日本と欧米の大腸がん治験・臨床試験データ約43,000例を共有~ARCADデータベースプロジェクトで国際的なデータシェアリング環境を構築しがん医療の研究開発を促進~

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2022-08-04 国立がん研究センター,The ARCAD Foundation,Mayo Clinic

発表のポイント

  • 国立がん研究センター東病院(以下東病院)およびThe ARCAD Foundation(以下ARCAD(アルカド)財団、米国)、Mayo Clinic(以下メイヨークリニック、米国)は収集した治験・臨床試験データを共有し、ARCADデータベースプロジェクトにおける大腸がん領域約43,000例のデータシェアリング環境を構築しました。
  • 東病院からメイヨークリニックにアジア6試験・974例の治験・臨床試験データベース(ARCADアジア*1データベース)が共有され、メイヨークリニックが欧米50試験・42,095例のデータベース(ARCADデータベース)と統合し、計56試験、約43,000例からなるグローバルデータベースが構築されました。日米欧3つのデータセンターで同じデータベースを保有することにより、世界的な共同研究の仕組みが完成しました。
  • 今後、継続的にデータベースを共有し、国際協調を軸としたエビデンス創出とデータの利活用を行う体制を構築することで、一人でも多くの患者さんが最善の治療を受けられるよう、がん医療の研究開発を促進します。

概要

国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:大津 敦、千葉県柏市)とARCAD財団(代表:Aimery de Gramont、仏国)、メイヨークリニック(プロジェクト代表者:Qian Shi、米国)は、東病院およびARCAD財団、メイヨークリニックが収集する治験・臨床試験データを共有し、ARCADデータベースプロジェクトにおける大腸がん領域約43,000例のデータシェアリング環境を構築しました。

2022年6月30日、東病院からメイヨークリニックにアジア6試験・974例のARCADアジアデータベースが共有され、ARCADデータベースを管理するメイヨークリニックが欧米50試験・42,095例のデータベースと統合し、計56試験、約43,000例からなるグローバルデータベースを構築しました。今般、日米欧の3つのデータセンターで同じデータベースを保有することにより、世界的な共同研究の仕組みが完成しています。

東病院は、アジアを中心として過去に行われた治験・臨床試験のデータを収集・統合し、医薬品の研究開発等への利活用を行うことを目的としたデータシェアリング事業「ARCADアジア」を2021年9月より運営しています。一方、欧米では2000年代後半より、ARCAD財団およびメイヨークリニックが進行再発大腸がん臨床試験データの統合データベースプロジェクト「ARCADデータベースプロジェクト」を開始しました。2021年9月15日に国立がん研究センターとARCAD財団の間で基本合意書が締結され、現在ARCADデータベースプロジェクトは、Aimery de Gramont教授(エイメリーデグラモン、ARCAD財団)とQian Shi教授(チアンシー、メイヨークリニック)、吉野孝之医師(東病院)の3者で共同運営を行っています。

ARCADデータベースプロジェクトは、今後も継続的にデータベースを共有します。さらに、国際的なアカデミア連携等を含めた利活用の在り方について具体的な検討を進め、国際協調を軸としたエビデンス創出を行う体制構築を目指して、プロジェクトを加速していきます。

吉野 孝之医師(東病院 副院長/消化管内科長)からのコメント

「ARCADデータベースがアジアに拡大されたことは喜ばしいことです。ARCADデータベースにアジアのデータを加えることで、例えば人種差などを正確に調べることができるようになります。また、アジアの研究者が世界をリードする人材に成長するきっかけになる可能性もあります。ARCADデータベースプロジェクトは、大腸がんのデータベースだけでなく、他のがん種を含むより大規模で包括的なデータベースに成長するよう努力しています。」

Aimery de Gramont教授(ARCAD財団)からのコメント

「ARCAD臨床試験プロジェクトは、大腸がん治療の新しい評価方法に関する国際的なガイドラインを策定するため2007年6月に発足した野心的で、国際的な一大プロジェクトです。本プロジェクトは、ARCAD データベースと改称され、現在、世界各国90名以上の専門家が、科学委員会であるARCADグループを構成し、このプロジェクトに積極的に参加しています。委員会は、米国と欧州でそれぞれ年2回開催され、構成員は、治療試験の方法論を進化に向けて国際的な査読付き雑誌に掲載される年間数本の論文「ポジションペーパー」を執筆しています。このたび吉野医師のリーダーシップのもと、日本の国立がん研究センター東病院と新たな協力関係を結び、アジアからの新しい研究をこのデータベースに含め、またARCAD アジアデータセンターが構築されたことは、喜ばしい限りです。

国立がん研究センターは、臨床研究が活発で開発の生産性が高い拠点の一つとして、国際的に高い評価を受けています。そこに、ARCADアジアデータセンターが構築され、ARCADデータベースの独立と自律性を保ちつつ、今後の研究の質の高さを保証し、アジア産業界や各国からの期待と支援につながると考えています。」

Qian Shi教授(メイヨークリニック)からのコメント

「メイヨークリニックの統計チームは、大腸がんARCAD データベースの設立以来、de Gramont 教授および ARCAD財団と協働しています。このデータベースは、生物統計学と腫瘍学の世界的な第一人者である Daniel J. Sargent (ダニエルサージェント)博士が、様々な分野の研究者をまとめ、国際的にアカデミアと産業界の間でデータ共有を確立したことが始まりです。Sargent 博士の遺志を継ぐことができて光栄に思います。2008年から大腸がんARCADデータベースに取り組み、最近では東病院の同僚と一緒に取り組んでいますが、多くの優秀な腫瘍内科医、外科医、統計家、その他の関係者と協力できることをとても幸運に思っています。また、一流誌や国際会議で発表された臨床的にインパクトのある論文の多くが、私たちが構築に携わったデータベースに基づいているのを見ると、非常に興奮します。

個人的には、アジアの臨床試験がARCADに参加したことは画期的なことだと思っています。ARCADのデータベースは真に国際的なものとなりました。日本の統計チームと肩を並べ、ARCADデータベースの統合に継続して取り組むなか、日本の仲間の専門知識と献身的な努力に大変感銘を受けます。私とメイヨーチームは、ARCAD財団とARCADアジアのメンバー双方との新しい協業事業と冒険をとても楽しみにしています。」

日本と欧米の大腸がん治験・臨床試験データ約43,000例を共有~ARCADデータベースプロジェクトで国際的なデータシェアリング環境を構築しがん医療の研究開発を促進~

今後の展望

ARCADデータベースプロジェクトでは、世界的ながんの治験・臨床試験データベースによる豊富なデータを用いた各種解析による世界規模でのエビデンス創出と治療開発を促進します。また、レギュラトリーサイエンス*2上の課題を体系的に評価し、国際協調のもと治験・臨床試験および薬事承認プロセスにおけるエンドポイント*3に関する提言を行います。さらに、国際的なアカデミア連携を通して、グローバルリーダーとして活躍できる人材を育成することを目指します。

施設概要

国立研究開発法人国立がん研究センター (https://www.ncc.go.jp/jp/index.html)

国立がん研究センターは、1962年に国立機関として創設され、がん研究・がん医療における国立の中核機関として、先端的な研究を牽引してきました。国立がん研究センター東病院は、1992年に設立され、年間9,000人を超える新患の方が訪れる国内トップクラスのがん専門病院です。世界最高レベルのがん医療の提供と新しいがん医療の創出をミッションに掲げ、国の「臨床研究中核病院」、「がんゲノム医療中核病院」などに選定されています。併設する先端医療開発センターとともに、国際的なネットワークを基盤とした研究開発の拠点として、先進的ながん治療薬・医療機器開発やゲノム医療をはじめとした最先端の個別化治療を推進し、多数の実績を上げています。

ARCAD財団 (https://www.fondationarcad.org/en)(外部サイトにリンクします)

2006年に慈善目的で設立された公益財団であり、創設者はAimery de Gramont教授です。ARCAD財団は仏国内外で消化器系がんに関する研究および患者支援プログラム等の様々な取り組みを行っています。

次の3つの目的のもと、フランス国内外で幅広い取り組みを行っています

– 一般市民と医療従事者に、消化器系がんの予防と早期発見の必要性を認識させ、意識を向上させること
– 消化器がんの分野における患者ケアと臨床研究の改善を促進すること
– 消化器がんに苦しむ患者に対し、より良い情報とサポートを提供すること

メイヨークリニック

メイヨークリニックは、臨床、教育、研究に取り組む非営利団体であり、癒しを必要とするすべての人に専門的で全人的なケアを提供しています。メイヨークリニックの使命は、臨床、教育、研究を統合し、すべての患者さんに最高のケアを提供することにより、希望を与え、健康と福祉に貢献することです。主な価値観は、”The needs of the patient come first”(患者さんのニーズを最優先する)であり、他のどの医療機関よりもその質の高さがトップランクであるとされています。ミネソタ州のメイヨークリニックは、U.S. News & Wold Reportによって2022-2023年の全米ベスト病院に認定されています。

【メイヨークリニック総合がんセンター(https://www.mayoclinic.org/departments-centers/mayo-clinic-cancer-center)】(外部サイトにリンクします)

メイヨークリニックには、毎年15万人以上のがん患者が来院しています。あらゆる種類のがんの診断と治療において豊富な経験を持つ専門家が、患者ニーズに合わせた優れたケアを提供するためのリソースを提供することを可能としています。U.S. News & World Report誌は、メイヨークリニックを常に全米のがん専門病院の上位に位置づけています。

メイヨークリニック総合がんセンターは、米国国立がんセンター(NCI)から総合的ながんセンターとして指定されており、メイヨークリニックにおける著名な医師、研究者、科学者が、患者のニーズに応え、最新のテクノロジーと治療法を開発するために、チームでの患者中心の研究を行うことを意味しています。その結果、がん治療のためにクリニックを訪れる人々は、あらゆるフェーズの何百もの臨床試験にアクセスすることが可能となっています。

また、メイヨークリニックの研究者は、がん患者さんへの対応を向上させることを目的とした、主要ながんセンターの非営利連合であるNational Comprehensive Cancer Networkの他のメンバーとも連携しています。

用語解説

*1 ARCADアジア(Aide et Recherche en Cancérologie Digestive Asia:アルカドアジア)
東病院内に「ARCADアジア運営事務局およびデータセンター」を設置し、各製薬企業等との間でデータ提供に関する共同研究契約を結び、コンソーシアム内におけるデータシェアリング体制を構築している。切除不能進行再発(ステージ4)大腸がんの治験・臨床試験データを対象にシェアリングを開始し、今後アジアに多いがんの種類の拡大も視野に入れ、プロジェクトを推進。2022年7月現在、ARCADアジアと企業・アカデミア等のデータ提供者との間で、大腸がんの臨床試験データ計11試験・2,974例の契約締結を完了し、データ統合の作業を進めている。

◆運営委員(2022年7月現在):

大津 敦(東病院長)、前原 喜彦(九州大学 名誉教授、公立学校共済組合九州中央病院長)、吉野 孝之(東病院 副院長/消化管内科長)、沖 英次(九州大学大学院 医学研究院 消化器・総合外科 准教授)、山崎 健太郎(静岡県立静岡がんセンター 消化器内科部長兼治験管理室長)、坂東 英明(東病院 消化管内科 医長/医薬品開発推進部門 医薬品開発推進部長)、寺島 雅典(静岡県立静岡がんセンター 副院長)、設楽 紘平(東病院 消化管内科 医長)

◆参考

2021年9月30日プレスリリース
アジア圏のデータシェアリング環境を主導し、世界の研究開発のリードを目指す 国際臨床試験データシェアリング事業「ARCADアジア」始動
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2021/0930/index.html

ARCADアジアホームページ
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/division/arcadasia/index.html

*2 レギュラトリーサイエンス
科学技術の成果を人と社会に役立てることを目的に、根拠に基づく的確な予測、評価、判断を行い、科学技術の成果を人と社会との調和の上で最も望ましい姿に調整するための科学。

*3 エンドポイント
 臨床試験における医薬品等の有効性や安全性をはかる評価指標。

問い合わせ先

本プロジェクトに関するお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター東病院
ARCADアジア運営事務局/リサーチアドミニストレータ室 室長 板垣 麻衣

ARCAD財団
Dr Lama SHARARA, Director general, CEO
4 Rue kléber, 92300, Levallois-Perret, France

メイヨークリニック
Dr. Qian Shi, Professor of Biostatistics and Oncology
Mayo Clinic, 200 First Street SW, Rochester, MN 55905, USA;

取材・報道関係からのお問い合わせ
国立研究開発法人国立がん研究センター
企画戦略局 広報企画室(柏キャンパス)

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