て、京都府立大学発ベンチャー(オーストリッチファーマ株式会社[京都府精華町]、株式会社ジールバイオテック[大阪府吹田市])と検査機器メーカーが製品化(検査キット化)し、国内外で販売する予定です。なお、本技術は特許出願済みです。
コロナウイルス変異株のスパイクたんぱく(抗原)の作製
新型コロナウイルスの変異株のスパイクたんぱくの遺伝子を大腸菌ベクターに組み込み大量精製し、これをヒトHEK細胞に遺伝子導入することで、リコンビナントたんぱく質を精製。これをダチョウに免疫(注射)し、ダチョウの卵黄から高純度の抗体を回収。得られた抗体の反応性と特異性や性能は、ELISA法(抗体と抗原の反応性を発色や発光により計測する免疫学的測定法)とウイルス感染実験により測定し、有用性を確認しました。また蛍光標識する抗体には、コロナウイルス粒子全体に反応するダチョウ抗体を作製。これにより、フィルター上ではコロナウイルスのスパイクたんぱくにダチョウ抗体が特異的に結合し、結合したウイルス粒子全体に蛍光標識した抗体が結合するため、特異性と反応性に優れています。
新型コロナウイルスを最大限に捕捉するダチョウ抗体担持フィルターの作製
不織布に抗体を物理的に担持する方法、ポリ乳酸を配合し抗体を共有結合させる方法などを用いて、大量作製したダチョウ抗体の活性を最大限に保持できるフィルターの開発を行いました。ウイルスの可視化にはフィルターに液相が必要となるため、その素材での抗体保持性をELISA法により検証しながらフィルター上の抗体担持量とウイルス抗原量を変化させ、最小限のウイルス量でも捕捉できるフィルターへと最適化しました。
プローブとしての2次抗体の作製・選定
ダチョウ抗体担持フィルターに捕捉されたウイルス粒子を可視化するために、複数の蛍光・発光色素や酵素を標識した2次抗体(コロナウイルスを認識するダチョウポリクローナル抗体)を作製し、目視で発色・蛍光が判定できる標識法と基質などの選定を行いました。
新型コロナウイルスの可視化
実験室内でウイルス抗原を液化したダチョウ抗体担持フィルター、および新型コロナウイルス感染者が使用したダチョウ抗体担持マスク(口元フィルター)に、2次抗体を反応させた上で、一定の波長の光を照射することで、新型コロナウイルスの可視化に成功しました。光源の1つとしてスマートフォンのLED光を使用した場合も、ダチョウ抗体担持フィルター上のウイルスの可視化が可能なことを確認しました。
本研究開発は、以下の支援を受けて行われました。
研究開発課題名:科学技術振興機構(JST) 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウトタイプ
「ダチョウ抗体を用いたCOVID-19スーパースプレッダーの迅速検出法の開発」
研究代表者:塚本 康浩(京都府立大学 学長)
A-STEPトライアウトタイプは、「with/post コロナ社会の変革」や「社会のレジリエンス向上」を含めた社会課題の解決に資する、大学等の研究成果に基づいた、開発ニーズを持つ企業等が着目する技術の実現可能性を検証するための試験研究を、令和3年度公募を前倒しする形で実施し、民間企業の投資意欲を刺激するとともに、with/post コロナ社会に資する新規性と社会的なインパクトを有する研究開発成果の社会実装を加速することを目指します。
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
塚本 康浩(ツカモト ヤスヒロ)
京都府立大学 学長
<JST事業に関すること>
佐藤 喜一(サトウ ヨシカズ)
科学技術振興機構 産学連携展開部 地域イノベーショングループ
<報道担当>
京都府立大学 産学公連携リエゾンオフィス
科学技術振興機構 広報課