2022-02-0-22 東京大学,科学技術振興機構
ポイント
- 睡眠時に特定の神経細胞で観察される活動パターン(睡眠紡ぼう錘すい波発火パターン)の新規数理モデルを構築し、モデルのシミュレーションと力学系理論に基づいて睡眠紡錘波発火パターンの制御メカニズムを明らかにしました。
- 本モデルについて分子的・数学的に詳細に解析し、①カリウムチャネルの特性が睡眠紡錘波発火パターンの生成に重要な役割を果たすこと、および②神経細胞膜を通過する内向き・外向き電流のバランスが睡眠紡錘波発火パターンの密度および細胞内カルシウム濃度を制御し得ることを明らかにしました。
- 本研究で明らかにされた睡眠時に特徴的な神経活動パターンの制御の根底にある設計原理は、記憶の制御などの神経機能と睡眠との関係や、神経細胞集団の活動を制御する仕組みの解明に資することが期待されます。
東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学分野の上田 泰己 教授(理化学研究所 生命機能科学研究センター 合成生物学研究チーム チームリーダー兼任)、山田 哲矢 氏、史 蕭逸 助教(理化学研究所 客員研究員兼任)は、ホジキン・ハクスレーモデルをベースにした数理モデルを用いて、睡眠時に特定の神経細胞で観察される睡眠紡錘波発火パターンを制御する分子メカニズムと、その背後に潜む力学系理論を明らかにしました。
多数の神経細胞の集合的な活動がどのように制御されているのかを理解することは、脳の機能を理解する上で必要不可欠です。ヒトをはじめとする哺乳類の睡眠時には、特定の神経細胞集団において徐波発火パターンや睡眠紡錘波発火パターンなどの特徴的な発火活動が観察されます。これまでの本研究グループの数理モデルを用いた研究によって、徐波発火パターンの制御機構が明らかにされてきました。今回、本研究グループはもう一方の睡眠時に重要な神経細胞集団の発火活動である睡眠紡錘波発火パターンに着目しました。まず詳細な分子的・数学的解析が可能な睡眠紡錘波発火パターンの数理モデルを構築しました。続いて、数理モデルの大規模なシミュレーションと力学系における分岐現象の解析に基づいて、①遅延整流性カリウムチャネルの特性が睡眠紡錘波発火パターンの生成に重要な役割を果たすこと、および②神経細胞膜を通過する内向き・外向き電流のバランスが睡眠紡錘波発火パターンの密度および細胞内カルシウム濃度を制御し得ることを明らかにしました。この結果は睡眠時に特徴的な発火パターンを制御する数学的なメカニズムを示しており、記憶の制御などの神経機能と睡眠との関係や、脳波活動の基礎となる神経細胞活動の制御機構の解明の一助となることが期待されます。
本研究は、米国の科学雑誌「iScience」(2月18日付け:日本時間2月19日)に掲載されました。
本研究は、科学技術振興機構(JST) ERATO「上田生体時間プロジェクト」の一環として行われました。
<論文タイトル>
- “A Design Principle of Spindle Oscillations in Mammalian Sleep”
- DOI:doi.org/10.1016/j.isci.2022.103873
<お問い合わせ先>
<研究に関すること>
上田 泰己(ウエダ ヒロキ)
東京大学 大学院医学系研究科 機能生物学専攻 システムズ薬理学分野 教授
<JST事業に関すること>
今林 文枝(イマバヤシ フミエ)
科学技術振興機構 研究プロジェクト推進部 ICT/ライフイノベーショングループ
<報道担当>
東京大学 医学部 総務担当
科学技術振興機構 広報課